特集「アメリカにいる、スゴイ日本人デザイナー」より
■ アメリカには、それぞれの分野の第一線で活躍する日本人デザイナーたちがたくさんいます。その中でもライトハウスの編集長・東條が「今、話を聞きたい!」と思った方に、インタビューを敢行! (※ライトハウス・2023年9月号特集「アメリカにいる、スゴイ日本人デザイナー」掲載の太田翔伍さんへのインタビューを元に、作成しています。情報は2023年9月時点のもの)
シアトルを拠点に、StarbucksやアイスホッケーチームのSeattle Krakenなど、多数のビッグクライアントから依頼を受け、デザイン、アートの仕事を手がける太田翔伍さん。水彩画、細密画、スプレーを使ったステンシルなど、さまざまな手法で独自の作品を生み出す太田さんに、インスピレーションの源や作品作りで意識していること、今後の展望などを伺いました。
② シアトルから車で約1時間、Camano Islandにある自宅アトリエで作業する太田さん。森に囲まれた緑豊かな環境で、思う存分クリエイティビティーを発揮している。 ▲ 太田翔伍 Web: www.tiremanstudio.com |
”見た瞬間に気に入ってもらえる、"一撃必殺"なもの作りがしたい ”
ー デザインの道に進んだきっかけは?
日本の大学入試に失敗し、母のすすめでアイダホ大学に進んだのですが、1年目はやりたいことが見つからず、経済でも勉強しようと思っていました。ただ、当時からファッションや音楽は大好きで。大学1年目の終わり頃、友達から「アートとかデザインをやってそう」と言われたのをきっかけに、「やってみようかな」と軽い気持ちでグラフィックデザインを専攻しました。でも、実際にやってみると、子どものころから図工や美術が好きで得意だったこともあり、すごくしっくりきましたね。
ー 影響を受けたアーティスト、インスピレーションの源を教えてください。
学生時代はステンシル(文字や絵をくり抜いた型にスプレーをかけて転写する技法)を使ったストリート系のアートが好きでした。例えばFAILEとか。あとは、アンディー・ウォーホルや(ジャン・ミシェル・)バスキアは昔から好きですし、デヴィッド・チョーという、Facebookが大きくなる前に初代オフィスに壁画を描いたことで有名なアーティストも好き。日本だと、山下清の作品もすごいと思います。
- 週末に何をする?:パドルボード、カヤック、キャンプ、マウンテンバイクなどアウトドア全般
- 長年愛用しているもの:20年前に母親が作ってくれた革の財布とペンケース
- 最近買って良かったもの:SnowPeakのキャンプ用品一式
- 好きなブランド:Filson、Danner、Patagonia
- 好きな食べ物:寿司、酒、ダンジネスクラブ
- 好きなミュージシャン:最近だとUnknown Mortal Orchestra、Black Pumas
ー 太田さんといえばStarbucksのカップ(下の写真参照)が印象的なのですが、このデザインに至った経緯は?
このカップの前に、StarbucksのCommunity Store(特定の地域の経済、雇用をサポートするための店舗)からポスターデザインの依頼があって、それが「人と人でつながろう」という思いを込めた一筆描きの作品だったんです。それが本社の壁に貼られていたのがエグゼクティブの目に留まって。大統領選の年(2016年)だったこともあり、 大統領選で割れる世間に対し、「皆でつながろうという」というStarbucksのメッセージにマッチして、カップのデザインを依頼されたという経緯です。
ー 一筆描きなどの細密画以外に、水彩画、ステンシルなど、さまざまな技法を使われていて、一つのスタイルに縛られていない印象があります。
単に飽き性なんです(笑)。同じスタイルで作品を作り続ける人もいますが、自分はそれが好きじゃなくて。クライアント相手の仕事が多いので要望には応えないといけませんが、そこか 単に飽き性なんです(笑)。同じスタイルで作品を作り続ける人もいますが、自分はそれが好きじゃなくて。クライアント相手の仕事が多いので要望には応えないといけませんが、そこから少し外れても、それまでやったことのない何かを加えたりはしたいですね。
ー 代表的な作品をご紹介ください。
例えば壁画だと、NFLのSeattle SeahawksとMLSのSeattle Soundersのホームスタジアム、Lumen Fieldに描いたものがあります(下写真①)。シーホーク(盗賊カモメ)とSoundersのマスコットであるオルカ、さらにチームスポンサーであるStarbucksの人魚、ピュージェット湾などを背景に入れました。あと、2022年に、NHLのSeattle Krakenの試合前に行われたエコイベント「Green Night」のためにユニフォームをデザインしました(下写真③)。選手が実際に着用した後、チャリティーオークションで観客に売られたのですが、全部で5万ドルくらいの売上になり驚きました。あとは、レストランやショップのブランディング・デザインも手掛けていて、例えばシアトルの「Taku」というからあげ専門店のデザインは面白かったですね(下写真④)。
ー 作品制作で意識していることは?
「一撃必殺」が一番(笑)。世の中には説明が必要なアートも多くあります。でも自分は、買い物に行って、見た瞬間即買いしたくなるスニーカーやTシャツのような、理由もなくすぐ気に入ってもらえるものを作りたいです。
ー 今後の展望を教えてください。
彫刻に挑戦したいです。裏庭には木がたくさん生えているので、それを切って使っても面白そうだなと。あとはスニーカーをデザインしたいという夢がずっとあって。今、故郷の郡上八幡の郡上おどりで使われる下駄を作る仕事をいただいているんですが、スニーカーまであと少しですね(笑)。
① Lumen Field内の壁画。スプレーペイントとアクリルを組み合わせて描かれた大作。
③ 2022年、Seattle Krakenの試合前に行われたエコイベント「Green Night」用に制作したジャージ。中央にはウォーターボトルやソーラーパワーなど、エコをイメージする絵が細かく描き込まれている。
④ シアトルの有名シェフ、中島正太さんがからあげ専門店「Taku」をオープンした際、ロゴ、ネオンサイン、揚げ物に敷くシートなどをトータルでデザイン。
ポスターも多数制作。これはBreaks and Swellsというバンドのシングル曲『Ladybugs』用に作ったもの
Starbucksで採用された、人々が一筆描きでつながったイラストがプリントされたカップ
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*情報は2023年9月現在のものです