シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

日本の美術館巡り

根津美術館

都会の雑踏から抜け出し、日本の美に浸る
ファッションの中心地、南青山。このモダンな街の一角に、古都の風情を思わせる大庭園を持つ、和風建築の根津美術館がたたずむ。総金地の六曲一双屏風に顔料で燕子花(かきつばた)の群生を描いた尾形光琳筆の国宝「燕子花図」を含め国宝7点、重要文化財87点など、約7,000点の美術品を所蔵し、その一部を順次公開。絵画や墨蹟、陶磁など、多岐にわたる収蔵品は国内屈指と言える。
 
山梨県出身の実業家、根津嘉一郎氏(初代)は鉄道事業で成功し、余暇に仏像、茶道具、書画や骨董を収集していたが、その美術品を2代目の嘉一郎氏が受け継ぎ1941年、南青山の根津邸で展覧会を開催したのが、根津美術館の始まりだ。戦争で根津邸は焼失したが、美術品は疎開で被災を免れ、1954年、同地に根津美術館が建った。以降、東山御物、仏教美術、南宋絵画といった日本・東洋美術をテーマとする展覧会を開催し、多くの美術ファンを魅了してきた。2006年から3年半、全面休館して大規模な改築を完了。隈 健吾(くまけんご)氏設計の新館は、周囲の自然と調和した静謐な2階建ての和風建築だ。入口へ続くアプローチには黒い玉石が敷き詰められ、竹垣と見事に調和し、足を踏み入れた瞬間に、現実の世界からスーッと抜け出したような気分にさせてくれる。
 
中に入れば、エントランスから広々としたホールへ。自然光が石仏の厳かな姿を浮かび上がらせる一方で、展覧会が行われるギャラリーでは8万個のLEDがまるで自然光のように館内をほのかに照らす。光の演出も見事だ。2階には3つのギャラリーがあり、古代青銅器、工芸、茶道具など、テーマごとに作品を鑑賞できる。
 
ここで美術鑑賞と共に楽しみたいのは、本格的な日本庭園の散策だ。庭内には茶室が4カ所設けられているほか、竹林や石灯篭、仏像が配置され、石畳の小路を歩くうちに東京にいることを忘れてしまう。庭園を眺められるカフェでくつろぐのも味わい深い。

根津美術館
▲大屋根が特徴の根津美術館外観 ©藤塚光政
根津美術館
▲庭園に面したガラス越しに光が差し込む新館エントランス・ホール ©藤塚光政
根津美術館
▲尾形光琳「燕子花図(右隻)」(江戸時代)根津美術館蔵
利用案内
107-0062 東京都港区南青山6-5-1
TEL : 03-3400-2536 
開館時間:10:00 a.m.~5:00 p.m.(入館は4:30 p.m.まで)
休み:月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
交通:地下鉄銀座線/半蔵門線/千代田線表参道駅下車A5出口より徒歩8分/B4出口より徒歩10分/B3出口より徒歩10分、都バス渋88 渋谷~新橋駅前行き「南青山6丁目」下車徒歩5分
www.nezu-muse.or.jp

*情報は2011年8月時点のものです。

成川美術館

箱根・芦ノ湖の岬に立つ現代日本画の殿堂
現代日本画を中心とした4,000点以上の日本画コレクションを誇る成川美術館。中でも、洋画の造形を取り入れるなど、日本画の革新に力を注いだ山本丘人の作品所蔵数は150点に及び、他の追随を許さない。また、岡 信孝、牧 進、関口雄揮、吉田善彦など、現代日本画を代表する画家達の作品所蔵数が日本一であることも特筆に値する。そもそもの始まりは、館主の成川 實氏が山本丘人の作品に引かれ、集めたコレクション。自分の審美眼だけを頼りに、好きな日本画の収集に私財をなげうち、ついに1988年、箱根随一の景勝地に同館を設立した。「収集作品は現代日本画に絞っています。花鳥風月を描いた昔の淡白な絵とは違って、斬新で重厚な表現が多い戦後の日本画の素晴らしさを広く知っていただくのが、当館設立の目的のひとつ。有名作家だけでなく、将来有望な若い作家の作品も収集・展示しています」と、成川氏は語る。
 
全国、また外国からさまざまな人々が同館を訪れ、リピーターも多数。1年中、鑑賞者が途絶えることがない。加山又造、平山郁夫など、巨匠の作品を目当てに来る人もいるが、女性を中心に絶大な人気があるのが、女流画家の第一人者である堀 文子。繊細で鮮やかな色彩の妙と、気品のある作風が特徴で、イタリア・トスカーナを題材とした作品や鳥、草花を描いた代表作を鑑賞するなら、ここがベストだ。
 
美術鑑賞とは別に、この美術館で楽しめることがもうひとつある。それは、富士山の大パノラマ。館内の展望ラウンジでは、左右50メートルに及ぶガラス張りの窓から、真正面に富士の姿を眺めることができる。初めて足を踏み入れた人は、絵画を見る前に富士山に圧倒されて、思わずラウンジにたたずんでしまうことだろう。隣接するカフェでのんびりコーヒーを飲んで過ごすのも良い。半日ほど「美」に浸れば「また来たい!」と必ず思うはずだ。

成川美術館
▲堀 文子「トスカーナの花野」(1990年)
成川美術館
▲展望ラウンジでは、まるで絵画のような富士山の景色を堪能できる
成川美術館
▲加山又造「猫」(1978年)
利用案内
250-0522 神奈川県足柄下郡箱根町元箱根570
TEL : 0460-83-6828
開館時間:9:00 a.m.~5:00 p.m.
休み:なし
交通:小田急小田原駅/箱根湯本駅(小田急フリーパス利用可)からバスで「元箱根港」下車、箱根遊覧船/伊豆箱根遊覧船「元箱根」乗り場そば
www.narukawamuseum.co.jp

*情報は2011年8月時点のものです。

太田記念美術館

畳敷きの展示室で江戸文化の名作を鑑賞
浮世絵は、江戸時代のころからなぜか日本人よりも欧米人に評価が高い。印象派の画家達は浮世絵に深く感銘を受け、ゴッホは歌川広重の「名所江戸百景 亀戸梅屋鋪」の大胆な構図に魅せられて油彩で模写もしている。日本では明治維新後、伝統文化を捨て去り、大あわてで欧米文化を取り入れたからか、浮世絵は人々に疎んじられたようだ。実際、江戸末期から明治時代に膨大な浮世絵が欧米に持ち出されてしまった。ボストン美術館やハンブルク美術工芸博物館などに浮世絵の名作が大量に所蔵されているが、日本に浮世絵がないわけではない。西洋美術のコレクターとして知られる実業家、松方幸次郎氏が欧米から買い戻した8,000点の浮世絵は、東京国立博物館が所蔵している。また、今回紹介する、1980年に設立された太田記念美術館にも名高い絵師の名品が多数。

博多の豪商、太田家の当主であり、東邦生命保険相互会社の元会長、太田清藏氏(第5代、1893~1977年)も松方氏と同様、散逸した浮世絵を取り戻すために、半世紀以上にわたり、欧米で作品収集に努めた。その約1万2,000点余りのコレクションを一般公開するために開設されたのが、太田記念美術館だ。江戸時代の初めから明治時代に至るまでの浮世絵最盛期と言われる300年間の代表作を所蔵し、それらの色彩は今も鮮明に保たれている。

コレクションは、葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」や、歌川広重の「名所江戸百景」の全作品、東洲斎写楽の役者絵など、さまざま。表参道、原宿という東京の一大繁華街に立地しているので、欧米人も多く訪れる。2階建ての瀟洒な美術館は、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えるという、日本の伝統スタイルを取り入れており、中に入ると左側に畳敷きの展示室が。畳の上に座ってゆっくりと浮世絵を鑑賞できる。周辺を散策する合間に、しばし江戸文化に浸ってはいかがだろうか。

太田記念美術館
▲歌川広重「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」(江戸時代)
太田記念美術館
▲東洲斎写楽
「三代目坂田半五郎の藤川水右衛門」(江戸時代)
太田記念美術館
▲葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(江戸時代)
利用案内
150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
TEL : 03-3403-0880  
開館時間:10:30 a.m.~5:30 p.m.(入館は5:00 p.m.まで)
休み:月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
交通:JR山手線原宿駅表参道口より徒歩5分
地下鉄千代田線/副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分
www.ukiyoe-ota-muse.jp

*情報は2011年10月時点のものです。

山種美術館

新築の広々とした空間で楽しむ近代日本画
この絵はどこかで見たことがある……」。そんな経験をしたことが誰にでもあることだろう。教科書で見たり、切手になったりした作品かもしれない。山種美術館を訪れると、そんな「懐かしい絵」に何度も出合うことができる。それらは横山大観(よこやまたいかん)、上村松園(うえむらしょうえん)、小林古径(こばやしこけい)、安田靫彦(やすだゆきひこ)、奥村土牛(おくむらとぎゅう)、速水御舟(はやみぎょしゅう)など、近代日本画家のそうそうたる顔触れの作品だ

中でも、御舟の「炎舞」(重要文化財)は、特に印象深い1枚で、毎年、この絵を見るために美術館を訪れるファンがいるほど。40歳という若さでこの世を去った天才画家、御舟の一大コレクションを誇る山種美術館は「御舟の美術館」と呼ばれることもあるほどだ。

山種美術館のコレクションの中心は、明治以降の近代日本画で、所蔵作品、約1,800点のうち6割以上は、初代館長であり山種証券創立者の山﨑種二(やまざきたねじ)氏が収集したものだ。群馬県出身、米問屋に奉公した後、証券会社を興した人で、若いころから「いつか大好きな絵を自分で買いたい」と願っていた。その思いを込めて初めて買った酒井抱一(さかいほういつ)の掛け軸が贋作だったことにショックを受け一念発起。以来、「人柄が立派な現存画家に会い、好きな作品を直接買う」と心に決めた。財を成してからは大観や松園らと親交を深め、積極的に作品収集を続けた一方、若くして才能のある画家を発掘し、経済的な援助も惜しまなかった。そういう支援のおかげで大成した画家のひとりが、土牛だ。また、美術館設立のきっかけになったのは、親交の深かった大観から「金儲けも良いが、世の中のためになることをやったらどうか」という言葉だったという。

創立45周年を迎える山種美術館は2年前に広尾に移転、新築したばかり。ゆったりしたスペースに恵まれ、心地良く鑑賞に浸れる。

山種美術館
▲速水御舟「炎舞」(1925年)山種美術館蔵
山種美術館
▲村上華岳「裸婦図」
(1920年)山種美術館蔵
山種美術館
▲館内の企画展示室
利用案内
150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
TEL : 03-5777-8600 
開館時間:10:00 a.m.~5:00 p.m.(入館は4:30 p.m.まで)
休み:月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
交通:地下鉄日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分
JR恵比寿駅より都バス日赤医療センター前行き「広尾高校前」下車徒歩1分
www.yamatane-museum.jp

*情報は2011年11月時点のものです。

大倉集古館

日本が誇る国宝仏と古美術が一堂に
アメリカ大使館からほんの5、6分坂を上ると、古めかしい趣のホテルオークラ東京本館が見えてくる。その正面玄関の向かい側に、まるで竜宮城のような不思議な建物があるのをご存じだろうか? 緑青色の瓦屋根の四方が弧を描いてそり上がり、白い壁にひときわ派手な朱色の欄干と窓枠が配されている。知らない人が見たら、「これは一体、何なのか?」といぶかるに違いない。
 
伊東忠太設計のこの建物は大倉集古館と言い、新潟県出身の実業家、大倉喜八郎氏が設立した、日本初の私立美術館である。喜八郎氏は江戸の鰹節店に奉公したのを皮切りに20歳で店を持ち、後に銃砲店を開いたことを機に明治政府の御用商人として活躍。天賦の才を生かして貿易、土木、ホテル、学校などに事業を広げて大倉財閥を築いた。彼は財力をバックに東洋古美術を中心にコレクションを広げたが、そもそもは、明治維新後の廃仏毀釈令で海外に仏教美術が散逸するのを目の当たりにし、何とか食い止めようとしたのがきっかけだった。
 
1918年、集めた美術品を展示するために大倉集古館を設立したが、不運にも1923年の関東大震災で被災し、木造の建物と大半の美術品は焼失してしまった。現在の美術館は、耐震耐火を設備して1928年に再オープンしたものだ。コレクションに含まれる国宝3点の中でも、とりわけ平安末期の木彫「普賢菩薩騎象像」は、見事な造形美と気高さにあふれている。また、喜八郎氏が各国の美術商に競り勝って手に入れたという「如来立像」(重要文化財)の厳かな姿にも圧倒される。ほかに、書跡、陶磁器、能面、能装束などの古美術品、そして2代目の喜七郎氏が収集した横
山大観、川合玉堂といった近代日本画の秀逸な作品も多数所蔵している。
 
年明けから、めずらしい鼻煙壺(びえんこ)を集めた個人コレクションの展覧会が開催される。常設展示の普賢菩薩騎象像など、貴重な美術品と共に、登録有形文化財に指定されている建物や、クラシックな内装もゆっくりと見て回ると楽しい。天井が高いせいか、東洋的な外観と異なり、ヨーロッパの古い美術館を彷彿させる。

大倉集古館
▲国宝「普賢菩薩騎象像」(平安時代)
大倉集古館
▲横山大観「夜桜」(1929年)
大倉集古館
▲1928年に再建された大倉集古館
利用案内
105-0001 東京都港区虎ノ門2-10-3
TEL : 03-3583-0781 
開館時間:10:00 a.m.~4:30 p.m.(入館は4:00 p.m.まで)
休み:月曜(祝日の場合は開館)
交通:地下鉄南北線六本木一丁目駅より徒歩5分、日比谷線神谷町駅4B出口より徒歩7分、南北線/銀座線溜池山王駅13番出口より徒歩8分
www.shukokan.org

*情報は2011年12月時点のものです。

サントリー美術館

和風様式の美術館で観賞する『生活の中の美』
サントリーというと、お酒のイメージが膨らむが、お酒とは直接関係なく、美術館は一貫して「生活の中の美」という理念をもとに美術品を収集・展示している。1961年、丸の内のパレスビル9階に開館し、75年に赤坂見附に移転。ついで2007年春に、六本木ミッドタウン内に「美を結ぶ。美をひらく」というメッセージをもって、新たな美術館を開館した。絵画や彫刻だけが美術品ではなく、日常使う道具、食器、調度品のなかの美を味わい、楽しむということが、このメッセージの意味するところだ。
 
過去50年あまりにわたり、美術館は「生活の中の美」を収集し、その数は3,000点にも及ぶ。尾形乾山の「白泥染付金彩芒文蓋物」などの貴重な重要文化財のほか、長崎系吹きガラスの「藍色ねじり提手ちろり」、鍋島藩窯の「色絵組紐文皿」などの数々は、この美術館ならではの逸品だ。ちろりの鮮やかなブルーと造形美は、ハッとするような印象が残る。ただし、サントリー美術館は常設展を開催しないので、次回「藍色ねじり提手ちろり」にお目にかかれるのは、夏の企画展になりそうだ。年6回の企画展は、毎回個性豊かで美術ファンならずとも楽しめる展開となっている。
 
ところで、サントリー美術館のある地区は、「六本木・アート・トライアングル」と言われるほど、めぼしい美術館が固まっている拠点だ。トライアングルとは、国立新美術館、サントリー美術館、森美術館の3つを結んだ地域を指しており、徒歩でぐるりと3つの美術館を巡ることができる。周辺には、中小の画廊や美術館があり、ほぼ1日中この界隈で美術鑑賞を堪能できる。
 
美術館の設計は、著名な隈 健吾(くま けんご)氏によるもので、建物内部はモダンで静謐な印象の和風様式だ。LEDが発する静かな光がまるで自然光のように館内をほのかに照らし、落ち着いて美術品を鑑賞できる。3階ギャラリーのほか階下にもふたつのギャラリーがあり、スペースもゆったりしている。また、広々としたエントランスに隣接して、ミュージアム・ショップとカフェがある。こちらは美術館が休館でもオープンしているので、気軽に立ち寄ると良い。過去の美術展のカタログも一部手に入る。

サントリー美術館
▲サントリー美術館外観 ©木奥恵三)
サントリー美術館
▲歌川広重「東海道廿一 五十三次 鞠子(隷書版)」
サントリー美術館所蔵
サントリー美術館
▲「藍色ねじり提手ちろり」(日本・18~19世紀)
サントリー美術館蔵
利用案内
六本木・東京ミッドタウン・ガレリア3階
107-8643 東京都港区赤坂9-7-4
TEL : 03-3479-8600
開館時間:10:00 a.m.~6:00 p.m.(金・土は8:00 p.m.まで)
休み:火曜日、展示替え期間
http://suntory.jp/SMA/

*情報は2012年1月時点のものです。

松岡美術館

ゆったりできる都会のオアシスのような美術館
おしゃれでリッチな雰囲気が漂う街、白金台。銀杏並木のプラチナ通りをファッショナブルなシロガネーゼが行き交い、カフェやセレクト・ショップが並ぶ。そんな街の一角に、隠れ家のような素敵な美術館がある。2000年4月にオープンした松岡美術館だ。
 
館長代理の松岡 治氏の話によれば「祖父の松岡清次郎が、若いころから収集した美術品だけを展示しています。年代も作品の種類も様々ですが、祖父の好みによる一貫した共通性があります。個人の審美眼を世に問うつもりで、祖父は美術館を作ったのです」と言う。
 
築地生まれの松岡清次郎は、1912年(明治45年)に商業学校を卒業した後、銀座の貿易商で働き5年後に独立。貿易商・松岡商店を設立して1代で財をなした。冷蔵庫業や不動産業を営む傍ら、アジアやヨーロッパに出掛けては美術品を収集。サザビーズやクリスティーズのオークションでは番号札の数字ではなく、「ミスター・マツオカ」と呼ばれるほどの有名人であった。
 
「人はどんなに偉くなっても、やがて忘れられる。そこへいくと、古代の第1級の美術品は後世に残る」と語っていた清次郎は、81歳にして新橋の自社ビルの中に美術館を開設し、自分の夢を実現した。1975年のことである。その14年後、増え続けた美術品の展示を考え、新たな美術館建設に着手しようとした矢先、95歳にして亡くなった。遺志を継いだ遺族は、清次郎の自宅跡地、白金台の一角に美術館を開設し、今に至っている。
 
「ここでは、シャッター音、フラッシュなしの写真撮影や、鉛筆でのデッサンをしていただいて構いません。午前の鑑賞後に外でランチをしても、入場券の半券を見せていただければ再入場可能です。中庭の四季の彩りを味わいながら、美術品をごゆっくり鑑賞していただきたいのです」と松岡氏はにこやかに話す。ガンダーラ仏、エジプトの石像、名高い中国の陶磁器コレクション、印象派絵画、そして近代日本画にいたるまで、清次郎の美意識で集めた美の集積は実に味わい深い。

松岡美術館
▲「菩薩半跏思惟像(ぼさつはんかしいぞう」(3世紀頃) 灰色片岩
松岡美術館
▲広々とした館内
松岡美術館
▲「色絵風俗絵図平鉢(いろえふうぞくえずひらばち)」
(1700~1740年頃) 古伊万里 有田皿山
利用案内
108-0071 東京都港区白金台5-12-6
TEL : 03-5449-0251 
開館時間:10:00 a.m.~5:00 a.m.(入館は4:30 p.m.まで)
休み:月曜日(月曜が祝日の場合は火曜)
www.matsuoka-museum.jp

*情報は2012年2月時点のものです。

徳川美術館

名古屋が誇る歴史遺産
名古屋に出掛ける機会があったら、ぜひとも徳川美術館を訪れてみるといい。1935年に開館した同館は、知る人ぞ知る名美術館で、尾張徳川家秘蔵の数々のお宝を所蔵している。美術館の展示品は兜や刀はもちろんのこと、尾張藩主(大名)の公的住まいだった名古屋城二之丸御殿を、部分的ながらも忠実に復元し館内に設えている。
 
年に6、7回企画展を開催しているが、中でも恒例の雛人形展は人気が高い。壮麗な建築様式の展示室いっぱいに、徳川家の姫が所蔵していたさまざまな人形が展示される。男雛・女雛の一対の内裏雛を中心に、三人官女や五人囃子を始め、雛壇を豪華に演出する多種多様な「雛のお嫁入りお道具類」がずらりと並ぶ。これらの道具類は、姫が日常使うたんすやいこう、鏡、そして貝合わせに至るまで、すべてに精巧な細工がなされ、かわいらしいミニチュア・サイズにできている。徳川美術館に収蔵されている雛道具は、どれも徳川御三家筆頭の大大名にふさわしい品々で、華やかで愛らしく、品格がある。
 
御三家とは、尾張、紀州、水戸徳川家を指し、江戸時代は徳川将軍家を補佐する役目を担っていた。同館は、御三家筆頭の尾張徳川家の歴代当主が所蔵した「大名道具」に加え、徳川将軍家や紀州徳川家、一橋徳川家などが所蔵していた大名道具を購入したほか、篤志家の寄贈品も収集し、コレクションの充実を図っている。作品は幸いにも、戦中戦後の災禍による被害を免れた。
 
収蔵品は徳川家康の遺品を中心に、初代義直(家康九男)以下、代々の遺愛品や、その家族が実際に使用した物ばかり1万件余りに及ぶ。国宝「源氏物語絵巻」を始め、国宝9件、重要文化財59件、重要美術品46件を含み、所蔵品が豊富で、質の高さと保存状態の良さを誇っている。明治維新、第二次世界大戦を通じて各大名家の道具がほとんど散逸してしまった今日、徳川美術館の収蔵品は貴重であり、唯一の大名家のコレクションとなっている。
 
美術鑑賞の後は、隣接する徳川園で近世大名庭園を再現した池泉回遊式の日本庭園を散策すると楽しい。

徳川美術館
▲武家のシンボル、武具や刀剣を展示する第一展示室
(展示作品は時期により異なる)
徳川美術館
▲「有職雛 狩衣姿 (ゆうそくびな かりぎぬすがた)5対の内」
(江戸時代 19世紀)貞徳院矩姫(かねひめ)(尾張家14代慶勝(よしかつ)夫人)所蔵
徳川美術館
▲桜咲く季節の外観
利用案内
461-0023 名古屋市東区徳川町1017
TEL : 052-935-6262 
開館時間:10:00 a.m.~5:00 p.m.(入館は4:30 p.m.まで)
休み:月曜日、年末年始
www.tokugawa-art-museum.jp

*情報は2012年3月時点のものです。

金沢21世紀美術館

街に開かれた公園のような美術館
前から見てみたいと思っていた金沢21世紀美術館に、念願かなって行ってきた。その話をすると、「私も1度は行ってみたい!」という友人が思いのほか多い。それだけ話題性があり、ほかの美術館と異なる点が多いのだろう。2004年10月にオープンしたこの美術館は、年間入館者数でも群を抜いている。2009年のデータでは1年間に150万人が訪れ、全国で5位を記録。ちなみに1~4位は全部国立美術館だ。なぜにこんなに人気が高いのか。まず、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した妹島和世+西沢立衛/SANAAが建築した話題の建造物であること。収蔵作品は①「1980年以降に制作された新しい価値観を提案する作品」、②「①の価値観に大きな影響を与えた1900年以降に制作された歴史的参照点となるような作品」、③「金沢ゆかりの作家による新たな創造性に富む作品」だけに限っていること。また、金沢市の中心に位置し、周囲に芸術関連施設が集中し、すぐ近くに兼六園と金沢城公園があること。さらに、金沢という街そのものに高い美意識と文化がぎっしり詰まっていること……などなど数え上げるときりがない。今年開館8年目を迎える同館は、新しい美術作品を次々と世界中から集めており、国内外からの鑑賞者も多く、コレクションの評価が高い。
 
建物は地上1階、地下1階建て。芝生の敷地中央にあり、円形の総ガラス張りで、正面といえる面がなく、4つのうちどの入口からでも入館できる。展覧会ゾーンだったら、どれでも好きな展示室から見ていくことができるし、外壁も館内もガラス張りだから明るくて見通しが良く、開放感に満ち溢れている。カジュアルであるのに上品で、子供も大人も、美術作品をインタラクティブに楽しめる趣向が凝らされている。特に、レアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」は、シンプルな作りだが、誰でも中に入りたくなるほど愉快で刺激的。水がないのに泳ぐまねがしたくなる。面白いものが手に入るミュージアム・ショップにも立ち寄ることをお勧めする。

金沢21世紀美術館
▲レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」(2004年)
撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ
金沢21世紀美術館
▲円形、外壁が総ガラス張りの美術館外観
撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ
金沢21世紀美術館
▲外光が明るく差し込む開放的な内観
撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ
金沢21世紀美術館
▲ヤン・ファーブル「雲を測る男」(1999年)
撮影: 中道淳/ナカサアンドパートナーズ
利用案内
920-0962 石川県金沢市広坂1丁目2-1
TEL : 076-220-2800 
開館時間:展覧会ゾーン:10:00 a.m.~6:00 p.m.(金・土曜~8:00 p.m.)、交流ゾーン:9:00 a.m.~10:00 p.m.
休み:月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
www.kanazawa21.jp/

*情報は2012年4月時点のものです。

静嘉堂文庫美術館

三菱財閥歴代社長が築いた東洋美術の宝庫
一昨年、高視聴率を上げたNHK大河ドラマ「龍馬伝」で、主役の龍馬のライバルとして登場した岩崎彌太郎といえば、多くの人の記憶に残っているはずだ。1代で三菱財閥の基礎を築いたのだから、並の器量ではない。土佐藩の身分の低い武家に生まれた彌太郎だが、幼いころから神童と言われ、めきめき出世していった。彌太郎も弟の彌之助も無類の学問好きで漢文を夢中で学んだという。それが、後の静嘉堂文庫美術館設立につながる伏線となった。兄の後を継いで三菱第2代目の社長となった岩崎彌之助は、早くから東洋古美術と和漢の貴重な書物を収集していたが、1892年ごろ、神田駿河台にあった自邸に静嘉堂文庫を開設した。西欧文化が浸食してくる世の中を見て、東洋の文化財が海外に流出するのを防ごうとしたのがひとつの目的だった。1907年に清国の陸心源の旧蔵書約4万4,000冊を購入したが、宋・元の時代の珍しい書物も含まれていたので、中国学界でも大きな話題になった。
 
1924年、父・彌之助の17回忌に際し、岩崎小彌太(三菱4代目社長)はその遺志を継ぎ、現在の世田谷区岡本に洋館と書庫を建造し文庫を移設した。小彌太は古美術の鑑識眼に優れ、国宝の「曜変天目茶碗」や数々の東洋美術品を収集し、1930年に文庫に隣接して美術品倉庫と鑑賞室を構築して父子2代の収集品を収蔵した。
 
1940年、小彌太は文庫の貴重な図書を広く公開して研究者の利用に供するため、財団法人静嘉堂を設立。同時に美術館を造ろうとしたが、戦争の激化で断念せざるを得なかった。1945年小彌太が逝去し、遺言により財団は小彌太夫人から国宝を含む美術品171点の寄付を受けた。また1975年、小彌太夫人の逝去に際しても岩崎家所蔵の大部分の美術品が寄贈され、収蔵品は約6,500点に達した。77年、財団は静嘉堂文庫展示館の一般公開を開始し、以来12年間に45回の企画展を開催。静嘉堂創設100周年の1992年には新館が建設され静嘉堂文庫美術館が開館し、ついに小彌太の念願が実現した。
 
多摩川北部の丘陵地に隣り合って立つ静嘉堂文庫と美術館は、広大な森と美しい庭園に囲まれている。文庫は今年で創設120年の節目を迎え、美術館は開館20周年となる。これを記念した企画展が今年4月から始まり来年3月まで続く。選りすぐりの美術品を鑑賞できる絶好の機会だ。

静嘉堂文庫美術館
▲静嘉堂文庫(右)に隣接する静嘉堂美術館(左)
静嘉堂文庫美術館
▲「曜変天目茶碗」国宝(12~13世紀)中国・南宋時代
※「曜変・油滴天目―茶道具名品展」に出品予定
静嘉堂文庫美術館
▲狩野探幽筆「波濤水禽図屏風(右隻)」 重要美術品(江戸時代 17世紀) 
※「東洋絵画の精華」展・前期(日本絵画)に出品予定
利用案内
157-0076 東京都世田谷区岡本2-23-1
TEL : 03-3700-0007 
開館時間:10:00 a.m.~4:30 p.m.(入館は4:00 p.m.まで)
休み:月曜日(月曜が祝日の場合は火曜)
http://seikado.or.jp

*情報は2012年5月時点のものです。

原美術館

コンテンポラリー・アートに浸れるせいたくな美術館
東京の雑踏の中にいると、日常の煩わしさから抜け出し、アートに囲まれて空想の世界に浸りたくなることがある。それも、からっと晴れた日の午後ならなおさらだ。北品川にある原美術館ならば、都心のどこにいても比較的短時間で訪れやすい。コンテンポラリー・アートというと、なんだかとっつきにくい印象があるかもしれないが、上品な洋館の内外に美しくなじむ作品がセンス良く配置されていて、少しもとんがった感じがしない。このしゃれた建物は、もともと実業家、原 邦造の私邸だった。東京国立博物館本館を設計した渡辺 仁の代表作のひとつで、20世紀初頭のヨーロッパ建築様式を取り入れている。2008年に全面改装し、広い前庭に面したカフェダールも改修された。
 
現在館長を務める原 俊夫は、1950年代にプリンストン大学に留学。ちょうどそのころ、アメリカではニューヨークを中心に、コンテンポラリー・アート(現代美術)が隆盛を誇り、原もその面白さに触発される。友人を通してアーティストやアート関係者との付き合いが広まった。そして彼は、帰国後、美術館を開館することを思いつき、そこから写真、彫刻、オブジェといった現代美術の収集を始めた。多田美波のシャープなデザインのオブジェが庭に置かれ、クスッと笑い出したくなるような森村泰昌の作品がトイレ(これも展示室)でオーラを発し、「可愛い!」と思わず声が出てうきうきする奈良美智の部屋(本当に部屋の中に作品がぎっしり)をのぞくと、もう日常からすっかり気持ちが遊離していく。
 
美術館の前身である原 邦造邸は1938年に建てられたが、戦時中、進駐軍(GHQ)に接収され、“Hara House”という名称で米軍将校の宿舎となった。約6年後に原家に返還された後も、フィリピン大使館やセイロン(現スリランカ)大使館として使われるなど、数奇な運命に彩られてきたが、2000年9月にタイル張りの外壁を洗浄修復し、竣工当時に近い姿に蘇った。無機質なビルディングと異なり、内装の凝った意匠と見事な光の取り入れ方が、展示作品をより一層美しく際立たせる。

ニューヨーク在住の現代アーティストの気鋭である杉本博司氏も、この美術館だからこそ、特別な展示を試みたにほかならない。開催中の「杉本博司 ハダカから被服へ」は、デザイナーやアーティスト必見の特別展だ。

原美術館
▲ジャン=ピエール・レイノー「ゼロの空間」(1981年)
原美術館
▲カフェダールは美術館の中庭に面したガラス張りのカフェ ©米倉裕貴
原美術館
▲奈良美智「My Drawing Room」(2004年8月 ~)制作協力: graf ©米倉裕貴
利用案内
140-0001 東京都品川区北品川4-7-25
TEL : 03-3445-0651 
開館時間:11:00 a.m.~5:00 p.m.
休み:月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
www.haramuseum.or.jp

*情報は2012年6月時点のものです。

ポーラ美術館

自然と一体化した光溢れる美術館
ポーラ美術館は、今年開館10周年を迎える。設立としては新しい美術館だが、ルノワール15点、モネ19点、ゴッホ3点、セザンヌ9点、ピカソ19点など、印象派絵画の収蔵数ではほかに類を見ない。さらに収蔵絵画は、美術書や教科書で誰もが見たことのある著名な逸品ぞろいだ。印象派作品に加え、日本画家・杉山 寧、陶芸家・富本憲吉の作品や、古代中国の貴重な陶磁などのコレクションは、どのように収集されたのか。

ポーラ創業家2代目、鈴木常司は、アメリカ留学後間もなく、父の急逝の知らせを受けて急遽帰国。1954年、23歳の若さで社長に就任。静岡県で創業したポーラ化粧品は、鈴木の経営手腕により、後に創業時の200倍を売り上げるまでに成長した。事業経営の合間の楽しみとして、鈴木は考古学や絵画に興味を持ち、美術史を独学で学び始める。そして初めて購入したのが、藤田嗣治の油彩「誕生日」だった。もともと写真を趣味にしていた鈴木は、フォルムや色彩感覚に鋭く、次第に鑑識眼を磨いていき、その後の美術品収集は人任せにせず、自ら1点ずつ選んでいった。

収集活動が20年を過ぎたころ、自分の嗜好に沿って集めるだけでなく、多くの人々に喜んでもらえる作品を集めて美術館を作りたいという意識が芽生える。そこから作品収集に変化が起きた。日本でも世界の名品を鑑賞できる場を作りたいという意志もあった。
1996年、ポーラ美術振興財団に鈴木コレクションが寄贈され、美術館設立の準備が整った。社員の保養所を建設するために確保していた箱根仙石原の土地に、美術館を建設するという案が浮上。ところが敷地は国立公園の中にあり、自由に建物を建てることは難しかった。そこで、建物のほとんどを地下に埋没させ、地上部分は高さ8mに抑え、木々の間に隠れるような設計が生み出された。残念なことに、鈴木はその美術館を見ることなく、2000年に70歳で亡くなった。鈴木は寡黙で、自分のコレクションを多言しなかったが、自らの美意識で集めた美術品により、鑑賞する人に多くを語りかけているようだ。

ヒメシャラの森の中に渡された長い橋を渡ると、光溢れるガラス張りのエントランス・ホールへと導かれる。「箱根の自然と美術の共生」という美術館のコンセプトそのままの世界。美術鑑賞と共に、美術館の周辺に設置された遊歩道を歩く楽しみも格別だ。

ポーラ美術館

▲自然光を取り込んだ開放的な美術館
ポーラ美術館

▲豊かな自然に囲まれた美術館のエントランス)
ポーラ美術館

▲パブロ・ピカソ「母子像」(1921年)油彩・キャンバス ©2012-Succession Pablo Picasso-SPDA(JAPAN)
ポーラ美術館

▲エドゥアール・マネ「ベンチにて」(1879年)
パステル・キャンバス
利用案内
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285 
TEL : 0460-84-2111 
開館時間:9:00 a.m.~5:00 p.m.(入館は4:30 p.m.まで)
休み:なし
www.polamuseum.or.jp

*情報は2012年7月時点のものです。

●文・Junko Sakakibara

英文雑誌や書籍の編集者として東京で出版社に勤務。1988~1995年に家族と共にシアトルに在住。帰国後、日本航空英文機内誌『Skyward』の編集長を16年務めた後、現在、美術館のミュージアム・グッズの企画を手掛ける会社を経営。