2004年01月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
光を観る」ことを“観光”というなら、オーロラを観る旅は観光旅行の最たるものに違いない。
ギリシャ神話に登場する“夜明けの女神”という名のこの光は、多くの人々を──これまでそれを観た人も、観ていない人も──惹き付けてやまない。
今回はパシフィック・ノースウエスト の奥座敷アラスカ、フェアバンクスで観るオーロラの話。
▲アラスカ・フェアバンクスにて、今年のニューイヤーズ・イブに撮影したオーロラ。風に揺れる光のカーテンのごとく、次々にその姿を変える
日本人とオーロラ
神秘の光を観るために、毎年多くの観光客が極寒の北極圏の国々へ出掛ける。しかし、そんな民族は日本人だけらしい。なぜだろう? 「人の行く有名なところへ私も行きたい」という旅行に対する日本人の習性だけではどうも割り切れない。 テーマパークに大都市、ナイアガラ、グランドキャニオン……。有名な観光地は数多くあるが、オーロラはやはり「一生に一度は観ておくべき」とおすすめしたいもののひとつだ。
桜が咲けば花見に出掛け、月が美しいと月見の宴を張る。紅葉の時期には紅葉狩り。虫の音に風流を感じ、冬は雪見酒を楽しむ。このような、日本人ならではの森羅の美しさを愛でる自然の感受性、その延長線上でオーロラが受け入れられているように思う。
オーロラのメカニズム
太陽から吹くプラズマ(太陽風)が地球の磁場に引き付けられ、超高層の希薄な大気にぶつかって生じる放電現象がオーロラである。それはまるで天空から下がった光のカーテンのように見える。このカーテンの厚さは500m~1kmほどで、色はほの白い光から、薄緑、ピンク、赤色などに変化する。
通常、初めはぼんやりと雲のように帯状の光が北の空に浮かんでくる。これがはっきりとアーチ、あるいはカーテン状に輪郭を持ち、色が鮮やかになってくる。 次第に頭上に移動し、やがて天空全体に広がる。時折、このカーテンはゆらめき、巻き、途切れ、吹き飛んだりして激しく動き、光のページェントを繰り広げる。これは『オーロラ・サブストーム』、あるいは『ブレイク』と呼ばれ
ている。ブレイクの後は雲散霧消するが、パターンは一様でない。このような変化は一晩に何回か繰り返されるが、オーロラの出現と変化は一定ではない。
オーロラ観察
オーロラは北緯60数度から70度あたりの、地上100km~500kmの上空に現れる。太陽からの磁気嵐が激しくなるに伴い、地球を取り巻くオーロラ帯が南下し、オーロラの動きも活発になる。
アラスカではフェアバンクス近辺がこのオーロラ・ベルトの直下に入る。ここでは夜9時頃から明け方までオーロラが出現し、特に頻度が高いのは夜11時~深夜3時頃の間。オーロラは通年発生するものの、昼間に星が見えないように、空が明るい時には識別できない。従って観察の時期としては9月から4月にかけての、月が明るくない時期がいい。 統計的にオーロラは春分と秋分が活発な時期、つまり3月と9月である。
さらに大きいファクターとしては、太陽の活動レベルと天候状態があるが、ある程度の参考にしかならない。天気予報やオーロラ予報も局地的な展開には当てはまらないことが多い。これが自然観察ツアーの常であり、妙でもある。
日中からずっと吹雪いていた雪が夜半に止み、雲間がみるみる開いて星が出る。やがて素晴らしい光の饗宴が繰り広げられる……という展開が往々にある。
オーロラは通常、北の空から出始めることが多い。やがて光の帯は南に移動し、真夜中頃、天頂を通って西から東の地平線に達する。ブレイク時には全天に光が乱舞する。ロッジやキャビンの中で暖をとりながらオーロラの出現を待ち、現れた後はマイナス20~30℃の屋外へ出て、ブレイクを期待しながら空を見上げ、さらに待つわけだ。オーロラ観察のポイントは、まさに「その一瞬を辛抱強く待つ」ことに尽きるだろう。
▲同じくニューイヤーズ・イブに撮影したオーロラ。この時は鮮やかな緑色をしていた
夜空を見上げて
オーロラを観るために夜空を見上げていると、当然のことながら星空をじっくり眺める機会に恵まれる。北極星が天頂近くに見える高緯度ではこの時期、北西部にいる我々では普段お目にかかれない冬の星座を見ることができる。高緯度地域の星座表を手に入れて、オーロラ出現の合間に天体観測も楽しんでみよう。普通の双眼鏡で覗いても月や木星、土星、星座(スバル座など)がくっきりと観察できる。獅子座の辺り(西)の空からは流れ星が、そして人工衛星も見られるかもしれない。多くの人工衛星はオーロラの高さで廻っている。
さまざまなアクティビティー
冬のアラスカには、冬のアラスカならではの日中のアクティビティーがたくさんある。アラスカの雪原を駆ける『犬ぞり』、『スノーモービル』、そして『ノルディック・スキー』など。凍った湖で釣りをする『アイス・フィッシング・ツアー』もユニークだ。夜は自分で釣った魚(スメルトなど)を食べたりして、1日中楽しむことができる。
小型機による『遊覧飛行』では雪に覆われたマッキンリー山や、ユーコン河と北極圏の村へ。また、夜が明けず、凍てつく中での『北極圏ドライブ』では、北の荒々しくも雄大な雪野原の原始風景を前に、訪れる者が吹き消されてしまいそうな迫力を体験できるだろう。
オーロラの写真を撮る
自分で撮ったオーロラの写真やオーロラをバックにした記念写真は、きっと良い思い出になるだろう。デジタル・カメラなら初めての人でも簡単にオーロラを撮ることができる。操作は思った以上に簡単で、くやしいことに実際に目で見る以上に美しく映ることもある。
デジカメの最大の利点を活かして、オーロラが現れる前、あるいは動きが活発になる前に何回か試し撮りをして、使用するカメラとその日の空の明るさに設定を合わせておこう。
必要なのは三脚。寒さで起電力が落ちるので、予備のバッテリーもあった方がいい。撮影スポットを定めたら、北の空へ向けて三脚を固定する。カメラは試し撮りと設定が済んだら冷やさないように、ジャケットの内ポケットなどに入れておこう。
一般的なオーロラ撮影の方法は下記。
- マニュアル・モードでASA感度を200か400に設定する。
- レンズをできる限りワイドにし、F値は2.8、もしくはできる限り下げる。
- フラッシュはオフにしておく。
- シャッター・スピードは空の明るさによって2~12秒くらい。
カメラ・アングルや設定をいろいろと変えて撮ってみよう。人物を入れる時はストロボを使うか、フラッシュ・ライトで人物を1~3秒間照らすときれいに撮れるはずだ。
最後に隊長からのアドバイス
オーロラのクライマックス、いわゆるブレイクの時は、カメラのことなど忘れて自分の眼で存分に極北の光のページェントを満喫しよう。雄大で流麗なオーロラの美しさは、どんな大きな写真でもその何十分の一も記録できないだろう。まして、オーロラを目にした感動はあなただけのもの。どんなに時代が変わろうとも、あなたの脳裏に焼き付けることが何にも勝る記録方法なのだから。
【冬のアラスカ旅行に関するサイト】
■アラスカ旅行:現地でのオーロラ観察ツアーを催行しているA & P Tours社のサイト
www.aptoursalaska.com(日本語)
■Aurora Borealis:フェアバンクスの北、日本人夫妻が経営するオーロラ観察キャビン
www.auroracabin.com(日本語・英語)
■チェナ温泉(Chena Hot Spring):温泉とオーロラ観測が楽しめるホテル。日本人利用者も多い。
www.chenahotsprings.com(英語)
www004.upp.so-net.ne.jp/alaskakai/chena.html(日本語)
■Skiland:フェアバンクスの郊外にあるMt. Auroraのスキー場。山頂のロッジでオーロラ観察ができる。
www.aurorawebcam.com(英語)
■University of Alaska Museum:オーロラを含むアラスカの総合博物館であり、情報の拠点。北極圏の自然、風土、人文の展示解説、研究資料が充実している。ヘッドフォンで日本語の解説が聴け、この大学で学んだ写真家、星野道夫氏が撮影したアラスカの動物達のオリジナル・プリントも観賞することができる。
www.uaf/edu/museum(英語)
【オーロラに関するサイト】
■University of Alaska:オーロラの研究で世界のトップレベルにある同校の地球物理学研究所が発表するオーロラ情報が満載。
www.gi.alaska.edu/cgi-bin/predict.cgi(英語)
■オーロラの旅・アサヒオーロラ教室:人工衛星から撮影したオーロラ・オーバルや月の位相など、専門的な知識が得られるサイト。
www.gi.alaska.edu/asahi/jsite/predict_j.htm(日本語)
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
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