1人1台が当たり前という、車社会のアメリカ。日常のメンテナンスや買う時・売る時、実はよく分かっていないこと、ありませんか?今回は、車に安心して乗るために、そしてスムーズに売買をするために、知っておくべきポイントを、車のプロに伺いました。(2021年12月)
アメリカでの車の悩み:売買編
自動車業界のトレンド
2020年から続くコロナ禍は、自動車業界にも大きな影響をもたらしています。コロナ禍によって生じた自動車市場の変化、またそれ以外の近年の自動車業界のトレンドについて、日米で自動車の売買を展開するガリバー・マーケティング部、そしてカーショップABAuto Town代表の石澤さんにお話を聞きました。
部品不足による価格の変動
今年の春ごろから大きな話題になっているのが、自動車の値上がりに関するニュース。新車の供給が間に合わず新車の価格が高騰、同時に、中古車ディーラーでの販売価格も以前より上がっているとのこと。「コロナ禍後、自動車購入の需要が激減した影響で、自動車メーカーが半導体の発注を減らしました。その後、ワクチンの普及などによって需要が当初の予想以上に回復したため、半導体の供給が追いつかず、不足が続いているのです。需要と供給のミスマッチによって新車が不足しており、それが中古車市場にも波及している、という状況です」(ガリバー)。この状況は今後も1年程度は続くのではないかと、ガリバーそして石澤さん共に予想しています。「逆に、自動車を売りたいと考えている方、例えば複数台車を持っていて、コロナの影響で1台不要になったという方などにとっては、いい売り値が付くことが期待できます」とガリバーはコメントしています。
電気自動車・テクノロジーの進化
また、ここ数年の大きなトレンドとして、テスラをはじめとする電気自動車への移行についても、両社が指摘しています。石澤さんは「まだまだ価格の面、バッテリーの性能の面などで改善の余地があり、爆発的な普及には至っていませんが、確実に電気自動車の時代に変わっていくでしょう。問い合わせも増えてきているのを感じます」と話します。さらに、「テスラというメーカーについて言えば、ディーラーを通さず新車を消費者に直販しているというのも特徴です。今までにない販売方法で、今後他のメーカーが追随するのか、注目しています」。また、車の機能面では、スマホとの同期や自動ブレーキ、レーンデパーチャー(レーンはみ出し修正)といった自動制御システムへの消費者の関心が高まっていること、メーカーも技術開発を進めていることを石澤さんは指摘します。
大型車、SUVの人気
車種については、最近はSUVの人気が高まっているとガリバーは話します。「やはりアメリカの人たちは、大きな車を好みます。2008年頃のガソリン価格の高騰を受けて、燃費の良いハイブリッドカーのブームがありましたが、その後、ガソリンの価格が正常化したため、再び大きな車を好む傾向に戻りました。現在では、スポーティーでラグジュアリーなSUVの人気が完全に定着しています」。
アメリカでの車の売買Q&A
◼︎ 車にはいろいろな形や大きさがありますが、自分に合った車種はどうやって選んだらいいでしょう?
それぞれのライフスタイルや家族構成に合った車を買うということが一番重要です。たとえば小さなお子さんがいる場合、スライドドアで乗り降りのしやすいミニバン、子どもが大きくなってきたら次は大型のSUVに乗り換える、といった買い替えは一般的です。通勤にだけ利用する女性や学生さんなどは、少し小さめながら荷物も入り、運転しやすい小型のハッチバックを選ばれる方が多いです。セダンは、比較的年齢層の高い方に人気の、落ち着いたデザインの車種。燃費がいいのも特徴です。トランクのスペースが固定されていて、収納スペースの柔軟性が低いデメリットはありますが、その分、もしもの事故(後ろからの追突)の時の安全性は高いです。
新しくアメリカに来た人で、急いで車を買うような場合、最初は不安なので小型車を買ってみたけれど、やっぱり荷物がたくさん積める大きめの車種が欲しくなってすぐ買い換える、といったケースもよく目にします。繰り返しになりますが、用途や家族構成をよく考慮して選ぶことをお勧めします。
◼︎ アメリカで人気の車種や、売却まで考えた時に価値が下がりにくい車種はありますか?
日本とアメリカを比べた場合の一番大きな違いは、ピックアップトラックの人気です。アメリカではDIYやまとめ買いの文化がありますから、たくさん荷物を積めるというのが車を選ぶ大きな基準になっています。
買い取り価格では、その時に人気のある車種は、中古車市場に出回る数が少ないこともあって価格が下がりにくいです。一般的に日本メーカーの車は、欧米メーカーと比べると故障が少ないことが多く、値が下がりにくい場合が多いです。
◼︎ 新車の購入とリース、それぞれの特徴を教えてください。
リースの最大の利点は、新しい車に数年おきに乗り換えられる、購入よりも少ない初期投資でハイエンドな車に乗れるというところです。メーカー保証も付いており、故障などにかかる費用の心配をしなくてもいい点もメリットです。一方、契約期間は満了しなければならず、急な帰国などの際には残有期間分の費用を払わなくてはいけないというリスクもありますので、特に駐在の方などは注意が必要です。
一方、購入は自分のものになりますから、帰国となったら売ればいいですし、支払いが終わった後は長く乗るのも自由。トータルコストは抑えられることが多いです。一方、保証はあっても有限なので、故障した場合の修理費用は高くなります。とはいえ新車であれば、大きな故障などが出始めるのは一般的には8万~10万マイルぐらいなので、買って数年で修理が必要になるという心配はあまりしなくていいと思います。
◼︎ 中古車を買おうとした場合、注意して見るべきポイントを教えてください。
中古車の場合、一番重要なのが事故歴です。CARFAXという、事故や修理の履歴のレポートは必ず全て見せてもらいましょう。レポートに載っていない小さな事故や故障があったかどうかも、口頭で聞いてください。CARFAXに載るのは、保険を適用したような大きな事故が主で、ここに残らない事故履歴がある場合もあります。
年式・走行距離だけでなく、パーツ交換の有無を教えてくれるのがいいショップです。トランスミッションやブレーキ、タイヤなど、消耗品を最近交換しているのであれば、車自体は古くても状態はいい車と言えます。一概に「ローマイルだからいい」というわけではないことは覚えておくといいでしょう。
◼︎ 日米で、売買の際の違いや日本人が失敗しがちなことなどはありますか?
日本では新車は受注生産で後日納車が一般的なのに対し、アメリカではその時に販売店にあるものから選ぶのが普通です。米系の販売店などでは、「今日買う意思がない」と分かると取り合ってくれないようなケースもありますから、ある程度下調べしていくことが大切です。また、外国人に慣れていない場合もあり、SSNがないと対応してもらえないケースもあるので、その辺りも準備しておくことをお勧めします。
実際に走り始めてからのことだと、アメリカは道のコンディションが悪い場合も多く、パーツがすぐ悪くなるリスクがあります。購入時に使用期間全体をカバーする保証に入ることをお勧めします。
◼︎ 車を売るのにはどれくらいの時間と手間がかかりますか?
一般的に言えば、最短で即日で売れます。タイトル(車の権利書)、レジストレーションカード、ID、振込先の口座情報、鍵など必要なものをそろえておく必要はありますが、それさえあればその日のうちに売ることができます。
通常、査定見積の有効期間は、1週間が一般的ですが、弊社は最長1カ月までカスタマイズ可能ですので、早めに手続きを済ませて帰国日ギリギリまで車に乗ることが可能です。また、リース中やローンが残っている場合でも対応していますので、まずはお気軽にご相談ください。
◼︎ 個人売買とお店の違い、メリット・デメリットはどんなところでしょうか。
アメリカでは個人売買も盛んですが、唯一のメリットは安く買える、高く売れるというところ。一方、まず買う際で言えば、ディーラーや販売店はその信用で売っていますから、中古車であってもそれなりの品質のものが入手できるのが当たり前ですよね。ただ、100%というわけではないので、保証が付いているかなど確認が必要です。
また、個人売買で車を売るとなった時に最も注意が必要なのが、「名義変更」です。しっかりと買い主の名義に変更していないと、例えば事故があった時に、最終的に売り主(前のオーナー)が責任を問われるというケースがあります。個人売買にはこういったトラブルのリスクがあることにも注意が必要です。
◼︎ 売却のときは、どんなところで値段が決まりますか?査定前に点検や修理はしておくべき?
購入するときと同様、一番大きいのは、事故歴の有無、そして故障の有無です。故障はあればこちらで直しますから、査定でマイナスにはなりますが、無理に直しておかなくても、最終的な買い取り額とコストを計算すると大きな差はないことも多いです。逆に、既に直してあるところや、最近交換したパーツがあれば、アピールしていただけたら高額査定の対象になります。できれば修理の際の書類・レシートが残っているといいですね。
それ以外では、やはり日々きれいに、大事に乗っている車は印象がいいです。タバコの臭いなどは落とすのに大変手間がかかり、査定に影響してきます。
ガリバー マーケティング部 |
AB Auto Town オーナー 石澤浩志さん |
アメリカでの車の悩み:メンテナンス・修理編
後半は、日常、車に乗る上で気を付けたいことなどについて、サンディエゴのSPC Automotive・菅原学さん、ロサンゼルスのEco DriveAuto Sales and LeaseのRyo Okudaさんにお話を伺いました。
個人でできる日常のメンテナンスはありますか?
一番大切なのは、定期的にオイルチェンジに行くこと。そしてその時には、オイルチェンジだけを行ういわゆるオイルショップではなく、メカニックが見てくれるショップに持っていくことが大切です。アメリカには「メカニックと医者と弁護士はいい人を見つけなさい」という言葉があります。それくらい、アメリカではいい、相性の合う、信頼できるメカニックを見つけることは重要なことです。
一般ユーザーが日常的にチェックできる点で言うと、遠出する前に、車の周りを1周してみて、タイヤが潰れていないかどうか、見てみるといいでしょう。一目ですぐ状態の分かるタイヤを見ておくだけでも違います。また、暑いところに行くような場合は、水温計の温度が高くなっていないか、頻繁に確認することも故障の防止になります。
すぐにプロに見てもらうべき不調や兆候はありますか?
一概にこれというのは難しいのですが、通常時との違いに敏感になること、普段から車の異常に対してアンテナを張っておくことは大事です。例えば変な臭い、オイルの焦げた臭いや甘い臭いがする、いつもより振動が大きい、といった違いを感じたら、チェックを受けてください。もちろん、何も異常がない場合もありますが、それはそれでいいわけです。何か「おかしいな」と感じることがあればまずは見てもらいましょう。また、そういった時に気軽に見てもらえるよう、メカニックと関係を作っておけるといいですね。
チェックマークが付いてしまったらどう対応したらいいでしょう?
車に不調が出た際に点くもので最も一般的なのが、「チェックエンジンライト」という警告灯です。ただ、これが点いただけでは、どこに不調が出ているのかは分かりません。これが点灯したら、まずは落ち着いて車を停めて、メカニックに連絡して、どう対応するのがいいのか指示を仰いでみましょう。
もしメカニックに直接連絡ができなければ、音や振動に注意してみてください。音が明らかにおかしい、エンジンがいつも以上に振動しているといった兆候があれば、重大な不調が起こっている可能性がありますから、トーイングを依頼してください。
その他、気を付けるべきことや知っておくべきことはありますか?
特にアメリカだと、DIYでいろいろなことができますし、実際にする方もいますが、中途半端な知識にいじってしまうと危険な可能性がありますから、その点は心に留めていただくといいと思います。
SPC Automotive Inc. 菅原 学さん |
American Automobile Association、通称「AAA」をはじめ、ロードサービス(英語では「Roadside Assistance」)を展開する企業や団体はいろいろあります。自動車保険に付帯されている場合も多く、トーイング、タイヤがパンクした際や、ガス欠の際の駆け付け、バッテリー上がり対応などをカバーしたロードサービスには入っておきたいもの。
誰しも名前を聞いたことがあるだろうAAAは、ロードサービスに加えて、レストラン、旅行、エンターテインメント施設など、全米10万カ所以上でディスカウントなどの特典が受けられるのも大きな魅力。他に、GEICOやState Farm、Progressiveなどの各種大手保険会社も、それぞれロードサービスを提供しています。会社によってトーイングの距離や年間の利用回数などに差があるので、自分に合ったサービスを探してみてもいいかもしれません。
「車検」のある日本とないアメリカの違いを教えてください。
日本の車検は、原則2年に1回、その車両が道路運送車両法という法律に反していないかをチェックするものです。この基準に反していれば車検を通らないので、その部分を修理します。アメリカには車検制度自体が存在しないので、車が安全に運行できる状態を保つ責任は全て車のオーナーにあります。
皆さん定期的にオイルチェンジのためにお店に行くと思いますが、私たちのようなメカニックは、ただオイルを交換しているだけではありません。同時に、車全体の「健康診断」をしているんです。一方、これがオイルチェンジのみをするショップだと、本当にオイルの交換のみで整備はしないケースが多いです。専門知識がないスタッフが対応している場合もあるので、注意が必要です。
いい整備士を見つけるポイントはありますか?
アメリカには、日本のような自動車整備における国家資格は存在しません。よって、誰でも「整備士/メカニック」を名乗ることができます。ですから、本当に信頼ができるメカニックなのか、しっかりと見極めることが大切です。気になる点について質問し、理路整然と答えてもらえるかどうか、人として信頼できるかを含め、「この人に自分の車を任せられるか」という視点で見るようにするといいでしょう。アメリカでは分業制の傾向が強く、メカニックによって専門としているメーカーや車種があることが多いですから、自分の車を担当できるスペシャリストを探すことをお勧めします。
気候と車の状態の関係は?
車にとって良くないのは湿度と塩分。例えば、乾燥していて温暖なカリフォルニアなどは車の機能面を考えればベストな環境と言えます。一方、ノースウエストでは、冬になると道に「凍結防止剤」をまきますが、これに含まれる塩分は車をさびさせる原因になります。凍結防止剤を使うほど冷え込んだり、雪が降ったりする地域、または湿度の高い地域では、定期的に車の下回りを洗浄するなど、さび止めの対策も視野に入れておく必要があります。
ハイブリッドカーや電気自動車で注意すべきことは?
そもそもハイブリッドは「掛け合わせ」という意味で、ハイブリッドカーはガソリンエンジンと電気モーターの掛け合わせで動く車のことです。ハイブリッドのうちガソリンエンジン部分の整備であれば(オイルチェンジなど)、一般的な整備士でも対応できます。一方、HVバッテリーなど高電圧系の不具合は、一般の整備士では対応が難しいケースが多く、ハイブリッド、電気自動車を専門にしている整備士に見てもらう必要があります。
ハイブリッドカーで多いトラブルは、モーターを動かすためのバッテリーです。バッテリーには寿命があるので、寿命になると交換が必要になります。ちなみにバッテリーは熱に弱いので、少しでもバッテリーを長く使うには、できればガレージに停める、外に停める時にはサンシェードをする、防犯上問題がなければ1センチでも窓を開けて換気するなど、車内の温度をなるべく上げないようにしてください。
また、ハイブリッドカーにはバッテリーを冷やす冷却ファンが付いているのですが、車内のホコリなどが詰まると冷却機能が弱まります。特にペットを乗せる方などは、動物の毛でここが詰まりやすいので注意しましょう。この冷却ファンは、2~3年に一度は掃除をすることをお勧めしています。
車の盗難について教えてください。
新型コロナウイルスの流行後に増えているのが、車体の底面に付いている触媒の盗難です。一番安全な予防法はガレージに停めることですが、路駐をするしかない場合は、少しでも人通りのあるところに停めることを心がけてください。
※車の防犯については、『ライトハウス2021年7月号』「アメリカ防犯ガイド2021」でも詳しく解説しています。
整備・メンテナンスについてアドバイスはありますか?
心に留めておいていただきたいのは、車は買ったらそこからはオーナーのもの、全てオーナーの責任、ということです。とはいえ全て自分で整備するのは難しいですから、信頼できるメカニックを見つけることになるわけです。前述の通り、整備する人の経験値や専門性は本当にまちまちですから、整備に出しても必ずしも故障が直って返ってくるとは限らない、ということは覚えておいてください。セカンドオピニオンを聞くなども選択肢に入れて、自分の愛車の整備をするのをお勧めします。
ディーラーは、当然最新の情報を持っているものの、メカニックとは直接話ができないのが一般的です。私たちのような独立したショップだと、こうやってメカニックと直接話して車の様子を聞くことができますから、それはメリットの一つだと思いますよ。
Eco Drive Auto/ Sales and Leasing Ryo Okudaさん |
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