コロナ・パンデミックと戦う人々|渡瀬剛人さん
■ 3月以降、全米で感染拡大し、私たちの生活を一変させた新型コロナウイルス。この未曾有の状況の中、最前線で働き続けてきた日本人医療従事者やレストラン関係者、スーパーマーケット従業員などの生の声をお届けします。
(ライトハウス・2020年7月号特集「コロナ・パンデミックと戦う人々」より。※本記事は2020年6月中旬に行った取材を元に制作しました。)
▲ 渡瀬剛人/医師、ワシントン大学ハーバービュー・メディカルセンター救急副部長 ニューヨーク生まれ。2003年名古屋大学医学部卒業。日本での病院勤務を経て、07年に渡米し、Oregon Health and Science Universityで救急レジデントを開始。同校でED Administrationのフェローシップを修了、MBAを取得。12年よりハーバービュー・メディカルセンターで救急医として勤務している。 |
”ワクチンも治療薬もない新しい感染症、大切なのは一般市民の協力 ”
ー渡瀬さんの働く病院とお仕事について教えてください。
私の働くハーバービュー・メディカルセンターはキング郡が所有し、中で働く職員は皆、ワシントン大学に所属しています。アラスカ州やモンタナ州など、ワシントン州外からも外傷患者が送られてくるので、外傷センターとしては全米トップ5の規模に入ります。また、脳血管障害患者も積極的に受け入れています。
キング郡の所有する病院なので、ホームレス、刑務所の受刑者、麻薬中毒者、銃撃事件の怪我人など、いろんな人が来院し、この辺りの他の病院とは、少し様子の異なる病院です。
私はここで救急医としてERで勤務し、また、救急部の副部長としてERのオペレーションも担っています。さらに医学生や研修医の指導や研究もしています。
ーなぜ救急医になろうと思ったのですか?
ずっと全身を診られる医師になりたいと思っていました。総合内科、感染症など全身を診る医療の中で、いつどんな人が来るか分からず、限られた時間と情報の中で最前の選択をしていく救急の緊張感が自分に合っていたんです。
ー新型コロナウイルスの流行により、職場環境や仕事はどのように変わりましたか?
2月末から、新型コロナウイルスの患者が来る想定で、PPE(個人防護具)を付けるようになりました。マスクにガウン、手袋を付けて、それを脱ぐのにも時間が必要で…、日常の診療の煩わしさは増えましたね。作業効率も格段に落ちました。
3月から4月頃、現場での診察以上に大変だったのは、病院のマネジメントやオペレーションです。感染の疑いのある人とそうでない人を、どこで分けてどこで診るのかなど、朝から晩までミーティングがありました。シアトルは全米で最初に新型コロナウイルス感染者が見つかり、死者を出したところなので、最初の頃、頼りになったのは中国、日本、アジアの国々からの情報だけでした。日々、新しい情報が次々と更新される中、それを生かして新しいガイドラインを作り、皆に広めることが私の仕事です。「今、このガイドラインを書いている間にも新しい情報が入ってくるのでは?」と心配しても、やるしかありません。実際、手順が1日に何回も変わったり、新しい情報が入るたびに対応を変えたりすることもあり、現場の教育や混乱の収束に時間をとられました。
また、最初に感染者が出た地域として、全米の大学や病院から問い合わせが多く、その対応も大変でした。
幸い、Stay Home Orderのおかげで、救急の患者さんは減ったので、救急外来がパンクすることはありませんでした。
ー感染予防としては、どのようなことをしていますか?
後から分かってきたことですが、基本的に新型コロナウイルスは飛沫感染をするので、マスクにゴーグル、手袋、ガウンを着ておけば、まずかかることはない病気です。なので、診療の時は必ずそういった装備をします。シフトが終わった後は、必ず着替えて、現場で使う椅子やパソコンは使う前後に必ず消毒をしています。これまではパソコンの脇にコーヒーを置くスタッフもいましたが、今では現場での飲食は禁止になり、食べ物は一つの部屋にまとめて置くことになりました。そうしたこともあり、うちの病院の指導医で感染した人は誰もいません。
ー渡瀬さんが新型コロナウイルスの患者と接するのはどういったシーンなのでしょうか?
後から分かってきたことですが、基本的に新型コロナウイルスは飛沫感染をするので、マスクにゴーグル、手袋、ガウンを着ておけば、まずかかることはない病気です。なので、診療の時は必ずそういった装備をします。シフトが終わった後は、必ず着替えて、現場で使う椅子やパソコンは使う前後に必ず消毒をしています。これまではパソコンの脇にコーヒーを置くスタッフもいましたが、今では現場での飲食は禁止になり、食べ物は一つの部屋にまとめて置くことになりました。そうしたこともあり、うちの病院の指導医で感染した人は誰もいません。
ー職場の雰囲気はいかがですか? また、新型コロナウイルスによる変化はありましたか?
3月から4月の私の周囲は、ちょっと殺伐としていました。新型コロナウイルスがどれだけ怖いものか分からず、どのように発生するかも分からなかったので。今は、きちんと手洗いやマスクの対応をしていれば、怖い病気ではないという確認ができましたから、ずいぶんと落ち着き、同僚とは第2波はいつ来るだろうとか、今後の医療の変化について話すことはあります。
これまで、医療現場では、仕事中にうっかり手洗いを忘れてしまうことがあったかと思います。例えば、MRSAのように、主に手洗いが徹底されてないことが原因と言われる院内感染があるのです。しかし、手洗いや消毒、マスクやフェイスシールドの習慣が徹底され、今後、院内感染は減るのでは?と思っています。とても良い変化です。
ー家庭では、新型コロナウイルスや仕事について、どのようなことを話していますか?
妻も医師なので、新型コロナウイルスの流行が始まった頃は、病態生理や公衆衛生について、互いによく話していました。
子どもにも病気の症状や世の中の状況、そして私が職場で新型コロナウイルスの患者さんを診ていることは伝えています。子どもがあまり重症化する病気ではないので、不安をあおることは言わないようにしてきました。自分たちができることをやっていれば、そのうちワクチンができるから、不安がることはないよと伝えています。
ーYouTubeチャンネル「コロナ最前線」で積極的にメッセージを出されていました。なぜ、このような活動に参加しようと思ったのですか?
あの動画を出した4月上旬は、とにかくステイホームが大事な時期でした。新しい感染症が発生した時、行政と医療従事者だけではどうにもできません。ワクチンも治療薬もなく、ウイルスと戦うには感染拡大を最小限に止めるしかなく、そのとき、一般市民の協力がとても大切になるわけです。そういった気持ちから、湊先生や島田先生(電子版へ)に賛同して参加させていただきました。結果的に、ワシントン州は自宅待機をとても頑張ったと思っています。
YouTubeチャンネル「コロナ最前線」では、全米の日本人医師が新型コロナウイルスについて解説しています。
ーワシントン州の現状はどう考えますか? また今後についてどう思われますか?
ワシントン州は医療崩壊を免れたと言っていいでしょう。ワシントン大学のIHMEの報告によると、ワシントン州は最初、一気に患者数が増えましたが、ピークを低めに抑えられたので限界点に達することなく波は縮小に向かっています。
しかし、次の波がいつ、どれくらいの大きさで来るのかは何とも言えません。IHMEの予測では9、10月頃から第2波が来るとしています。ただ、これは個人的な意見ですが、第2波は第1波よりひどくならないと思います。病態がある程度分かり、検査体制も整ったので、発見と対応が素早くできるからです。ワシントン州の患者数は減っているものの、その減り方が緩いので、まだまだ要注意です。実際、州の東部では患者数が増加しています。病院では、少しでも風邪の症状がある人は一般患者と分けて診るという診察方式が続きます。集団免疫ができるまでは、この体制が続くでしょう。
早くワクチンができて、皆が接種できるようになればいいですね。それまでは、ソーシャルディスタンス、手洗いとマスクの着用を徹底するしかありません。人によって不安の大きさは違うでしょうが、まずはそれらをしっかり続けていれば被害を最小限に食い止められるのではないかと思っています。
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ダウンタウン・シアトルから程近くに建つ、ハーバービュー・メディカルセンター。
今回のコロナ禍では、ERの指導医としてはもちろん、情報収集やERのオペレーションの指揮、現場の見回りからテントの設営まで、幅広く活躍した渡瀬医師。
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