私たちはいつだって、ふっくら炊き立てごはんのとりこ。アメリカで暮らしていても、このお米への恋心は薄れることはありません。中でも、カリフォルニア州はアメリカでも有数のお米の生産地。この特集記事では、カリフォルニア米の歴史や種類、日系・アジア系スーパーマーケットで見かけるお米の特徴(ぺージ2)など、知っておくだけでもっとお米がおいしくなる知識を紹介します。(ライトハウス 2023年10月号 特集「お米を知ってもっとおいしく! アメリカで米を極める」より)
アメリカの米の生産地
USDAの統計によると、アメリカで2021年に作られた食用米の総生産量は約870万トン。その約20%にあたる166万トンがカリフォルニア州で生産されました(※1)。ちなみに、日本で2021年に作られた米の総生産量は756万トン(※2)。いかにアメリカで米がたくさん栽培されているかが分かります。
カリフォルニア州以外で米の栽培がさかんに行われているのは、アーカンソー州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ミズーリ州、テキサス州の5州。アメリカ中南部にあるこの5州では、インディカ種などの長粒種をメインに栽培しています。
※1 出典:USDA, National Agricultural Statistics Service.より。長粒種、中粒種、短粒種全ての生産量を合わせた数値。
※2 出典:農林水産省全国累年統計表「1 米 (1)水陸稲の収穫量(子実用)」より
カリフォルニア州では、主にサンフランシスコの北に広がるサクラメントバレーでの米栽培がさかんです。シエラネバダ山脈が冬の間にたくわえた雪解け水と、昼夜の寒暖差が激しい気候、粘土質の土壌が米栽培にぴったり!
アメリカの米の収穫サイクル
① 整地(2~3月) |
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Photo Credit | USAライス連合会日本代表事務所 田植えの前に精密なGPSやレーザー整地機械を用いて整地を行い、農地の勾配や傾斜をならします。これは水の使用量を減らし、生産性を高めるための工夫。整地が終わった後は、土地に肥料を加え、稲を育てるうねを作っていきます。4月には植え付けの準備が整います。 |
② 湛水(たんすい)・種まき(3~5月) |
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Photo Credit | https://agairupdate.com/2020/09/03/the-right-tools/ 湛水(たんすい)とは、整えた農地に水を約13cmほど流し込む作業のこと。水の高さを一定にすると、稲の植物としての強さが増すため、雑草の繁殖が抑えられ、除草剤の使用量も少なくできます。アメリカでは飛行機やグレインドリルなどの近代的な技術を植え付けに使用しており、米の種子を水に浸してから飛行機に積み込み、空中から種まきを行う方法が一般的です。重たい種子はうねの中に沈み、土に根付きます。 |
③ 生育(5月~9月) |
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Photo Credit | USAライス連合会日本代表事務所 稲の生育の初期には雑草を駆除するために除草剤を1、2度使用します(オーガニック米の場合は除草剤は使いません)。稲は、田植えから平均120日ほどで90~120cmほどの高さに成長し、夏の終わりには長くなってきた稲穂の上部に実が入り始めます。9月までには、稲穂も成熟し収穫を待つ状態になります。 |
④ 収穫(9月~11月) |
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Photo Credit | USAライス連合会日本代表事務所 収穫の前に農地から水を抜いて乾かし、高性能の刈り取り機(コンバイン)が農地に入れるように準備します。バンクアウトワゴンと呼ばれる特別なトラクターをコンバインに並走させ、稲の刈り取りと同時に茎と米の実を分け、トレーラーに米の実だけを移していきます。 |
⑤ 精米・保管 |
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Photo Credit | USAライス連合会日本代表事務所 米の実が理想的な水分値になるまで乾燥させ、保管します。精米工場では米の実をもみすり機にかけて、もみ殻を除去。そうすると、コメの白い部分を包む糠層がそのまま残った玄米ができるのです。さらに圧力をかけて粒同士をこすり合わせ、精米歩合を上げることもできます。カリフォルニアの精米工場には、ソーラーシステムを導入して全電力を太陽光でまかなっているところもあり、世界でも最新の技術が取り入れられています。 |
アメリカで育つ米の種類
長粒種(Long Grain)
粒の長さが6.61mm以上の、細長い米。インディカ種やタイ米とも呼ばれ、あっさりとした味わいです。世界で最も生産量が多く、アメリカで生産される米のうち、約75%が長粒種(※3)。ジャスミンライスやバスマティーライスも長粒種の一種で、特徴的な香りから「香り米(Aromatic Rice)」とも呼ばれます。
中粒種(Medium Grain)
粒の長さが5.51~6.60mmで、やや淡白ながら粘りのある食感を感じる品種。ジャワ島や中南米で栽培されており、ジャバニカ種とも呼ばれます。アメリカではカリフォルニア州で主に栽培されており、アメリカで生産される米のうち、約24%が中粒種(※3)。「カルローズ」や「國宝ローズ」が有名です。
短粒種(Short Grain)
粒の長さが5.50mm以下の、日本人に最もなじみのある品種。別名ジャポニカ種。コシヒカリやあきたこまちなどが知られており、炊くと粘りとツヤが出て、食べると甘みが口に広がります。アメリカで生産される米の1%が短粒種です(※3)。
※3 出典: USDA, Rice Sector at a Glanceより。
アメリカと米の歴史
アメリカに米が伝来したのは1685年のこと。ノースカロライナ州にマダガスカルからの難破船が漂着し、そこで船の修理代を負担してくれた地元の人々への感謝の印として、船長が少量の「ゴールデン・シード・ライス(長粒種)」を地元の農民に贈ったのです。そうして米栽培に最適な肥沃な沼地が広がっていたノースカロライナ州とジョージア州の境で米の栽培が始まり、イギリスに米を輸出するほど、生産量が増加。さらに米の栽培地は西へと広がっていき、農業の大規模化と機械化が進むと、広大な土地のある中部やメキシコ湾に面する南部でも米の栽培が始まりました。
カリフォルニアと日本の米
1848年にゴールドラッシュが始まると、アメリカンドリームを夢見る各国の移民たちがカリフォルニア州に集結します。その中には約4万人の中国人労働者も含まれていたため米の需要が急増し、ここでも米の栽培が行われることになりました。しかし当時主流であった長粒種の栽培は失敗続き。そこで土壌の専門家が研究を重ね、1908年にサクラメントバレーで日本由来の中粒種の栽培に成功したのです。その成功を機に、サクラメントバレーの土壌と気候には、日本由来の米が適しているという事実が判明し、中粒種に加えてコシヒカリなどの短粒種も栽培されるようになりました。
国府田敬三郎氏の軌跡
カリフォルニアと米の歴史を語る上で忘れてはならないのが、サクラメントバレーで最も古い日系農家「Koda Farms」の創設者、国府田敬三郎氏の存在です。
1882年に福島県で生まれた敬三郎は、アメリカでの成功を夢見て26歳で渡米。カリフォルニアの農場や港で下働きをし、ビジネスの知識と資金を蓄えた後、野菜の加工工場などを経営します。1910年頃からは、北カリフォルニアに土地を借りて米作りに着手。地域全体の農場の助けになるかんがい工事を行い水の供給を安定させたり、広大な土地に飛行機でコメの種を撒くという手法を取り入れたり、種子から店頭販売まで総合的な品質管理をしたりと、日系人の間で「Rice King」の名で親しまれる成功者となりました。
しかし第二次世界大戦が勃発すると、敬三郎はコロラド州のアマチ収容所に送られ、ビジネスの休止を余儀なくされます。戦後すぐに農場に戻りましたが、すでに家や工場、機械設備や飛行機は全て他人の手に渡り、農地の3分の2は無断で売却されていました。土地の売却について、敬三郎はカリフォルニア州を相手に損害賠償裁判を起こし、そこで得た賠償金で少しずつ土地を買い戻し、米作りを再開したのです。
敬三郎は日系人の権利向上のための社会運動も続け、市民権を持たない外国人の土地の所有を禁じる「外国人土地法」の撤廃に成功。また、日系人が融資を受けやすくなるよう、当時の東京銀行カリフォルニア支店の出店の立役者になるなど常に日系人のために行動し続け、82歳で夢と情熱に溢れた人生の幕を下ろしました。
敬三郎の後継者となった2人の息子たちは、育種の専門家と研究を重ねてオリジナル品種の「國寳ローズ」を開発。さらに、アジア人の食卓ニーズに応えたもち米「松竹梅」を発売するなど、事業をさらに拡大。現在は敬三郎の孫が農場を継いでおり、有機米の栽培と流通を成功させるなど、敬三郎の魂を今に伝えています。
国府田敬三郎氏
【特集「お米を知ってもっとおいしく! アメリカで米を極める】
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ライトハウス2023年10月号特集「お米を知ってもっとおいしく! アメリカで米を極める」より。
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