2016年10月 特別インタビュー
■ 「格好悪いふられ方」などのヒット曲や、俳優としても知られる大江千里さん。2008年、47歳でNYへジャズ留学し、現在はジャズピアニストとしてNYを拠点に活動しています。11月にレントンで行われるコンサートを前に、渡米からこれまでのことを伺いました。
▲ おおえせんり◎ 1960 年生まれ。83 年にデビュー。「格好悪いふられ方」などのヒット曲で知られるほか、俳優やMC としてテレビ、映画、ラジオでも活躍。08 年、ジャズの名門The New School for Jazz and Contemporary Music 進学のためNYへ。卒業後は、自身のレーベルを立ち上げ、ジャズピアニストとして日米で活動中。大江千里オフィシャルサイト |
”分厚い壁をぶち破るには、自分で叩くしかない。誰かがヒビを入れてくれるものじゃなかった ”
ー留学の経緯を教えてください。
10代の頃からジャズを学ぼうとして、何度か分厚い壁にぶち当たって、その先に行けなかった。それに、NYに住んでいた90年代、ジャズの学校の前を通るたびに、いつか本場で勉強したいなって思ってたんです。あの学校は今どんな風なんだろう?と調べると、海外から応募できることが分かり、インターネットで気楽に応募したら合格しました。
ー迷いはなかったのですか?
コンサートの予定もあるし、もう47だし、50まで待ってセミリタイアしてからでもいいんじゃないかとか…。マネージャーに相談すると「人生一回しかないから好きなことをしたらどうですか。仕事は全部キャンセルするから、今すぐ準備してください」と言ってくれて、それで決断できました。他に寄りかかる場所を残しておくと本気で学べない気がしたので、レコード会社も所属事務所も辞めたんです。
ー進学していかがでしたか?
自分は感性で即興ができると過信してたんですよ。でも、学校初日、舞台で何人かと演奏を始めた途端「自分だけ全く何かが違う。だめだ」って分かったんです。演奏が終わると「こいつは何もできない」と、周りから誰もいなくなりました。先生にも「最低限のことはやってきてもらわないと困る」と言われたりして。
ーそれでも続いた原動力は?
やっぱり一番大きいのは、ジャズの壁の向こう側に到達したい思い。今は技術的にはできないけど、それは靴紐を結んでないだけ。靴紐の結び方さえ分かれば走れるはずだって、信じてました。
ー学校に行ってどんな気付きがありましたか?
学ぶって痛いんだ、こんなにも自分を変え、捨てないと新しいものは入らないんだって思いました。学校って、体調が悪いとか、気が乗らないとかあっても、次々とカリキュラムをこなさないといけないじゃないですか。47歳でそこに入ったから大変でしたね。
ージャズの厚い壁はどう越えたのでしょう?
たくさん聞いて、覚える。でも覚えては忘れて、また覚えるけどまた忘れて。ある日、クラスメイトが弾いた音で「この音だ!これを逃したら僕はもうジャズの中に入れない」と思い、彼の手の写真を撮り、なんでこんな音になるんだ?って解明したんです。翌日、覚えたての音を弾くと「みんなの中に入れた」って実感できた。分からないことは必死に食らいついて、録音して聞いたり、地下鉄で延々とフレーズを口ずさんだり、そんなことを繰り返してました。
2年経った頃から、バンドのメンバーになったり、オーディションに受かったりし始めたんです。最初は、誰も教えてくれないって憤慨してたけど、結局、壁をぶち破るには自分でコンコン叩いていくしかない。誰かが叩いてヒビを入れてくれるものじゃないって、今は分かる。けれど、あの時は、もっと効率的な壁の向こう側に行く道があると思っていました。
ー卒業後、アメリカに残る決断をされましたね?
僕の学校の学生の多くは他で単位を取って編入して来るので、1年くらいで卒業します。最初、居場所がなくて、廊下の隅をコソコソ歩いてた僕は、4年半で学校の牢名主のようになり、舞台に立つと声が上がったり、大きな顔でロビーで座るように。卒業する頃には、アメリカでやっていこう、第2章のドアを開けたのだから、残りの人生を悔いなく送ろうと思ってました。将来を考えたとき、やっぱり僕は曲を書くのが好きなので、自分のレーベルからアルバムをリリースしたいと思い、会社を設立しました。
ー今はどんな風に活動しているのですか?
このドラマーいいなと思ったらFacebookでメッセージを送って、そこから仕事を始めたり、PRを誰に頼むとか、カメラマンどうするとか、ウェブサイトでアルバムを買ってくださった方に郵送するとか、1つ1つを自分でやってます。ジャズを知れば知るほど、もっと知りたい欲が出てくる。それに音楽の垣根が取れ、ポップスを止めたことで、ポップスの素晴らしさが分かったので、今はまたポップスの曲も書いてます。
ー今度のコンサートのことを教えてください。
7月に出したアルバムの曲と、誰もが知っている曲を僕なりのアレンジで演奏しようと思います。自分の曲もやる予定です。皆さんぜひ来てください。
3rd Jazz Album『Answer July』
iTunes、Amazon.comで配信中
「第5回 ミュージカル・ブリッジベネフィット・コンサート」
○主催: シアトル日系人会
○日時: 11/19(土)1:30pm-3:30pm
○会場: Renton IKEA Performing Arts Center(400 S. 2nd St., Renton, WA)
○金額: $20(19~84歳)、$10(7~18歳)、6歳以下と85歳以上は無料
○チケット購入: シアトル日系人会(www.jcsseattle.org/?cat=3)
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