アメリカで活躍するプロに聞く 〜 働き方改革・最前線!
■この数カ月、世界中で働き方が大きく変わりました。これまでの、そしてこれからの働き方について考えた方も多いのではないでしょうか。以前より自由な働き方を推進してきたIT 企業の方々に「働き方改革」や、それぞれの会社での取り組みを話していただきました。
(ライトハウス・2020年6月号特集「アメリカで活躍するプロに聞く 〜 働き方改革・最前線!」より)
▲ 中村武由/Amazon Web Services Amazon Web Services, Inc.クラウド・インテリジェンス・ビジネス・ディベロップメント・マネージャー。大手電機会社、外資系コンピューター会社を経て、2000年にマイクロソフトに転職。その後、シアトル郊外のアメリカ本社に異動。2016年、Amazon WebServices, Inc.に入社。 |
”進むデジタル化、これから数カ月が将来を見極める鍵に ”
ー新型コロナウイルス流行前までのアメリカでの働き方改革のトレンドについて教えてください。
在宅勤務にはメリットとデメリットがあり、それぞれの会社が業種や社員の職種によって在宅勤務か否かを使い分けてきたと思います。例えば、過去に米国大手IT企業のIBMが社員に対して出社しなくてもいい、家から仕事してもいいという働き方に変更しましたが、結果的に社員の生産性向上にはつながらず、オフィススペースの減少などによるコストダウンに終わり、2017年にはオフィスで勤務するようにポリシーを戻しました。生産性を上げられなかったのは、在宅勤務によって社員同士のコラボレーションがうまく図れなかったことが大きいと言われています。
コロナ以前のAmazonは、会社以外でもどこでも働けるようにしたのですが、IBMと違う点は、フリーアドレスの職場も用意したことです。Amazonの場合は、チームごとに与えられたスペースの中で自由に場所を決めて働いています。チームの他の人とは通常顔を合わせることはなく、話す必要があるときはAmazonの「Chime」というコミュニケーションツールでチャットをします。同じチームのメンバーは20人くらいですが、皆、全米に散らばっているので、実際に会うのは年に2、3回でした。ちなみに、Amazonでは、全員がフリーアドレスというわけではなく、ソフトウエアやクラウドサービスの開発に携わる人たちには自分専用の席が与えられています。チームごとに、どういう形が最も生産性を上げられるかによって分かれています。つまり、会社側が常に働く形と成果の関連性を注意深く観察して最適な方法を提案し実践に移していたということです。
ー新型コロナウイルスの流行以降、日本での働き方が変わってきた実感はありますか?
多くの企業でオンラインツールの利用が飛躍的に増えています。パーソル総合研究所の調査によると、4月のリモートワーク実施率の全国平均は28%で、3月上旬の13%から2倍以上に拡大したとのことです。日本ではまず、従来から在宅勤務のインフラを持っていた大企業やIT系企業から自宅勤務が始まりました。AmazonWeb Services(以下AWS)では、リモートワークの体制を持っていない企業からオンラインツールの導入に関する相談が増えており、日本でもリモートワークが飛躍的に増えていると実感しています。しかし、人員や予算の関係で、この流れに取り残されている企業もありますし、工場の生産ラインなど、全ての業務がリモートでできるわけではないので、米国と比べれば、オンラインツールを使った自宅勤務の浸透率は低いと思います。
ー中村さんご自身も3月から実際に自宅勤務をしてみて、気付いた点はありますか?
個人的なメリットとしては、通勤時間が不要になって体力の消耗を減らせ、家族とのコミュニケーション量が増えてワークライフバランスが向上しました。また、自宅の環境を整えることで、集中力を持続できるようになったと思います。これ以外の変化としては、約2カ月に1回行っていた日本出張がなくなりました。以前はリモートで日本のお客様の会議に参加する際は「フェイストゥーフェイスではなくて、すみません」と恐縮する感じがあったのですが、今では日本のお客様もリモートが常識のようになり、リモートでの会議に参加しやすくなった実感があります。
IT関係の仕事は、比較的リモート業務がしやすいのですが、営業職のように自宅待機の影響を受けている職種もあります。弊社でも面識のあるお客様はリモートに切り替えても仕事がスムーズですが、新規のお客様とリモートでコミュニケーションを取るのは大きなチャレンジです。
仕事上の気付きは二つあり、一つは情報共有が、より重要になったことが挙げられます。従来は、定期的に顔を合わせることで進捗を共有したり、無意識的に職場で情報が耳に入ったりすることがありましたが、リモートワークでは自分から積極的に発信しないと話が伝わりません。自宅勤務を始めてから、自分の活動をより詳細に報告するように意識しています。
もう一つは、あまりよく知らない人とのオンライン会議は、互いに気を遣って話の進行がスローになりがちなことです。従来は入社したての人でも定期的なチームミーティングで会えば情報共有がしやすく、分からないことも気軽に聞けたのですが、今は新しく入った人がちょっとしたことを聞ける場が少ないと感じています。
もっと長期的な視点では、直接会って話ができなくなることによる、クリエイティビティーの低下を懸念してます。オンラインは、プレゼンテーションや一問一答式のような会議ならいいのですが、ディベートのように議論を交わすことは難易度が高いと思います。従来、課題を解決するときには、突拍子もない意見でも出やすくなるように、リラックスできる場所にメンバーが集まり、そこでアイデアを出し合い、その中から一番ベストな方法に絞り込んでいく手法が取られてきました。現時点でのオンラインツールのテクノロジーには、そこまでインタラクティブ性がなく、フェイストゥーフェイスでの議論を上回ることはないと思います。
ー今後、働き方、仕事のあり方はどのように変わると思いますか?
業界や職種を問わず、ビジネスのデジタル化は加速度的に進むでしょう。顧客からオンライン化の期待に応えられない企業は事業が立ちいかなくなる、そんなところまでいくと思います。
オンラインツールは日進月歩で良くなっていますが、改善の余地はあります。例えば新規顧客がツールを使い始めるときは、情報漏洩保護の観点から、専門性のある人が設定を行わなければいけません。AWSのようなITサービス企業にとって、ツール導入の簡素化と使いやすさの向上は課題です。また、近い将来、フェイストゥーフェイスに近い体験のできるオンラインツールが出てくると思います。
働き方では、リアルなミーティングへの参加基準はシビアになるでしょう。米国は、関係者が地理的に分散していることもあり、なるべくリモートを利用する風潮でやってきていましたが、今後は日本でもそれが進み、ミーティングはオンラインが基本で、顔を合わせるミーティングであっても、リモート参加の選択肢があることが標準になると想定しています。
また、私が注目しているのは企業イベントのオンライン化です。従来、コンベンションセンターを借りて数千人、数万人を集めていたカンファレンスや新作発表会のオンライン化が始まっています。しかし、今のところ、リアルとオンラインの比較が測定できているカンファレンスは、ほぼないと思います。カンファレンスは新しい商機創設の機会で、参加する企業同士のコミュニケーションの場でもあります。それが果たしてオンラインでできるでしょうか? オンラインイベントは主催者が仕切り、それに対して参加者が質問することが多く、参加者同士の横のつながりが生まれにくいのです。これから秋ぐらいにかけ、各種オンラインイベントが増えてきますので、その結果次第で、今後が見えてくると思います。オンラインイベントで、リアルのイベントに近い成果が得られれば、それが標準になるでしょう。もしくは、まだオンラインでは限界があると分かれば、規模や開催サイクルは変わるかもしれませんが、一定数以上のリアルなイベントは残ると考えています。
今後3カ月から半年は、そういった今後の仕事上の外出の基準を見極める時期になると思います。
【Amazon Web Services, Inc.】
Amazon社内のビジネス課題を解決するために生まれた事業部門。2006年にはAmazon Web Services, Inc.(AWS)として企業向けにもウェブサービスの提供を開始。Amazon全社で働き方改革を推進すると同時に、多岐にわたるサービスを提供しながら、企業の情報システムの刷新や社員の働き方改革を提案している。
同特集での大西正之さん(Cisco Systems, Inc.)、山田理さん(サイボウズ)のインタビューはこちら »
出勤義務はないものの、コロナ禍以前はシアトル市内のオフィスに週4日は通勤していた中村さん。
通勤バックに仕事道具を入れ、午前と午後で席を移動することで自宅勤務にメリハリをつけています。
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