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本田まなみさん(ナースプラクティショナー、はあとのWA代表)


コロナ・パンデミックと戦う人々|本田まなみさん

3月以降、全米で感染拡大し、私たちの生活を一変させた新型コロナウイルス。この未曾有の状況の中、最前線で働き続けてきた日本人医療従事者やレストラン関係者、スーパーマーケット従業員などの生の声をお届けします。
(ライトハウス・2020年7月号特集「コロナ・パンデミックと戦う人々」より。※本記事は2020年5月に行った取材を元に制作しました。)

 
本田まなみさん/ナースプラクティショナー、はあとのWA代表

本田まなみ/ナースプラクティショナー、はあとのWA代表
正看護師を経てワシントン大学大学院を修了後、ナースプラクティショナーとして幅広い年齢・病歴の患者にケアを提供。医療関連の情報発信を行うボランティア団体「JIAコミュニティはあとのWA」の代表。
Web: heartnowa.net

”免疫力が低い高齢者を相手に、自分がかかっていると想定してケアする ”

ー本田さんのお仕事について教えてください。
私の仕事はナースプラクティショナーです。ナーシングホームにいるリハビリ中の方や長期入院の方にプライマリーケアを提供しています。また、外出が困難な方の施設での訪問医療も行っています。

ナースプラクティショナーは、日本語では「診療看護師」と呼ばれることがあります。正看護師の上のレベルであり、修士学以上の学位が必要となります。自分で診断することができるので、患者と深く関わることができる仕事です。私はナースプラクティショナーになって7年になります。

ーワシントン州では、米国内で最初の新型コロナウイルス感染による死亡者が出ましたね。最前線で働く医療従事者として、以前とは仕事の内容はどのように変わりましたか?
仕事の内容は大きく変わりました。以前は、患者の症状を見て、まず肺炎なのかインフルエンザなのか、それともただのウイルス性の風邪なのかという診断を下していました。しかし、新型コロナウイルスが発生したことによって、この感染病も考慮に入れて、診断や治療を行わなければならなくなりました。

また、新型コロナウイルスの出始めの頃は、検査キットが足りず、検査も簡単にオーダーできませんでした。陰性なのかどうかも分からない。よって症状が出ている場合は、陽性を前提に隔離しなければなりませんでした。

さらに、以前なら血液検査などを行いたい場合、ラボの人を要請すれば施設に2時間ほどで駆けつけてくれたのに、新型コロナウイルスのせいでラボの人手が足りなくなりました。マスクやガウンの準備ができないから行けないと断られたこともありました。その頃から2カ月が経ちましたが、今ではラボのスタッフがすぐに調べに来てくれるサービスそのものがなくなりました。既にスケジュールで決まっているときにしか、来てくれません。そのため、血液検査の結果がすぐに出ないので、私のようなナースプラクティショナーや医師が、結果なしでその時点でのベストな判断をしないといけなくなり、精神的にかなり大変なプレッシャーを感じています。

ー施設でコロナ感染を予防するための衛生面での変更や、本田さん自身が気を付けていることは?
ワシントン州の多くの施設では、大統領が指示する前に、面会が制限されました。以前は家族や友人がいつでもナーシングホームやアシステッドリビングの入居者に面会ができました。でも、今は特別な状況以外はシャットダウンされています。医療従事者のようにどうしても入館が必要な場合はスクリーニングを行い、トラッキングするための連絡先などの細かい情報を記入した上で入館が許可されます。

私自身が衛生面で気を付けていることは、以前とそれほど変わりません。従来から、感染予防の対策は全ての患者に適用してきました。今は、新たにマスク着用が必須になりました。もちろん、手洗いを徹底し、手袋も使用しています。使ったものを消毒することも以前から当たり前のようにやっていました。

そして、今は自分が感染しているかもしれないと想定して行動しています。相手は私より免疫力の低い高齢者ですから、患者にうつさないように気を付けることが大事です。

ー感染者の状況を聞かせてください。
私の場合、新型コロナウイルスに感染した患者に関わるケースは3種類に分かれています。まず、新型コロナウイルスにかかって入院していた方が退院し、ナーシングホームにリハビリのために入居したケース。治療を受けた後に検査で陰性だったので退院できた患者たちで、これはかなりの数に上ります。次は、訪問医療先の患者のケアギバーさんから症状悪化の連絡を受けて、感染しているかもしれないからと病院に搬送された後に検査でコロナ陽性が分かるケース。

そして、最近になると、シアトル近辺では公衆衛生局によって、誰でもコロナの検査を受けられるようになり、症状が出ていない人も一斉に検査を受けたんですね。そうしたら、何件か陽性の患者が出ました。

私が普段担当している患者の中には認知症の方もいて、彼らの中には社会情勢やウイルスについて理解できずに、隔離されている理由が分からない人もいます。そうなると鬱になったり、フラストレーションを溜めてしまったりする人も多いです。

ー現在のような状況下で働くモチベーションとなっていることは?
エッセンシャルワーカーとして「自分が休んだら誰が患者のケアをする?」という気持ちです。替えが利かない職業であり、自分の仕事を全うするのが当たり前だと思っています。こう思えるのも、自分に持病などがなく、健康だからかもしれません。自分でなければできないという自負もあります。何より、自分の患者さんが相手ですから。

もちろん、今現在、私たちのストレスレベルは高いです。周りの看護師やケアギバーのストレスが伝染し合って、ピリピリした状態です。疲労が溜まっています。以前だったら友人と外食したりスパに行ったりできましたが、今はそれができないのでストレスを発散する方法がないのがつらいところです。

実は私の夫も看護師として働いています。家では、患者のプライバシーを保護した上で、職場で感染者が出ると、それをお互いに伝えるようにしています。二人とも戦っている? いいえ、私たちはただ仕事をしているだけです。

ー今のような状況はいつまで続くでしょうか?
そうですね、私の患者さんの場合、高齢者の方が多く、既に病気にかかっている人たちなので、一度回復しても、抗体について詳しく分かっていないため、いつまた陽性になるか分かりません。ワクチンやインフルエンザのタミフルのような特効薬ができない限りは、危険性の高さを考えながら、今後も治療には慎重に取り組んでいかなければなりません。

ー最後に本田さんの今後のビジョンについて教えてください。
今の仕事が向いているので、今後も続けていくと思います。西洋医学だけでなく、オルタナティブメディスン(代替医療)についても勉強して、さらに患者さんのケアに役立てたいと考えています。また、大学での看護教育にも携われたらと希望しています。

 

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*情報は2020年7月現在のものです