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肉牛

  
  
 第七話:肉牛 
  
 

夏のBBQに欠かせない食材、ビーフ。なかまちジョージが満を持して、大作ビーフの説明に挑戦します。奥の深いビーフのお話はどこまで続くか。それではお話のはじまりはじまり。

畜牛の歴史
世界史の中で、家畜として育てられた牛の肉を食べ始めたのは意外と早く、8,500~9,000年前の西アジアまでさかのぼる。日本には、朝鮮半島から在来種が渡ってきたのが縄文時代の終わり頃と考えられているが、その頃、どんな手段でどんな船に乗っかってきたんだろうか。ロマンのある牛の歴史でもある。

しかし飛鳥時代になり、仏教の伝来と共に朝廷から度重なる肉食禁止の令が発令され、肉食は次第にタブーとされていく。そして日本では明治の初めまでの長い間、牛は農耕と運搬のための役牛として使われており、日常一般的に食されるようになったのは、大正時代に入ってからだと言われている。

それ以前の明治初めから兵庫県但馬で本格的な和牛の品種改良が始まっており、現在、世界に誇れる黒毛和種が誕生することになった。しかし日本で改良された牛の中でも“和牛”と表示できるのは黒毛、褐毛、日本短角、無角和種の4種類だけで、その中で銘柄牛として知られているのが「神戸牛」「松坂牛」「米沢牛」「近江牛」だ。これらは特に優れたブランド商標でもあるが、1991年の牛肉の自由化前後から各地で相次いでニュー・ブランドが生まれ、今では全国で100以上の銘柄があると言われている。また「和牛肉」はあまりにも高価なため、今では乳用種のホルスタインのオスを肥育した「乳用種去勢牛肉」という新しい種が国産牛肉として扱われ、大衆から大きな支持を受けているようだ。

アメリカでの牛の選別方法
日本では種別、性別、産地が大切なポイントなのだが、ここアメリカではどうなんだろう。

種別としては、「ショートホーン」「アバディーン」「ヘルフォード」「アンガス」「ホルスタイン」などが有名だが、「アンガス」以外はブランド商標としてマーケットなどで表示されることはなく、耳にすることもまずない。そして性別においては、食肉牛だけが変わった分け方をされる。子供を産んだことのあるメス牛を「カウ(cow)」、子供を産んだことのない処女メス牛を「フェファード(hereford)」、去勢されていない雄牛を「ボウ(bull)」、去勢されている牛を「ステアー(steer)」とそれぞれ呼び、3種性別の、4種分けとなっている。

ステーキとして食べられる肉質の柔らかいものはフェファード、ステアーだけで、ボウとカウはすべてがグラウンド・ビーフかドッグ・フードに加工される。しかしこれらもすべて生体における専門用語で、商品にはまったく表示されていない。これらの生体がUnited States Department of Agriculture(米国農務省)、通称USDAの血液検査によって1頭ずつ、病気の有無を調べられ、これにパスした牛だけが初めて畜されて枝肉になって市場に出てくる。そしてやっとこの時点から、我々一般消費者が耳にする名前が登場してくる。それが脂のノリと肉質のきめ細かさで3段階に分けられる「プライム」「チョイス」「セレクト」である。しかし、これら3種はすべてステーキ用にもなる高級肉であるにもかかわらず、どうしてあんなにも価が違うのだろうか。これはそれぞれのランクにおける、飼育期間の長さに比例している。

肉のランクはこうして決まる
アンガス牛の場合、「セレクト」を取るためにはフェファードを最低でも1,000パウンドの体重まで育てあげなくてはならない。「チョイス」を取るためには、1,200パウンド以上の体重が必要で、飼育期間は16カ月間。「プライム」を取るためには、同じように1,300パウンド以上の体重が必要で、20カ月以上の飼育期間が必要となる。ちなみに和牛になると、1,600パウンド以上にするために30カ月近くの時間が必要で、その分時間と手間がかかるため、どうしても高額になる。また飼育形態にも「グラスフェッド(牧草飼育)」と「グレインフェッド(穀物飼育)」の2種類があり、前者はアメリカ人の好きな赤身の多い肉になり、後者はほとんどが日本向けの、適度に脂肪が付いた柔らかい肉用に作られていく。

そしてこのような高級肉において、本当の旨みを味わうために絶対に忘れてはならないのが、「熟成」である。畜直後の肉は軟らかいが味がない。その後、死後硬直を起こし、一度肉は固くなる。この時、冷蔵庫の中で低温貯蔵することによって硬直がゆっくり解け、再び軟らかくなる。それに旨み成分であるイノシン酸が体細胞内の酵素の働きによって生成され、より肉の味と香りが引き出される。これが「エージング」である。アメリカの場合は最低でも10日間程、理想的には21日間が最高と言われているが、日本の高級和牛になると、脂肪の周りにカビが生えるまで2カ月間という、長い時間をかける店もあるそうだ。

  
 第八話:肉牛 
  
 

日本人は肉牛の部位名をどれほど知っているのだろうか? アメリカ人の食のボキャブラリーの少なさを笑う前に知っておくべき“転ばぬ先の杖”をなかまちジョージが伝授。おはなしのはじまりはじまり。

ニューヨーク、サーロイン、トップ・サーロイン、トップ・ロイン、トップ・ラウンド。これらはすべてステーキの名称だが、皆さんは全部、説明できるかな?今回はBeef Chartを元に、アメリカのスーパーマーケットなどで売られている代表的な商品名と日本での呼び方、およびそれぞれの用途を説明します。

Beef Chart

Chuck
代表的な商品名:Chuck Eye Roast、7-Bone Steak、Shoulder Pot Roast
日本での呼び方:ネック、肩、肩ロース

ネックはひき肉、こま切れ、スープの材料または煮込み料理に、肩はエキス分やゼラチン質に富み、味が濃いため、スープストックや煮込み料理、薄切りにして並のすき焼き、しゃぶしゃぶにも使われる。
肩ロースのロースとは背中の筋肉部分を示す名称で、頭に近い部分から肩ロース、リブロース、ショート・ロイン、そして尻に一番近いところがサーロインと呼ばれる。日本ではこれらすべてがロースの部位とされる。
肩ロースの肉質はやや、きめが粗く硬い。薄切りにして並のすき焼き、しゃぶしゃぶ、ローストビーフ、筋切りをすれば十分ステーキにもなる。

Rib
代表的な商品名:Rib Roast、Rib Steak、Rib Eye Steak
日本での呼び方:リブロース

肩ロースから続く、柔らかくて一番厚みのある部位。厚切りにすればRib Steak。周りのリップと言われる脂肪をトリムして、切り口の真ん中を楕円形の芯の部分だけにしたものがRib Eye Steak。ヨーロッパではSpencer、Delmonicoと呼ばれる。Rib Roastの塊をそのままオーブンで焼いてしまえば、ローストビーフの最高位のプライム・リブができあがる。
日本では、特上のすき焼き肉、しゃぶしゃぶ、ロース・ステーキに利用される高級部位である。

Short Loin
代表的な商品名:Top Loin、T-Bone、Porterhouse、Tender Loin
日本での呼び方:サーロイン、ヒレ

リブロースから続く背中の部分で、ヒレ、リブロースと同じ最高部位。その昔、イギリスで焼かれたTop Loin Steakがあまりにも上質であったため、王室よりSirの称号をもらうことになったのだが、そこから日本人の名称の混乱が始まる。Beef Chartを見ての通り、Short Loinの中にはSirloinという部分はない。なぜならSirloin SteakはTop Loinという部分を使って焼いたステーキの商品名であるから。これとまったく同じ話がアメリカにもある。昔はアメリカでもTop Loin Steakは大変なごちそうであり、そうしょっちゅう口にできるものではなかった。20世紀に入り、大都市ニューヨークで2センチ以上の厚さに切ったTop Loinのステーキがメニューに登場するが、その後第2次世界大戦後の高度成長の波に乗って、あっという間にアメリカ中に広まった。そのメニューの名が「ニューヨーク・スタイル・ステーキ」。これがいつのまにか「ニューヨーク・ステーキ」という名称で、スーパーマーケットのTop Loin Steakのパッケージにまで使われるようになり、現在に至ってしまった。しかし、ワシントン州のキング郡は2000年に、商品名を部位名または部分名として使うことを禁止した。そのため現在は、部位または部分名を商品名と併記しなければならない。例えば“Short LoinまたはTop Loin(New York Steak)”といった具合だ。用途は高級しゃぶしゃぶ、すきやき、サーロイン・ステーキなど。ヒレは英語でTender Loinと呼ばれ、Short Loinの肋骨の裏側(内臓側)にあり、1頭の牛の肉から3%程しか取れない、円錐形をした最高級部位。単独でステーキにするのもいいが、骨を挟んでヒレのシャトーブリオンとTop Loinの2つの味が楽しめるPorterhouse Steakがおすすめ。

Sirloin
代表的な商品名:Top Sirloin Steak、Flat Bone Steak、Wedge Bone Steak
日本での呼び方:ランプ

Short Loinに続く、腰の部分のロース名。これがまた日本人にとって頭が痛い部位・部分名である。
ここのSirloinとは部位名であり、先のTop Loinを焼いた商品名としてのSirloin Steakとはまったく違う物だと理解していただきたい。事実、マーケットやミート・ショップでパック売りされる時の部分名には、Top、Flat Bone、Wedge Bone、Bonelessなどの形状を表す形容詞や名詞が必ずSirloinの前に付くことになっているから。Sirloinは牛肉の部位の中でも最も利用範囲が広く、ステーキを始めローストビーフ、すきやき、刺身、焼肉などオールマイティーに活躍する部位で、価格も肩ロースと同じく比較的的安いため、重宝される。

Round
代表的な商品名:Round Steak、Top Round Steak、Bottom Round Roast、Rump、Eye of Round
日本での呼び方:外もも

牛のももは、きめが粗く硬いが、比較的大きな塊の部分が取れるため、薄切りステーキや炒め物、ブロックのままコンビーフやポトフなどの煮込み料理に使うのが良い。
Roundの中にRumpという部分があるが、くれぐれもSirloinの日本名であるランプと間違わないように。

Tip
代表的な商品名:Tip Roast、Tip Steak、Tip Ball Steak
日本での呼び方:内もも

外ももと比べると軟らかく、また最も脂肪分が少ないため、現在、健康面からも見直されている部位。厚切りのステーキに向くが、日本の中華の料理人からは“しきんぼう”とか“しんたま”と呼ばれ、特にピーマンと牛肉の細切り炒めにはなくてはならない部位である。

Flank & Short Plate
代表的な商品名:Short Rib、Skirt Steak、Flank Steak
日本での呼び方:もとばら

アメリカではFlankとShort Plateを区別するのだが、日本では一緒にして“もとばら”または“牛ばら肉”と呼ぶ。すきやき用、肉炒め、みんなが大好きな焼肉の特上カルビに使われる部位。そして大衆的な中華料理店に食べに行った時に出て来る、牛肉を利用したほとんどの料理にFlankとSkirtが使われていると思っても間違いない。

Brisket
代表的な商品名:Fresh Brisket、Comed Brisket
日本での呼び方:かたばら

ばら(肋骨の周りの肉)なので、繊維質で硬い。薄切りにして並カルビ、こま切りにしてシチューやミンチ肉などに。

Shank
代表的な商品名:Shank Cross Cuts
日本での呼び方:すね

前後足のふくらはぎの所で、筋は硬いがコラーゲンやエラスチンのたんぱく質が多く、長時間熱を加えるとゼラチンになるため、非常に軟らかくなり食べやすく、長時間の煮込み料理にはかえって最高の部位かもしれない。

どうです? これでややこしいステーキの名称が説明できるようになったでしょう?

  
 第九話:牛肉の副生物 
  
 

副生物といってもさまざまな物がある。臓物は中国やヨーロッパでは昔から利用されていて料理法も多いが、日本でそれを食用とした歴史は新しい。しかし近頃は、味や食感と共に栄養面からも見直され、一般家庭でも幅広く使われるようになってきたようだ。ビタミンやミネラルが豊富で値段も安いが、酵素の働きがほかの部位と比べて非常に活発なため腐敗が早く、鮮度のいい物を手に入れることが第一条件である。

順を追って、牛の副生物の日本での呼び方と部位名、およびアメリカで私達がスーパーで手に入れる時の名称を加えてみることにしよう。

1. レバー(肝臓)アメリカでの呼び方:liver

鉄分が豊富。血液の臭みが強いため、10分程流水に当てて血抜きをしたら牛乳に10分程漬ける。薄切りにしてソテーするが、その時にたまねぎの薄切りも一緒に炒めることを忘れずに。

2. ハツ(心臓)アメリカでの呼び方:heart

ビタミンB1・B2が豊富。筋繊維が細いため、コリコリとした歯ごたえがある。塩水でよくもみ洗いし、鶏の唐揚げと同じ漬け汁を作り、揚げ物にするのが一番旨い。

3. マメ(腎臓)アメリカでの呼び方:kidney

尿酸の匂いが強いため、まず真っぷたつにし、中にある匂いの元の白い筋をできるだけ取り除いてから、流水に30分ぐらい当てる。薄切りにして塩・コショーをし、バターで炒めると、シコシコとした歯触りがして最高だ。

4. ミノ(第1胃)アメリカでの呼び方:gut

4つの胃の中で一番大きく肉厚で歯ごたえがある。筋繊維がとても固いので、切り開き、筋目に沿って直角に包丁を入れ、下処理をすること。アメリカでは、ほとんどのモツ類は下処理が済まされてから売られているため、その辺は気にしなくてもいいかもしれない。
薄目に広くスライスし、塩で網焼きにするのがオススメ。コリコリ感が日本の焼き肉屋を思い出させてくれる。そうそう、上がりに酒を少々振り掛けて。

5. ハチノス(第2胃)アメリカでの呼び方:gut

4つの胃の中で一番大きく肉厚で歯ごたえがある。筋繊維がとても固いので、切り開き、筋目に沿って直角に包丁を入れ、下処理をすること。アメリカでは、ほとんどのモツ類は下処理が済まされてから売られているため、その辺は気にしなくてもいいかもしれない。
薄目に広くスライスし、塩で網焼きにするのがオススメ。コリコリ感が日本の焼き肉屋を思い出させてくれる。そうそう、上がりに酒を少々振り掛けて。

6. センマイ(第3胃)アメリカでの呼び方:bibie tripe

アメリカでは脱色され白いが、活きた物は元々グレー。胃壁が1,000枚のひだのように見えることから、この名が付けられた。
特有の歯ごたえがあるため、それを殺さぬよう食べたい。細切りにして熱湯にサッとくぐらせ冷水に取り、よく冷ましてから酢味噌をかけるといいかも。

7. テッポウ(直腸)アメリカでの呼び方:rectum

高級ソーセージのケーシング(皮)の材料として使われるため、パイク・プレイス・マーケットなどで時々見掛けることがある。

8. コブクロ(子宮)アメリカでの呼び方:uteri

下ゆでしたものが『モツ焼き用』などに出回っているが、家庭ではまず使わないだろう。

9. アキレス(アキレス腱)アメリカでの呼び方:tendon

日本ではおでんの材料。ここでは中華の飲茶料理でよく目にする。湯を何度も替えながら長時間の調理になるため、大変だー。

10. ハラ脂(内臓脂肪)アメリカでの呼び方:kidney suet

特に腎臓の周りに付いた脂肪を『ケンネ脂』と呼び、最高級ヘッドとしてほかと区別する。
イギリスではこの脂を混ぜ込んだパイをクリスマスに食べる習慣がある。特別な甘みがあるこの脂こそ、日本のすき焼きになくてはならない、乳色をした四角い脂の塊である。

11. ハラミ・サガリ(横隔膜筋)アメリカでの呼び方:outside skirt

横隔膜を動かすための筋肉で、軟らかく脂肪分が多くて旨い。日本の焼き肉店で人気のある部位で、肉厚の部位はステーキにしてもイケる。

12. カシラ肉(ほお肉・頭肉)アメリカでの呼び方:cheek meat

ほおやこめかみの部分。日本では加工食品に使われるのがほとんどだが、味が良いため新しい世代のシェフ達によってレストランにも登場するようになった。特に赤ワインとの煮込み料理には最適ではなかろうか?

13. タン(舌) アメリカでの呼び方:tongue

タウリンや脂肪が多い。料理法は私がとやかく説明するより、皆さんの方がよくご存じだと思うので、省略。

14. テール(尾)アメリカでの呼び方:tail

しっぽのこと。畜産物で尾が食用となるのは、牛だけだろう。テール・スープ、テール・シチューに関しても、世の奥様達の方がたくさんのレシピをお持ちのことと思うが、最後に“なかまち流 とっても簡単オックス・テール・スープの作り方”をご紹介。

  1. 輪切りにしたテールを鍋に入れ、水をたくさん入れて煮る。

  2. 弱火で1時間も煮ると肉がほぐれる。ほぐれた肉を取り出し、残った骨だけを煮る、煮る、そして煮る。水分が少なくなったら、再び水を足して2時間程煮る。

  3. 骨を捨て、煮汁を塩・こしょうだけで味を調え、ほぐれた肉と薄切りの玉ねぎのスライスを山程のせて、ただ食べるだけ。やばいっすよ、この味。

ホルモンは何語?

ところで皆さんはホルモン焼きの“ホルモン”が何語だかご存知だろうか? 豚や牛の内臓物は、昔は、食べないで捨てる物だった。“捨てる”という言葉を関西地方では“ほおる”と言うことから“捨てる物=ほおるもん”、それをカタカナに書き換えて“ホルモン”。そう、ホルモン焼きのホルモンは日本語で、それもバリバリの“関西弁”なのである。


文・なかまちジョージ