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Google ソフトウエア・エンジニア 岩尾 エマはるかさん


特集「アメリカIT最新動向&IT業界で活躍する日本人」より

■ 世界一のIT先進国と言われるアメリカ。中でもIT系の大企業はベイエリアやシアトルなど、西海岸に多くあります。今、この地から何が起きているのか。最新の動向と、その現場で働く日本人をご紹介します。(※ライトハウス・2024年3月号特集記事に掲載のGoogle ソフトウエア・エンジニアの岩尾 エマはるかさんへのインタビューを元に、作成しています。情報は同号の発行時点のもの)


Googleのクラウドコンピューティング・システムでエンジニアを務める岩尾エマはるかさん。岩尾さんは2022年にGoogle Cloudで円周率を100兆桁まで計算し、世界記録を達成しました。そんな岩尾さんに、エンジニアになった経緯やこれからのことを伺いました。

ソフトウエア・エンジニア(Google)の岩尾 エマはるかさん

岩尾 エマはるか
いわお・えま・はるか◎大阪府出身。筑波大学大学院修了後、パナソニックに入社。その後、GREEなど数社を経て、2015年、Googleに入社。2019年に渡米。2019年に円周率の値の計算の世界記録を達成。2022年にその記録を更新し、円周率100兆桁の計算を達成(世界記録)。2023年7月より現職。

 

”企業や開発者が、より開発しやすい環境を作りたい ”

ー ソフトウエア・エンジニアは昔から目指していたのですか?
小学生の時からゲームを作るなどでコードを書いていましたが、当時は将来の仕事と結び付いていませんでした。数学より国語や社会の成績が良かったので大学も文系へ。しかし、担任の先生に「コンピューターが好きなら専攻を変えては」と勧められ、2年生から情報学類に移りました。その時も「好きなことを勉強できる」くらいの気持ちで、就職のことは考えてはいませんでした。大学院を出た後は、就職してカーナビのソフトウエアなどを開発。最初から「絶対にエンジニア職」と思っていたわけではないのですが、仕事やプライベートを通じ、徐々に自分でコードを作ってみたい思いや、ウェブの新しい技術に興味が湧き、携帯ゲームで知られるGREEなど、いくつかの職場を経験しました。

ー Googleとの出会いは?また、なぜアメリカに来たのですか?
Googleにはずっと漠然とした憧れがあったのですが、入社試験で落ちたんです。それでもリクルーターから「また受けませんか?」と連絡が来て、受けては落ちるを5回ほど繰り返した末、2015年に受かりました。日本で働いていた時から上司はシアトルにいて、「アメリカで働きたい」と伝えたら許可が出て、2019年に渡米。アメリカはGoogleをはじめ、ITの本場なこと、将来的にさまざまなチャンスがありそうとか、お給料がいいとか来た動機はいろいろですが、一番はアメリカでやってみたいという純粋な好奇心からです。

ー 現在の仕事内容は?
Google CloudのCompute Engineというシステムを構築する基盤を担当しています。一般のエンドユーザーではなく企業が顧客です。例えば任天堂、Major League Baseball、PayPal、セブン-イレブン・ジャパンなど世界中の企業や団体がGoogle Cloudを利用し、サーバーの数も、その上で動くソフトウエアも莫大な数で、それぞれがいろいろな使い方をされています。Google Cloudでそうしたお客さまのサービスが安全に安定して稼働するような仕組み作り、管理や更新をしています。仮に新しい機能を追加して、何かを壊すことがあってはならないし、お客さまの名前で提供するサービスに影響が出たら大変なので、非常に緊張感と責任のある仕事です。

ー そのGoogle Cloudを使い、2019年と2022年に円周率の桁数の世界記録を樹立されました。どのような経緯で達成したのですか?
以前所属していたチームでは、毎年3月14日の円周率の日に、円周率を題材に「Google Cloudでこんなことができます」とデモを行なっていたんです。2019年、扱うデータ量とクラウドのコンピューターの性能を計算すると世界記録に届きそうだったので挑戦しました。周囲は「まあ、やってみれば?」みたいな感じで、あまりできると信じていなかったように思います。クラウド上にデータを保存できる大きなストレージを作り、プログラムを設定しました。進捗状況やシステムの状態が一目で分かるダッシュボードで時折確認するくらいで、基本的にプログラムは放ったらかし。計算には4カ月かかり、普段は普通に仕事をしていました。2022年に出した100兆桁が世界記録で、まだ誰にも抜かれていないですが、機会があればまたやってみたいです。

ー 岩尾さんの今後の目標は何ですか?
Google は「Site Reliability Engineering (SRE)」という概念を提唱し始めた会社です。これは開発や運用などの仕事を分業せず、開発チームと一緒に知見を共有しながら複雑なシステムを動かしていくことを指します。その元祖の会社で働いているので、そこはきちんと学んでいきたいです。技術者としては、自分の考えた仕組みやシステムで何か大きな良い変化や改善が起こせたらいいですね。また、できるだけ第一線で長く働き続けたいです。私はアメリカの大学を出ていないし、英語は非ネイティブで、女性で、それでも海外で働いています。誰かにとって参考になるようなキャリアを歩んでいけたらと思います。

ー 岩尾さんはAIを使いますか?また、AIの台頭に何を感じていますか?
例えば私も時折使うGemini for Google Cloud(旧Duet AI)では、自分が書くコードに従って、定型的な変更点などを自動的に提案してくれます。AIがこうしたサポートをすれば開発者としての本質的な仕事に集中できるようになりますから、こんな風に人を助けるAIが増えていくのは、いちユーザーとして楽しみです。また、AIの登場により、AIを動かすためのシステムの構築や、新しい半導体やプロセッサー、GPUやTPU(共に集積回路の一種)が大事になってきています。私個人としては、将来AIがどうなるかより、AIを効率良く、順序良く動かす仕組み作りの方が気になりますね。システム構築が専門なので、これからはAI開発者に向け、最新技術に注意を払いながら、より開発しやすくなる環境を作るお手伝いをしていきたいと思っています。

ソフトウエア・エンジニア(Google)の岩尾 エマはるかさん
Google Cloudの本拠地であるシアトルのオフィスで仕事をする岩尾さん。

 

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*情報は2024年3月時点のものです