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アメリカ防犯ガイド

防犯ガイド

長期間のロックダウンを経て、コロナ禍前と比べてアメリカで発生している犯罪の質や件数が変化しています。そこで、被害リスクを少しでも回避するための方法、そして被害者の実際の体験談をお届けします。アメリカ生活を安全に過ごすべく、ぜひ参考にしてください。(2021年7月)

アメリカでの犯罪のパンデミック前との変化

アメリカでは過去数年間、犯罪率が全体的に減少傾向にありました。しかし、2020年、銃を使った殺害事件の件数が史上最高を記録し、2021年に入っても全米各地の公共の施設やショッピングモールなどでの不特定多数の一般市民を巻き込む乱射事件の報道が続いています。

似たような状況は、私たちの地元でも起きています。2020年のシアトル市内の犯罪で目を引くのは52件の殺人事件。これは過去26年間で最も多い件数とされています。ポートランド市内も同様に殺人事件が増加。そしてデータからは両都市とも、建物に侵入しての強盗(空き巣)が増えていることも目を引きます。さらに、シアトルもポートランドも、昨年から、抗議活動が頻繁に行われています。デモを引き金に、一部の参加者が暴徒化し、放火や破壊活動がしばしば発生しました。

また、コロナパンデミック以降、アジア系へのヘイトクライムの事案がメディアやSNSで取り上げられることが多くなりました。

これらの犯罪から身を守るために心がけておきたいこと、普段から実行したいことを次から紹介していきます。

シアトルの主な犯罪件数

犯罪の種類2019年(件)2020年(件)
殺人3752
性犯罪380276
強盗・略奪 Robbery
(人から物を奪う)
1,5541,486
暴行4,6822,644
放火112169
強盗 Burglary
(建物に侵入して盗む)
7,65010,413
窃盗26,02023,217
車両盗難3,9914,936

※ Seattle Policeのデータから抜粋

シアトルの犯罪件数の最新情報はこちら

ポートランドの主な犯罪件数

犯罪の種類2019年(件)2020年(件)
殺人3557
性犯罪726550
強盗 Burglary
(建物に侵入して盗む)
9951,006
暴行9,1048,850
放火258503
強盗 Burglary
(建物に侵入して盗む)
4,1905,438
窃盗24,59222,890
車両盗難6,5556,558

※ Portland Policeのデータから抜粋

ポートランドの犯罪件数の最新情報はこちら

犯罪別の防衛策・対処法

車上荒らし・車両盗難

最近の車はセキュリティーが充実していることから、車の周りを不審者がうろついていたり、仮に車を乗り回していたりしても、遠隔でアラームやパニック装置を作動させて周囲に犯罪を知らせることができます。また、昔のように簡単に鍵をこじ開けられなくなったため、車上荒らし自体は減ってきました。

その分、犯人と遭遇する可能性が逆に高くなりました。つまり、犯人が駐車中の車のそばでドライバーが戻ってくるのを待つようになったのです。待ち伏せしていた犯人に脅されたら、絶対に抵抗してはいけません。大声で助けを呼んだりすることも、犯人自身をパニック状態に陥れ、暴力を振るわれる確率が高まります。重要なのは犯人の要求に無条件で従うことです。犯人が欲しいのは金品なので、それを速やかに渡すことで危険度は下がります。しかし、渡す時にいくつかの注意点があります。車の鍵を要求された時には犯人の足元に放り投げること。カバンや財布を要求されたら、口を開けて逆さにして中身をばらまくこと。そうすることで犯人がばらまかれた物を拾う間に逃げることも可能です。手渡しだと逃げる暇がなく、被害者がそのまま車に乗せられ人質に取られるなど、さらなる被害に遭うリスクが高まります。

カージャックや車上荒らしに遭った後は、車のレジストレーションなどの情報を基に、犯人が被害者の家に侵入することもあります。事件後は鍵を取り替え、アラームシステムを導入するなど自宅の安全対策を万全なものにした方がいいでしょう。

また、2019年に米国内で発生した車両の盗難の件数は60万台以上に上っています。これは44秒に1台、アメリカのどこかで自動車が盗まれていることになります。特に人々の移動が増える夏に盗難が多いため、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)により毎年7月がNational Vehicle Theft Prevention Month(全米車両盗難防止月間)に定められています。

NHTSAが車両盗難を防止するために自動車のオーナーに呼びかけているのは、次のようにあくまでも「駐車する際に常識を働かせる」ことです。

  • 車を離れる際は鍵を携帯すること。車の鍵を車内に放置しない
  • ウィンドーを閉めてロックする
  • ゴミが散乱しているような場所には駐車しない。
  • 車内に貴重品は置かない。特に車外から見えるような場所に置いたまま駐車しない。

自動車の窃盗団は、売却してお金になる物を狙います。自動車が盗難されるのはホイールカバーが目当てというだけではなく、エンジン、トランスミッション、エアバッグ、GPS、さらに車内に置き去りにされた携帯電話やパソコンなども価値がある獲物と見なされます。

車上荒らし・車両盗難

空き巣

空き巣は英語で「Burglary」。家やアパート、オフィスなどに物品を盗む目的で無断侵入する犯罪で、重罪として扱われます。空き巣を完全に防ぐことができる対策は存在しませんが、それでもいくつかの方法を組み合わせて、被害に遭わない可能性を少しでも高くすることが重要です。

狙われるのは、金持ちの家ではなく「侵入しやすい家」だと言われます。よって、庭に犬を飼う、セキュリティーシステムのサインを表示するなどで、侵入される可能性は下がります。このように「うちは空き巣対策が万全」と、日頃からアピールすることが必要なのです。

空き巣は長期間の留守宅だけを狙うわけではありません。家から一歩出るだけでも施錠することが大前提です。鍵は鉄の棒がドア枠の穴に入り込むデッドボルト式のものをお勧めします。ドアノブの回転にロックをかけるものだけでは安全性は低いです。できれば、これら2つの鍵を二重で取り付けることが理想的です。空き巣はドアを外から触っただけで鍵の種類を判別することができます。デッドボルト式の鍵は破りにくいので空き巣の抑止力になります

鍵を玄関のマットの下や植木鉢の中など秘密の場所に隠して、家族で使い合うケースもありますが、これは絶対に避けるべきです。なぜなら、空き巣はそういう場所をチェックするからです。

また、前述のように「侵入しやすい家」が狙われる傾向があるため、住人の家族構成や年齢層が把握しやすくなる、外から家の中が見えやすい状態は避けるべきです。もし、住人がシニアだけだと分かってしまった場合は、狙われる確率が高くなります。家の周囲には長いハシゴや台なども置かないようにしましょう。家の脇に放置してあるハシゴで2階の施錠していない窓から侵入したという事例も多数報告されています。

長期間家を留守にする場合は、新聞や郵便が届かないように配達の休止を依頼すること。郵便受けから郵便物が溢れ出している状態だと、家が長期間留守だということを公言していることになります。また、車はガレージに入れず、ドライブウェイに駐車しておきましょう。ドライブウェイに駐車することで誰かが家にいるというサインにもなり、犯行の抑止力になります。門灯や家の中の照明をタイマーで一定時間になると点灯するようにしておくと、さらに安心です。親しくしている隣人に家の監視を頼めるのであれば、依頼した方がいいでしょう。

銃犯罪

銃犯罪

銃社会アメリカでは、学校やショッピングモールなどの公共の場所で、突然、乱射事件に巻き込まれる可能性もあります。誰が銃を所持しているか分からない状況の中、そのような事件の被害者になる可能性をゼロにすることは困難ですが、万が一、発砲音を耳にしたら、最初にすべきことはその場から安全に脱出することです。そのためにもどこに出口があるかを事前に把握しておくようにしましょう。犯人からできるだけ遠くに移動することが最善です。

上階の場合、途中で止まる可能性があるエレベーターを使用せず、必ず階段を使います。犯人の視界に自分が入っていると確信したら、逃げる時はジグザグに走るか、障害物に隠れながら離れます。警報器を鳴らすのはお勧めできません。余計に人々を混乱に陥れるだけです。その代わりに自分の声で"Gun"または"Gunman"と叫びましょう。逃げるのが困難な場合は犯人の視界に入らない場所に隠れます。そこで物音を立てずに救援が来るのを待つのです。

アメリカでは多くの職場や学校で、日本での火事の際の避難訓練同様に、銃乱射事件時の避難訓練を実施しています。「まさか自分の身に起こるはずはない」と訓練を軽視せず、緊急時にどのような行動を取るべきか、どうやって避難すべきかを事前に習得しておくことが重要です。

少し前になりますが、2015年にロサンゼルス郡保安局が乱射事件の現場に立ち会った場合の生き残り方について紹介した10分程度の動画を公開しました。次のリンクから見ることができます。

● SURVIVING AN ACTIVE SHOOTER-LA County Sheriff
www.youtube.com/watch?v=DFQ-oxhdFjE

銃犯罪
ロン長谷川さん

【取材協力・監修】Intersec ロン長谷川さん
(元ロサンゼルス郡保安局)
TEL: 310-477-6766
E-mail: Intersec@usinter.net

 

【車関連の防犯グッズ】

ここ数年で多発しているのが、自動車のマフラーのパーツであるキャタリックコンバーターの盗難です。そこで盗難対策として、盗難防止プロテクターの取り付けを推奨しているエコドライブ社の代表、鈴木さんに話を伺いました。

「コロナ禍が始まってから加速度的に増えているキャタリックコンバーターの盗難ですが、犯行グループの目的はコンバーター自体の転売ではなく、コンバーター内に使われている特殊金属です。パンデミック以前の弊社への相談件数は月1件程度であったのが、今は月に4、5件ほどと増えています。プロテクターを装備しないということは、家に例えると鍵をしないのと一緒です。少しでも盗難リスクを軽減できるように、弊社では市販のプロテクターにさらに改良を重ねてカスタムしています。プリウスなどの一般車両であれば施工費用は450ドルほどです。ちなみにキャタリックコンバーターの交換となると3000ドル近い負担となります」。

キャタリックコンバーターのプロテクター以外に鈴木さんが勧めるのはドライブレコーダーの装備です。「それ自体は盗難を防止するものではありませんが、パーキング録画機能付きのドライブレコーダーを装着するのも効果的ですし、『IN CAR CAMERA RECORDING』などと書かれたステッカーをウィンドウに貼ることで(盗難の)抑止力にはなります」。

また、キャタリックコンバーターを含めた車上荒らしの犯罪の被害者にならないために、鈴木さんは次のようにアドバイスしています。「車を停める場所が重要です。路駐は極力避けて、ゲートの中など外部と遮断される場所に停めることが最善策です。路駐しか方法がない場合はできるだけ人目に付く明るい所に駐車しましょう。また、数日間停めっぱなしといったことは避け、できることなら毎日でも車の場所を移動することをお勧めします。ここアメリカは日本と環境が違うこともあり、自分の身は自分で守るしかありません。自分にはそんなことは起こらないだろうと思っても、実際起こってしまうのがアメリカなのです。自分は大丈夫だとか、勝手に判断したりせず、行きつけの整備工場や信頼できるショップなど、プロの意見を聞くことをお勧めします」。

車関連の防犯グッズ
キャタリックコンバーターのプロテクター(ワイヤーなど)。
鈴木敦さん

エコドライブ 鈴木敦さん
TEL : 310-974-1816
TEL : 714-592-1150
E-mail: contact@ecodriveautosales.com
Web: www.ecodriveautosales.com

日本人が巻き込まれやすい犯罪とアジア系へのヘイトクライム

次にアメリカで暮らす日本人はどのような被害に巻き込まれる傾向があるのか、そのためにどのようなことに注意すべきかについて、在シアトル日本国総領事館の杉本領事と、在ポートランド領事事務所の平澤領事に聞きました。

2021年6月中旬現在、外務省の「2020年海外邦人援護統計」がまだ公表されていないため、はっきりとした数字は出ていないものの、両領事館が扱った援護件数は19年より減少するだろうとのことです。コロナ禍で外出が減ったこと、旅行者が減ったことが原因と考えられます。一方で、生活面支援や生活相談の数は減っていません。

個人情報詐欺

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昨今、IRS、移民局、社会保障局や運転免許局などをかたり、ソーシャルセキュリティーナンバー(SSN)などの個人情報を求める詐欺事案が全米で多発しています。

平澤領事は「移民局などの公的機関からSSNや生年月日、銀行の暗証番号を聞くことはないと知っておいてください。怪しい電話がきたら、相手の名前、連絡先を聞いていったん切り、その機関に確認。怪しければ警察に通報をしてください」と話します。

また、杉本領事は「メールやテキストは、差出人名やメールアドレス、電話番号をよく確認し、その機関は実在するのか確かめてください。また、クレジットカードの使用は、使うたびにメールやテキストで報告が来るように設定しておけば、カード情報が漏洩した時に、すぐに気付け、被害を最小限に食い止めることができます」とアドバイスしています。

アジアンヘイト

昨今、報道されているヘイト関連事案は、日本人を含むアジア系の人々は届けを出さない傾向があると言われています。しかし、警察や行政当局に通報することで、事件の所在が明らかになり、地域の安全向上にもつながるので、被害を通報することが重要です。

また、杉本領事は「ヘイトクライムは地元警察に加え、FBIが捜査をすることがあります。FBIと地元警察は全ての情報を共有しているわけではないので、ヘイト被害に遭ったら、地元警察への通報に加え、FBIにも連絡をすると犯人逮捕に近付く可能性が高くなります」としています。

さらに、被害に遭ったら警察と併せて、領事館にも報告をしましょう。再発防止のために領事館から警察や行政当局に働きかけることができ、もし、精神的ケアが必要ならば領事館からサポート団体の紹介も可能です。また、実態把握ができることで、邦人社会に注意喚起を呼びかけられ、二次被害を防ぐことができます。

シアトルの状況

シアトルの治安の現状について、杉本領事は「シアトル領事館に寄せられている犯罪被害で多いのは窃盗です。昨年は、スーパーのカートに置いたカバンを取られた、車で信号を待つ間にロックをかけていなかった車のドアを開けられ、座席に置いたカバンを取られた、日本帰省中に空き巣に入られたなどの報告がありました。また、ダウンタウン・シアトルでは、パンデミック以降、ビジネスマンや観光客が減り、ホームレスが増えました。一部の公園がホームレスのテントで占拠されるようになり、テントの中から違法薬物が使用された痕跡が見つかることもあるようです。コロナ前後で街の状況は一部変わっており、前は大丈夫だった場所だから、今も大丈夫という油断は禁物です」と話しています。

ポートランドの状況

ポートランドのこの1年での傾向について、平澤領事は次のように話します。「日本人の巻き込まれた事件で多いのは、車上荒らし、空き巣、置き引きなどです。家や車の鍵をかけず、数分離れただけでも事件は発生します。中には家の前に停めた車にガレージの鍵を置きっぱなしにし、空き巣がその鍵を使ってガレージに侵入した事件もありました。また、ポートランドでは、昨年7月以降、拳銃発砲事件が増加しています。本年1〜4月までの件数は昨年の同時期比で、ほぼ倍です。さらに、ポートランドの昨年以降からの大きな変化といえば、デモや抗議活動でしょう。昨年は100日以上連続で抗議活動が行われ、現在でも、参加者の暴徒化、放火や破壊活動がたびたび発生しています。参加者が暴徒化しやすいのは政府関係施設や警察関連施設の付近なので、極力そのような施設には近付かないこと。また、通常、抗議活動は昼間に始まっていったんは平和的に終わり、暴動が始まるのはその後の夜です。夜間の外出は避ける、不審な人物には近付かないなど、十分注意してください」。

安全の手引き・在留届

外出時の注意事項、治安状況や注意事項は、両領事館とも『安全の手引き』としてまとめ、ウェブサイトで公開しているので、目を通しておきましょう。

もう一つ、在留邦人として行うべきことは、在留届の届け出、または「たびレジ」の登録です。在留届は、日本国外に居所を定めて3カ月以上滞在する人が登録するもの。「たびレジ」は、海外旅行者や海外出張者などに登録が推奨されているものです。登録した地域の安全情報をメールで得られたり、事件事故や災害に巻き込まれた際に安否確認や迅速なサポートが受けられたりします。

「在留届は、一度出した後、他州への引っ越し、家族構成の変更、帰国などを届け出ない方が多くいます。古い情報のままだと、緊急時の安否確認ができないことがあるので、常に最新の情報に更新してください」と両領事館では呼びかけています。

 

【防犯の基本的な対策】(『安全の手引き』より抜粋)

目立たない。

  • 人目を引くような華美な服装・装飾品を身に付けず、周囲の環境に溶け込むことが望ましい。
  • 周囲を刺激するような乱暴な言動、目立つ行を取らない。

行動を予知されない。

  • 毎朝のジョギングなど、外出時に日課を繰り返すなど、習慣的な行動は避ける。
  • 通勤や通学などでの移動時間帯やルートを変える。
  • 個人情報(名前、所属、住所、電話番号、行動予定など)を不用意にSNSに流布せず、不特定多数に知られないようにする。

用心を怠らない。

  • 公共交通機関や人混みの中などでは、所持品から目を離さない。
  • 多額の現金・貴重品を持ち歩かない。
  • 見知らぬ人から話しかけられても、むやみに信用しない。特に道を尋ねられたり、署名運動への署名を求められた場合は警戒する。
  • 単独での外出や、夜間の外出、人通りの少ない道はなるべく避ける。
  • 周囲に不審な者や車両がいないか常に気を配り、尾行や監視をされていないか警戒する。
  • デモや集会には不用意には近付かず、予期せず遭遇した場合は速やかにその場を離れる。
  • 自動車での移動中は常にドアをロックし、窓も必要以上に開けない。
  • 公共料金などの請求書や領収書など、個人情報が記載されている書類は細断、または焼却して捨てる。
安全の手引き

安全の手引きは下記リンクよりダウンロードできます。

シアトル版:www.seattle.us.emb-japan.go.jp/files/000436966.pdf
ポートランド版:www.portland.us.emb-japan.go.jp/files/100199524.pdf

【犯罪被害関連団体】

ワシントン州
Washington State Crime Victim Service Center
TEL : 1-888-288-9221
Web: www.wacvschotline.org

オレゴン州
Oregon Department of Justice Crime Victim and Survivor Services
Web: www.doj.state.or.us/crime-victims

【在留届・たびレジ】

届け出も登録内容の変更も、オンラインで可能。
www.ezairyu.mofa.go.jp

ヘイトクライム|日本人被害者に聞く事件の後遺症と伝えたいこと

2021年2月にヘイトクライムの被害に遭ったシアトル在住の日本語教師、那須紀子さんにお話を伺いました。
(※取材は4月後半に実施しました)

インターナショナル・ディストリクト
事件はシアトルのインターナショナル・ディストリクトで発生しました(実際の動画の画像)。

ー事件に遭遇した当時の状況を教えてください。
2月25日、パートナー(非アジア系男性)が住むシアトルのインターナショナル・ディストリクトで被害に遭いました。時間は夜の9時半。車の中から歩道で周囲の様子を伺っている不審者に気付きました。相手も私に気付き、じっと見つめてきました。私が道の反対に車を停めると道を渡って車の後ろに来たので、彼がまた道を横切って向かいの歩道に戻るまで、車の中でしばらく待っていました。その後、私は車から出てパートナーと落ち合い、一緒に荷物を取りに車に戻りました。すると、その男が道を横切って私たちの近くに寄って来て、突然、石を入れた靴下で私に殴りかかってきたんです。石が顔面を直撃して、私は意識を失い倒れました。気付いたらマスクが血だらけになってその場に座り込んでいました。その後、しばらく容疑者ともみ合っていたパートナーも頭を8針縫う怪我を負いました(那須さん自身も鼻を骨折し、歯を折る大怪我を負った)。私は護身用にペッパースプレーを持っていましたが、前触れもなく襲われたのでスプレーを使う余裕が全くなかったです。

ー容疑者は最初からアジア系を狙って待ち伏せしていたのでしょうか?
その時はそう思いませんでした。でも、金銭的なものは狙われなかったし、ERに運ばれた時に治療してくれた女医さんの旦那さんがアジア系だそうで、そのドクターに「あなたがアジア人だから狙われたんじゃないの?」と言われました。
 防犯カメラの映像を見ると、容疑者は私のパートナーを避けて、私の顔面を目掛けて狙っているのが分かります。そして、私が倒れた後、そのまま立ち去ろうとする様子が映っています。だから元々私のことを殴りたかったんだと思います。その容疑者はインターナショナル・ディストリクトに住んでいるわけではなく、アジア人がたくさんいる地域に武器を用意してやってきて、攻撃する相手を探していたようです。彼は事件の1週間後に逮捕されました。

ー那須さんが受けた怪我の現在の状況と後遺症は?
鼻の骨折は初めて会う方には分からないくらいまで治りましたけど、前の顔を知っている人からは「顔が変わった」と言われます。私は見た目が治る頃には前の状態に戻れると思い込んでいたのですが、そうではありませんでした。当初は脳震とう程度だと診断されました。しかし、今も大きな音などが引き金になって偏頭痛が起こり、痛みがしばらく続きます。いつ治るか分かりません。事件直後はいろんなことが思い出せない記憶障害のような症状にも陥りました。08年からずっと住んでいる今の住所が思い出せなかったりしました。息切れにも悩まされています。症状が3カ月間治らなければ脳損傷の疑いがあるので、専門医に行くようにアドバイスされています。

ー日本語を教えるお仕事だそうですが、お仕事には復帰されたのですか?
私は高校で日本語を教えています。事件後2週間で顔の腫れが引いたので、授業に戻れると思ってオンラインで再開しました。しかし、1時間教えると体の震えが止まらなくなるので、授業の合間に横にならないと続けられない状態でした。ワシントン州の学校は対面式授業を再開していますが、校長先生の配慮で私は今も家からオンラインで教えています。

ーアジア系としてこれまでに差別された経験はありますか?
19年間のアメリカ生活で一度だけ、差別だと感じたことを経験しました。マウントアダムスに日本人の登山仲間と行った時、地元のダイナーで席に通してくれなかった経験です。でも、次の白人のお客さんはすぐに座らせてもらえました。明らかに差別だなと思いましたね。

ー今後もアメリカで暮らす予定ですか?
ずっとアメリカにいると思います。今回の事件は大きなものでしたが、大勢の見ず知らずの方々からお見舞いのお手紙、カードをいただいたことに感謝しています。どこにいても悪い人はいます。私は今回の経験を通じて、人々の温かさを実感する機会をいただいたと受け止めています。

ーアメリカ在住の日本人にメッセージをいただけますか?
日本人の方って意外と「自分はアジア人」と認識している人が少ないように思います。新型コロナウイルスが「チャイナウイルス」だと呼ばれていても、「私は中国人じゃない」と言ったりします。しかし、そういう考えは危ないと思いますし、逆に中国人に対する差別意識の表れだと思います。今の状況を解決するには、アジア人同士だけでなく、人種関係なく全ての人々との連帯が必要です。ヘイトクライムは誰でも被害者になり得るのです。

 

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*情報は2021年7月現在のものです

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