人はどうして本を読むのでしょう?縦横無尽に時空を駆け巡る物語、生きるヒント、刺激を求めて…?アメリカで活躍する皆さんに忘れられない一冊を紹介していただきました。人生を変えられる読書、始めてみましょ。(2014年1月)
ノンフィクション
『日本のこころの教育』 境野勝悟
元高校教師である著者が、普段、なにげなく使っている日本語の語源や成り立ちをわかりやすく説明する。
Chef Naoko オーナー兼シェフ
田村なを子さん
元・母親が経営する自然食レストランすみれ家シェフ。娘がポートランドに住みたいと言ったことを機に渡米し、Chef Naoko Corporationを立ち上げる。
日本にいた10年くらい前、故橋本保雄氏(元ホテルオークラ副社長)に推薦され、手にとりました。読む前は日本について興味がありませんでしたが、なにげなく使っている日本語に意味があることを深く考えさせられました。最初に読んだときは日本と日本語は深いし、面白いと思い、その後、アメリカに来て事業をするようになってからは、この本が自分を正すような役割をしていると思うようになりました。たくさんの本と一緒にいつも手に届く所に置き、ここ半年は1週間に1度くらい、迷ったときに開いたページを読んでいます。「日本って素晴らしい!」ってことを実感できるので、海外に出ている日本人や、被災地の方々に読んで欲しいです。
『銃を持つ民主主義「アメリカという国」のなりたち』 松尾文夫
共同通信社のワシントン支局長等を歴任してきたジャーナリスト、松尾文夫が語る「銃」と「民主主義」が共存するアメリカという国のかたち。
作家・ジャーナリスト
冷泉彰彦さん
59年生まれ。コロンビア大学大学院修了。出版社勤務を経て、93年渡米。プリンストン日本語学校高等部主任。本誌で『アメリカの視点×ニッポンの視点』を連載中。
08年、機中で読んでとにかく感動した。中でも忘れがたいのは、自身の戦争体験に根ざしながら「武装の権利」を掲げるアメリカの「国のかたち」の本質に迫っていること。そして、「アメリカと日本の和解の儀式」として「真珠湾のアリゾナ記念館」と「広島・長崎」に、日米の首脳が相互に献花外交を行うべきとの提言。共同通信の記者として、ニクソン政権以来のアメリカを見つめ続けてきた「報道のプロ中のプロ」の視点が光っている。若き日に「米中接近」の可能性を暴露して、「ニクソン・ショック」を予言したこの人は、大変な人物である。在米日本人、日米関係に何らかの関係のある人すべてにすすめたい。
『あなたの夢はなんですか?私の夢はおとなになるまで生きることです』 池間哲郎
元戦場カメラマンの著者が、アジアの貧困地域に暮らす子どもたちを支援する活動を通してつかんだ真実を綴る。
バスケットボールプレイヤー
阿部 理さん
元日本代表バスケットボールプレイヤー。ニックネームは「ダイナソー・サム」。コーチとして小学生からプロ選手にまで教えながら、NBAに挑戦を続けている。
モンゴルのマンホール・チルドレンや、フィリピンのごみの山で生活する子どもなど、過酷な環境の中で必死に生き抜く世界中の子どもたちについて書かれた本です。これを読んだら、読者それぞれが世界はどうなっていったらいいか?を必ず自問自答するはずです。また、自分にできる社会貢献や自分自身が懸命に生きることの大切さを感じさせてくれる本です。
『サハラに賭けた青春―上温湯隆の手記』 上温湯隆
17歳で世界放浪に出た冒険家による、世界各国をヒッチハイクで回った記録。アフリカ旅行者やバックパッカーのバイブルと呼ばれている。
モンベルポートランド店店長
富山和宏さん
埼玉県出身。2年間の海外での自転車旅行や登山を経てモンベルへ入社。13年8月、転勤に伴い、コロラド洲ボルダーからポートランドへ移住。
04年、仕事を辞めて、長期の海外旅行へ出る前に読みました。上温湯氏が、わずか150ドルの所持金で日本を出て、2年4カ月もの間、一人で諸外国を回ったことが衝撃的でした。ヒッチハイクをメインとする、このような破天荒な旅のスタイルがあるのかと。17歳という年齢での決心に驚くと同時に、私が著者と同じ年齢のときに、果たしてこのように多くを感じ、生きていただろうかと、考えされられました。自分自身、旅の途中で何かあったらどうしよう、という思いもありましたが、この本を何度か読むうちに、何かトラブルがあってもなんとかなるだろう、と気軽に思えるように変化していきました。
『神谷美恵子日記』 神谷美恵子
ハンセン病治療で活躍し、美智子皇后のご相談相手でもあった精神科 医神谷美恵子が、1939年から、この世を去るまで40年書き続けた日記。
NPO Voice Library in Japanese 会長
吉田 直さん
京都府出身。 同志社大学卒業。夫の仕事のため81年よりシアトルに居住。 2004年、体の不自由な人たちに日本語で朗読を行うVoice Library In Japaneseを設立。
神谷美恵子著『生きがいについて』を読んで以来、彼女の考 えに心ひかれるようになり、10年前に購入しました。アメリカ での独身時代、 27歳で東京女子医学専門学校に入学、 32 歳での結婚、子育て、老後、という女の一生の中で、 精神科医 としての職務を全うし、それに加えてボランティアとして長 島愛生園に隔離されていたハンセン病患者の診察に関わる 仕事にも全力をあげて打ち込んだ彼女のひたむきさと、その 折々の彼女の思いや悩み、迷いを知ることができました。自分 に対する厳しさ、生涯をかけて自らの生きがいを捜し求める 真摯な姿に強くひかれ、事あるごとに怠惰になりがちな自分 への戒めのためにこの本を読み返します。
『生命知としての場の論理―柳生新陰流に見る共創の理』 清水 博
生命的創出知という観点から「場」の文化を深く捉える方法を発見し、 今日まで400 年あまり続く柳生新陰流の術と理にその知を見出す。
ジャパニーズ・アート・スウォーズ店主
今野龍彦さん
国士舘大学で剣道、 居合道を学ぶ。剣道・居合道教士7段。72年の渡米以後、剣道、居合道の普及に務めている。また、刀剣の展示、販売、研磨、修復、鑑定を 行っている。
日本ではよく場を読むと言いますが、空気を読むとは違 い、本来は場とは生命の存在を示しており、生死共に存在 する考えが基本で、瞬間瞬間の一瞬に実在するとされて ます。本書に出てきた西田哲学を勉強したわけでなく、詳 しい生命科学を知る由もありませんが、清水氏はかなり 深く研究されているようで、私の勉強している天台哲学に せまる深い洞察力を感じました。世阿弥の風姿花伝およ び、柳生新陰流などには禅の思想が深く関与してますが、 その源流は天台宗の一念三千の考え方からきており、清 水氏の言う生命科学とはかなり接点がありました。
『論語と算盤』 渋沢栄一
明治時代、500社以上の企業の設立に携わり、一方で関東大震災の復興 など約600もの社会公共事業に尽力した 渋沢栄一による談話集。
シアトル日本商工会会長
米国三井物産シアトル支店長
矢代道也さん
58年東京都生まれ。 転勤のため10年より シアトル在住。シアトルは米国勤務5カ所目で、米国生活は通算13年半。最近はまった本は三谷幸喜の『清須会議』。
今から5年前、50歳を目前にして読みました。日本の産 業界での行き過ぎた成果主義や拝金主義に対する反省 が芽生えたことがきっかけです。企業やビジネスマンが 持つべき志やモラルが明快に語られており、企業経営に どのように臨むべきか大切な指針が得られました。いろい ろなバージョンを買い集めたために合計4冊持っていま す。本棚はもちろんテーブルやデスクなど常に手の届くと ころに置き、毎日1回は手に取っています。これから社会 に出てビジネスマンになろうとしている人や、「仕事とは? 会社とは?金儲けとは?」という問いかけへの答えを探し ている人にすすめたいです。
『ビッグデータの正体』 ビクター・マイヤー・ショーンベルガー、ケネス・クキエ著/斎藤 栄一郎訳
統計学が最強になる時代、企業はいかに新たな価値を生み出すことが できるのか。大胆な主張と見事な語り口でその答えを示す。
紀伊國屋書店シアトル店店長
渡辺成一さん
静岡県出身。13年8月にLAから赴任。シアトルの美しい自然や人々の温かさに感銘を受けたものの、今は3年振りの冬の寒さに震える日々。
13年の流行語にまでなった「ビッグデータ」という言葉です が、この本を読むとなぜ「ビッグデータ」の重要性が高いのか が分かります。たとえばGoogleチームは、「鳥インフルエンザ」 が流行ったとき、検索で「咳の薬」「解熱剤」などのワードが急 上昇したことと数式を組み合わせて、報道される前に「鳥イ ンフルエンザ」が流行っていたことを把握していたのだそう で、本当に驚きでした。ビジネスに大いに使える考え方を学 べる一方で、インターネットの検索履歴やFacebook、携帯電 話での通話など自分自身の行動もデータ化されていると考え ると恐ろしくもなります。
『ゼロ』 堀江貴文
堀江貴文はなぜ、全てを失っても、希望を捨てないのか?本書は、昨年、 日本でもビジネス書分野でベストセラーになった。
ドリームビジョンプロジェクト発起人
特定非営利活動法人ジェン リレーションシップ開発担当
藤田佳予子さん
東京都出身、鹿児島県育ち。日本マイクロソフト勤務を経て、04年に留学と夫の転勤に伴い渡米。趣味はテニスとスキューバダイビング。
日本で世間を騒がせていたホリエモンへの印象が変わりま した。「現状維持はありえない。だから人は変わる。変わらなけ ればいけない」という内容に、自分が行っているプロジェクト にも通じるところがあり共感しました。行動を起こすことがな によりも大事であり、失敗したとしてもゼロに戻るだけでマイ ナスにならない、というメッセージが印象的です。現在、ボラ ンティアで行っている東北復興支援活動のプロジェクトに関 わっていただいている方々にとっても重要なメッセージが含 まれていると感じた1冊です。
『イサム・ノグチ―宿命の越境者』 ドウス昌代
彫刻家イサム・ノグチ(1904-1988)の生涯を、FBI文書などの貴重な未 発表資料を数多く用いて丹念に描き出す。
紀伊國屋書店ポートランド店店長
牧野奈保美さん
大阪府出身。 家業手伝いの後、80年代に渡 米。趣味はキルト作成。
10年ほど前、出版社からの新刊案内で興味を持ち、読みま した。富と名声を持ってしても癒しきれない孤独と宿命に果 敢に向き合った芸術家の人生が深く印象に残りました。母の 国アメリカ、父の国日本、その2つの国で自分のアイデンティ ティーを追い求め、それを強烈に主張する個性と作風が素晴 らしい。アメリカでのさまざまな体験が、自分の心の財産とな ることを実感できる本なので、今でも1年に1回ほど手に取り ます。自分探しをしている人におすすめです。
『Keith Haring Journals』 Keith Haring
80 年代の米国を代表するポップアーティストによる19 歳から31歳で 死去するまでの日記。ハンドライティングや未発表作品も満載。
シンガーソングライター
エミ・マイヤーさん
京都出身。1才 になる前にシアトルへ移住。09 年「キュリアス・クリーチャー」 でデビュー。永井聖一とコラボ した新曲『A Happy New Year』 が、iTunes Store、Amazon MP3 他で発売中。
シアトルの古本屋で、カラフルな表紙が目に入り手に取りまし た。ヘリングは、展示などで旅行している間、できるだけその滞 在先の友達と食事をすることを大事にしていたそうです。彼 がどういう風に浮き草生活をしていたのか参考になりました。 私も日本とアメリカを行ったり来たりする生活で、一つの場所 に長くいませんが、その中で友達との縁を大切にするように心 がけています。ジャンルと時代は異なりますが、アーティストと して共感できる悩みや喜びがあり、心強くなりました。いつも、 ミュージシャンとして次のインスピレーションをどこで見つけ るか、時間をどう有効に使うかなどが頭の中にあるので、同じよ うなことを考えている彼の日記はとても興味深かったです。
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