2002年12月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
今月は、冬のホエール・ウォッチング! メキシコ沖からアラスカ沖を回遊しているグレイ・ホエールが、オレゴン・コースト沖を11月から1月にかけて南下(3月下旬から4月にかけて北上)する。クジラとの遭遇、この感動を体験してほしい
波間にモワーッと霧がにじみ出たようなスポットが浮かぶ。あれが潮吹きだ。そのあたりにひたすら目を凝らす。
「あ、ジャンプした!」 海面から黒い体がゆっくーりと迫り出し、スルーっと水面をまたぐようにジャンプし、頭から波間に滑り込んでいく。大きな尻尾が波間に一瞬立ち、消えた……。一連のシーンは、まるでスローモーションの映像を見ているようだ。クジラを初めて自分の目で見たときの感動は、大人も子供も同じだ。なにせクジラは地球で一番大きい動物なのだから。
ノースウエスト沿岸で最も多く見られるグレイ・ホエールは、体長は14~16メートル、体重は30トン余り、大型バス並の大きさだ。通年でメキシコ沖とアラスカ沖を回遊し、オレゴン・コーストの海岸からは11月から1月にかけて沖合いを南下、3月から4月には北上するクジラを見ることができる。
「ホエール・ウォッチング? どこでどうやって見たらいいの?」という人たちに願ってもない助っ人がいる。冬休み(12/26~1/2)と春休み(3/22~3/29)にオレゴン・コーストを中心に、29カ所のビュー・ポイントに常駐して観察のサポートしてくれる、“Whale Watching Spoken Here”というプログラムのボランティアのインタープリター(解説員)だ。
このプログラムは、オレゴン州の大学、一般のボランティアによって毎冬・春続けられているもので、回遊するクジラの頭数を数えることなどの観測と、一般の人たちへの解説を行っている。昨冬シーズンは、全米51州と世界55カ国から約2万人のホエール・ウォッチャーが訪れている(日本からは43人)。
さて、ホエール・ウォッチングは 陸海空三方向から可能だが、私は陸からしか見たことがない。船から見るのは有料である故に、「見えてあたりまえ」という前提の分だけ感動が薄れるような気がする。船頭さんがクジラに接近してくれたら、それは見る人にとっては嬉しいサービスだが、クジラにすれば迷惑なことだろう。チャーター・ボートはクジラの群からは一定の距離を置くことになっているので、夏に居着き(回遊せずに、その海域に住んでいる)のクジラを岸からを見たときは、船より岸からのほうがずっと近くでクジラを見ることができた。
さて、冬に回遊するクジラを陸から見るためには、双眼鏡が必需品。誰もがすぐにクジラを見られるものではなく、天気、波、回遊の時期、それに「運」次第で、見られずに帰ることになる日もある。冬のホエール・ウォッチングは、海から吹き寄せる強風に向かって足をふんばって立ち、涙を横に飛ばしながらクジラをひたすら探さなくてはならず、これはちょっとした難業だ。それだけにクジラたちを見つけたときの感動はひとしおである。クジラの姿が遠くに小さく見える分、彼らが泳ぎわたる北太平洋の大きさ、地球の大きさまで実感できる。私たち人間は陸に立ち、お前たちクジラは海を跳ねている。ただ無心に回遊するクジラを眺めていると、海の生き物というより地球の生き物なんだと感じる。
- 日本語名:コククジラ(ヒゲクジラのグループ)
- 回遊エリア:ベーリング海からバハ・カリフォルニアまでアメリカの西海岸を往復、約2万キロを回遊する。
- 回遊時期:オレゴン・コースト沿岸では、11月~1月が南下の時期。移動のピークは12月中旬~1月上旬(1時間に30頭以上が通過するときもある)。北上は、3月~4月頃。移動のピークは3月下旬。
- 推定生息数:2万~2万6,000頭
- 寿命:60歳以上
- 回遊の速度:1日に約80マイル(130km)
- 食べ物:小型のエビ
■ホエール・ウォッチングについて
グレイ・ホエールは、岸からの距離、数百メートルから3キロぐらいのところを通過するので、岬状に外海へ突き出ている所(できれば高台)からの観測がおすすめ。ちなみに“Whale Watching Spoken Here”のプログラムで、過去の観測個体数の多かった地点は、Boiler Bay、Rocky Creek、Yaquina Head、Shore Acres State Parkなどだ。 クジラとの遭遇率が高いのは、うす曇り日の朝早く、海面がおだやかなとき。岸と水平線の間、2/3あたりを眺め、白いもやのスポットのようなものが見えたら、これが潮吹き(blowing)だ。その付近の海面を双眼鏡で探すと良い。ただ、一番手っ取り早く確実なのは、クジラを見つけた人に聞くこと。 ホエール・ウォッチングには、双眼鏡、望遠鏡、三脚、偏光サングラス、地図、ウィンド・ブレイカーなどの防寒具と帽子、温かい飲み物を準備しよう。
■Whale Watching Spoken Here
プログラム内容の詳細ほか、ボート・ウォッチング、飛行機でのツアー・チャーター・サービスの情報も上記サイトからアクセスできる。
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
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