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アメリカで頑張る日本野菜農園

アメリカで頑張る日本野菜農園

アメリカでも日系スーパーはもとより、グローサリーストアやファーマーズマーケットなど、さまざまな場所で目にする日本野菜ですが、いったいどこで誰によって育てられているのでしょうか?今回はカリフォルニア州、デラウェア州、ワシントン州にある日本野菜農園の関係者に、アメリカにおける日本野菜作りの取り組みと、それぞれの農園の物語について伺いました。(ライトハウス 2024年6月号 特集「アメリカで頑張る日本野菜農園」より)

Mair Farm-Taki(ワシントン州)

アメリカで頑張る日本野菜農園 ワシントン州 Mair Farm-Taki
「Mair Farm-Taki」がある、ワインの生産地としても有名なヤキマ・カウンティー。

Mair Farm-Taki(Wapato, WA)
出店するファーマーズマーケット:University District Farmers Market
※土曜開催、Mair Farm-Takiは通常、夏季のみ出店
5031 University Way NE, Seattle(University Heights Center内)

 

「新鮮さとおいしさを実感してほしい」職人気質な野菜作り30年

Mair Farm-Taki 農園の物語

「Mair Farm-Taki」は、現オーナーの滝 克典(かつみ)さんが1996年に引き継ぐまでは、アヒルを的にした射撃に興じる農場、「Mair Game Farm」として運営され、敷地内にはアプリコットやピーチの果樹園も広がっていました。36.5エーカーの土地に2エーカーの池を湛える農園で、購入して28年経った今も、滝さんは夫人と二人だけで作業に当たっています。

滝さんは日本の大学の農学部で水産を専攻、卒業後は滋賀県の水産試験場で技師を務めていました。その後、沖縄を経由して、所属していた日本キリスト教会の農業宣教師としてインドネシア領のニューギニアに渡ります。「水産が専門でしたが、滋賀県の実家では寺を営む両親が自給自足で野菜を作っていたので、知識は持っていました」。しかし、ニューギニアの政情不安の煽りを受けて、1989年には沖縄に戻り、さらに同年、コネチカット州のOverseas Ministries Study Centerでの神学の勉強を目的に家族と共に渡米。「非常に著名な人を輩出しているところでしたが、私は英語が得意ではなかったし、神学を続けるのは難しいと思いました」と滝さんは当時を振り返ります。そんな時に出会ったワシントン州出身の人の紹介で、同州ヤキマ・カウンティーに移り、しばらくプレスビテリアン(長老派教会)運営の農園でボランティアした後に、「Mair Game Farm」を引き継ぐことになりました。

「農園を買ってすぐ、ピーチが病気になっていることが分かりました。もとのオーナーが亡くなってからは未亡人が数年ただ住んでいただけで、畑は荒れ放題だったんです。私自身フルーツのことは全く分からない中、見よう見まねで20世紀(梨)の苗を買って植えてみましたが、その木にはコドリンガ(虫)がまん延してしまいました。それでも試行錯誤の結果、リンゴ、プラム、アプリコット、ブドウといろんなフルーツを作れるようになりました」。

その後、滝さんが着手したのが、ワシントン州では他に作り手がいなかった日本野菜。「最初はレタスやキャベツなど一般的な野菜を作っていました。今でもキャベツは栽培していますが、特徴を出すために日本野菜を中心に手がけることに決めました」。こうして、滝さんがヤキマ・カウンティーに腰を落ち着けて農作業に勤しんだ結果、ワシントン州では「日本野菜なら『Mair Farm-Taki』だね」と言われるまでになったのです。滝さんは、農園を続けてこられたのは、一緒に作業に従事してくれた妻や家族のおかげだと感謝の言葉を口にしています。

アメリカで頑張る日本野菜農園 ワシントン州 Mair Farm-Taki
農園を買い取り、最初は果樹園から始めたと話すオーナーの滝 克典さん

Mair Farm-Takiで収穫できる野菜と特徴

滝さんが育てている野菜は約30種類。ハクサイ、コマツナ、ミズナ、チンゲンサイ、シュンギク、東京ネギ、モロヘイヤ、ダイコン、カブ、日本のキュウリやトマト、サンシャクササゲ(ロングビーンズ)、シシトウ、日本のカボチャ、そしてゴーヤ(ニガウリ)など。

「芋類も作っていたんですが、ゴーファー(アナホリゴファーガメ)に食べられてうまくいきませんでした。逆にゴーヤは最初グリーンハウスで育てていたんですが、風でプラスチックの覆いが吹き飛んでしまったので、その後、普通の畑で作ってみたら、これがうまくいきました。ここは北にあるけれど、夏は暑いから(ゴーヤは)意外と大丈夫なんです」。

実は滝さんの農園、5年前まではオーガニックの認定を受けていました。「農薬も肥料もオーガニックのものを使用し、DNA組み替えの種子は絶対に使わないなど作り方は以前と変わっていませんが、(認定を受ける手続きを回避するために)今は認定を受けていないので『オーガニック』とうたうことはできません」とのこと。認定されていてもいなくても、「安全だと実感できて、新鮮でおいしい野菜を、お客さんに届けるだけです」と滝さんは話しています。

日本野菜の流通範囲

滝さんの1週間は実にシンプルです。月曜から水曜までは畑で作物の世話をし、木曜と金曜は収穫作業、土曜はシアトルのユニバーシティ・ディストリクトにあるファーマーズマーケットで出店、日曜は地元ヤキマのファーマーズマーケットに店を出します。

「コンピューターが苦手だからネット販売もやっていないし、グロサリーストアにも卸していません。ひたすら自分の手で育てた野菜を自分がファーマーズマーケットの店頭に立って売っています。私はお客さんの顔を見て商売するのが一番だと思っています。アメリカ人のお客さんからは『これはどうやって料理するの?』と聞かれます。そうすると『炒めるといいですよ。おひたしもおいしいですよ』などと会話も生まれます。マーケットではよく野菜を調理して試食用に出しています。ゴボウはアメリカ人には未知の野菜なので、キンピラゴボウを作って持っていったり、日本のカボチャはその場で蒸したりして食べてもらいます。お客さんはカボチャの甘さに感動して、すぐに完売してしまいます(笑)」。

農園に直接、野菜を購入に行くことはできないかと聞くと、滝さんの返事は「それはお断りしています。私ともう一人で作業しているので、とにかく人手が足りません。訪ねて来られても対応ができないんです」ということでした。滝さんが丹精込めて作った野菜が購入できるのは2カ所のファーマーズマーケットのみだということです。

今後の計画と課題

滝さんは現在74歳(執筆時)。3人の子どもたちは農園を継がなかったので、後継者問題が今後生じること、さらに現時点でも農園から片道2時間半から3時間かかるシアトルのファーマーズマーケットまで運転して出かけることが今後は負担になるかもしれないとのこと。「私自身はまだまだ大丈夫だと思っているんですが、シアトルまで遠いので、周囲の者が私一人での往復は危険だと心配してくれます」。

なお、2024年は天候の影響で、収穫状況が満足いくものではなかったことから、ファーマーズマーケットへの出店は残念ながら休止することになりました。「いよいよネット販売を始めたらどうか?いえいえ、コンピューターが苦手なだけでなく、嫌いなんです。今もこれからも、コツコツと農園を続けていくだけです」。話を聞けば聞くほど、職人気質な滝さんの確固たるこだわりが伝わってきました。

 

同特集「アメリカで頑張る日本野菜農園」に掲載している下記の農園についてはライトハウスの電子版をご覧ください。
◎Suzuki Farm (Delmar, DE):広範囲に宅配エリアを拡大「豊かな食文化の発展に貢献したい」
◎Green Paradise Farm (Vista, CA):最強の10種類を栽培 二代目に引き継がれたレガシー

 

日本野菜の種を取り扱うオンラインサイト紹介

日本野菜を家庭で栽培・収穫し、食卓で楽しもう!アメリカ国内で日本野菜の種を販売する農園のウェブサイトを紹介します。

True Leaf Market

アメリカで頑張る 日本野菜農園 True Leaf Market ウェブサイト

True Leaf Market
https://www.trueleafmarket.com

50年の歴史を誇る、在米の日本野菜の種苗会社の草分けKitazawaのサイト。野菜の種を単品で購入できるほか、鍋料理にぴったりの野菜の種をセットにした「Shabu Shabu Garden」や「Japanese Heirloom Garden」など各種アソートシリーズも人気。ちなみに「Tsukemono Favorite Pickle Garden」では、ハクサイ、キュウリ、ナスなど7種の漬物向きの野菜の種がセットで22.93ドル(2024年時点)。

Oishii Nippon Project by Tokita

アメリカで頑張る 日本野菜農園 Oishii Nippon Project by Tokita ウェブサイト

Oishii Nippon Project by Tokita
https://oishiinipponproject.com

「最高品質の日本野菜を食卓に」を合言葉に2018年、日本のトキタ種苗によって立ち上げられた「Oishii Nippon Project」のウェブサイト。ネギ、オオバ、ミツバ、コマツナなどの厳選した日本野菜の種を販売。サイト上にはレシピも掲載。

 

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