八神純子（シンガーソングライター）

■『みずいろの雨』などのヒット曲で知られる八神純子さん。約10年のブランクを経て数年前から本格的に日本で活動を再開しています。普段はＬＡに暮らす八神さんですが、11月に行われるシアトル日系人会主催のコンサートへの出演を前にお話を伺いました。（2019年8月）

▲ 八神純子 やがみ・じゅんこ◎愛知県名古屋市出身。1978年『思い出は美しすぎて』でデビュー。『みずいろの雨』や『パープルタウン〜You Oughta Know By Now〜』などのヒットで知られる。86年、結婚を機にLAに移住。2001年以降、日本での活動を中断するものの、10年に出演した音楽番組『SONGS』（NHK）を機に再始動。以後、精力的に活動している。オフィシャルウェブサイト（junkoyagami.com）

”不可能と思わず、信じて動き続けること、声はそんな生き様についてくる。 ”

ー2001年から2010年まで日本で歌う機会がありませんでした。その間、どのような気持ちで過ごされていましたか？
「歌いたい」、「いつか仕事に戻りたい」という気持ちをなくしたことはありませんでしたが、ＬＡで暮らす時間が長くなるほど、現実的に日本での復帰は難しくなるばかりで「これって自然引退？」と自問するようになりました。ずっと生活の中で曲もできていましたし、歌うことは私の自己表現ですから、この問いは自分を締め付けるようで苦しく、歌わないことによって、どんどん自分らしさが失われていくようで怖かったです。

ーそもそも音楽活動を休止した理由は？
2001年の同時多発テロの２カ月後、日本でコンサートツアーが予定されていました。でも、テロを機に、子どもを連れて日米を行き来しながらツアーを行うなど到底考えられなくなり、苦渋の決断でしたが、ツアーをキャンセルに。ですが、この決断を日本では受け入れてもらうことができず、その後、日本でコンサートをすることが難しくなってしまいました。

さらに、いつ何が起きるか分からない恐怖から、できるだけ安全に静かに暮らす生活を選ぶようになり、結果的に活動休止になったんです。

ー2010年、ＮＨＫの音楽番組出演が復帰のきっかけだそうですが、なぜ出ようと思われたのでしょうか？

この番組は、現役で活躍している人しか出られない番組で、「活動休止中の八神純子にとって出演オファーは棚からぼたもち！　出なくちゃ絶対にダメ！」と日本の音楽仲間に後押しされて決意したのです。この番組が高視聴率を記録し、本格復帰が現実的に動き出しました。

ー復帰にあたって、どんな気持ちでしたか？
一番下の子どもの高校卒業を機に、子どもと一緒に羽ばたくつもりでした。アメリカの女性たちが仕事を持ち、生き生きと仕事を語る姿をうらやましく見るばかりの日々から抜け出したかったんです。

再開には恐怖がありましたし、自信もありませんでしたが、真剣にボイストレーニングを続けることで自信を取り戻し、同時に恐怖も薄れていきました。また、約25年、毎日ジョギングをして体を鍛えておいたことが、大きな力になりました。

ー伸びやかな高音が健在。表現は円熟味を増し、コンサートもパワフルです。このパワーの源は？
パワーの源は挑戦です。今まであり得なかったからと不可能とは思わず、それでもあり得ると信じて動き続けること。失敗もたくさんありますが、失敗から学ぶこともあります。声はそんな生き様についてきます。人の声って正直なんですよ！

ー今後、歌手としてチャレンジしたいことは？
生涯現役で歌うことです。「レコーディング中だから」とか「声や頭を休める時間が必要だから」とコンサートを休むと勘が鈍るので、止めないようにしたいです。１年を通じてずっと人前で歌い続ける。そこからいただける力は大きいし、それを重ねていくことが生涯現役で歌うことにつながると思います。

ーライトハウス読者へのメッセージと、11月のシアトル日系人会のコンサートへの抱負をお願いします。
シアトルでのコンサートは初めてです。その昔、日本のテレビで私をご覧になった方々もいらっしゃるでしょうが、私の歌は、生で聴くことで初めてその良さを知っていただけるのではないかと思います。また、東日本大震災以来、被災地に歌を届けています。東北の現状や支援活動の話も交えながら、ゆっくり歌を聴いていただく時間にしたいです。どうぞよろしくお願い致します。

「クリスタルボイス」と呼ばれる美しい高音と圧倒的な歌唱力は今も進化しています。