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スプリング・ウォーター・トレイル(グレシャム~ボーリング)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2008年06月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

ポートランドからマウント・フッドのふもとへと向かうトレイルは
20世紀初頭に造られ、世紀末に撤去された電車路線の跡地を通っている。
今回はその南端5マイルを探訪してみよう。

付き合いの長い、長い名の、 長いトレイル

正式名称を「スプリング・ウォーター・コリドール・トレイル=Spring Water Corridor Trail」と言う(以下、スプリング・ウォーター・トレイル)。この散策路は、ポートランド広域圏の公園緑地プランのひとつ、「40マイル・トレイル・ループ」の一環を成していて、これまでに半分の20マイルができ上がっている。ウォーキング、ジョギング、ランニング、ローラースケート、犬の散歩、サイクリング、乗馬……毎日多くの人が行き来するほか、夏にはマウント・フッドからオレゴン・コーストまでのマラソン・コースともなり、アーミーの行軍演習に使われたりもする。

米北西部、都市郊外の豊かな自然の景色を通り、地元の人々に愛されているこのトレイルを順次紹介しよう。40マイル・トレイル・ループの完成までには、まだ長い年月を要するが、まずは南端の5マイル、グレシャムからボーリングを隊長は探訪したい。北西部の何万マイルとあるトレイルの中でも、ここは家の庭先のように特別に愛着がある。それもそのはず、このトレイルは実に隊長の家の前を通っている。取材が安直? 逆である。実に20年間、この路の変わり行く様を隊長はつぶさに見てきた。

前世紀のほぼ90年の間は鉄道だった。廃線となり、トレイルに生まれ変わったのは90年代である。1990年、最後の貨物列車を、隊長は家の前で見送った。自宅前の風景はあまりに日常的過ぎて、レール時代の写真は1枚も撮っていないことに今回気が付いた。残念。誌面の都合により、電車時代やトレイルに生まれ変わる経緯は次回紹介したい。

トレイルをたどる

スプリング・ウォーター・トレイルは、グレシャムから南東方向へ延びている(トレイルへのアプローチについては※1を参照)。ここからトレイルの終点のボーリングまで約5マイル(8キロ)、移動の手段には自転車がお勧めだ。グレシャムのメイン・シティー・パークが今回の出発地点となる。ここに常設トイレがあり、スプリング・ウォーター・トレイルは、公園の南縁を通っている。

トレイルに沿って点描していこう。路の西南側には川(ジョンソン・クリーク)、木々の向こうには住宅地が続く。しばらく行くと道の東側に広いレンガ工場が見えてくる。トレイルはいくつもの橋を渡り、ジョンソン・クリークと絡むようにさかのぼっていく。このクリークは、小川ながらマガモが泳ぎ、ザリガニもいる。かつてはサーモンも上がってきていた。しかし、周辺の宅地開発が進むと林は伐採され、冬にはしばしばこの小川が氾濫するようになった。トレイルはもともと盛土上の鉄道線路なので大丈夫だが、雨が続く冬場は車道の低い所がところどころ冠水している。

住宅が遠くなる長い直線路の途中で舗装が終わる。トレイルがボーリングに入ると、右にブルーベリー・ファームが見えてくる。夏、ベリーの実の食べごろには野鳥達の群れが集まるので、鳥除けの空砲がパーンパーンと周囲に鳴り響く。音に驚き、近くの牧場の馬が走ったりする。ファームからは「鳥除けの音でご迷惑をお掛けします」。……というわけで、収穫直前にブルーベリー採り放題の招待状がご近所に配られる。手に手にバケツを持って近所の人達が摘みにいく。のどかな田園風景だ。

ブルーベリー・ファームのすぐ先には、庭木のナーサリー(苗木生産場)がある。カスケード山脈の西側に位置するオレゴン、ワシントン両州は、雨と四季の気候変化が幸いし、全米でも有数の園芸用の苗木生産地だ。スプリング・ウォーター・トレイル沿いでも、予期せぬ季節に見事な花、新緑、黄葉、紅葉のフォーメーションを見ることができる。 

さらに南へ下ると、左手にミンク・ファームがある。あの高級毛皮のミンクだが、風向きによって飼育場のにおいが漂ってくる。隊長はこのファームに取材に伺ったが、すげなく断られてしまった。「ナチュラリストとか動物愛護協会からの営業妨害、嫌がらせには辟易しているから」という理由だった(本誌を見せて説明したのだがファームのオーナーは頑なだった)。

さらに約1マイル進むと、トレイルの終点であるボーリングの町に着く。かつての操車場、広い跡地のオープン・スペースである。6月から9月まで、土曜にはファーマーズ・マーケットが開催され、近隣の農場からイチゴやいろんなベリー類、野菜が売りに出される。なお、ボーリング(Boring)という、この「え?」と思わせる地名は、当地へ最初に入植したW・H・Boringという人の名であり、ちなみにその孫と隊長は知り合いである。

余談

さて、スプリング・ウォーター・トレイルの終点の先、さらに南端はどうなっているのだろう? 州道212号線でこのトレイルは切られ、終わっているように見えるが、実は未整備ながら軌道跡の形でトレイル(将来の)は続いている。ここから先は、トレイルの名前こそ「カザデロ(Cazadero)トレイル」と変わるが、かつてのスプリング・ウォーター鉄道線の跡をしっかりなぞって、エスタケダまでの多目的トレイルとなる日を待っている。将来はこのトレイルを、さらに東にあるマウント・フッドふもとのガバメント・キャンプまで延ばす。そして、カスケード山脈、シェラネバダ山脈を辿り、カナダ国境からメキシコ国境までを繋ぐパシフィック・クレスト・トレイルと結ぶ構想がある。いつの日か隊長が、家からトレイルだけを歩いて南北国境へ行ける時が来るかもしれない。

メトロ公園局からのお知らせでは、ボーリングの残り数マイルのトレイルも、もうすぐ舗装されるらしい。スプリング・ウォーター・トレイルは、20世紀初頭に造られた鉄道軌道だったため、地盤は昨今の道にはない(砕石でない)特有の細かい玉砂利と土でしっかりと固められている。隊長は、この道ならではの足への感触が気に入っていた。それも早晩アスファルトに変わってしまう。自転車やストローラ、車椅子の人には朗報だがちょっと惜しい気がする。

※1 起点のGresham Main City Parkのアドレスは219 S. Main Ave., Gresham, OR 97080。ポートランドから電車(MAX)で来る場合はGresham Central駅下車、7ブロック南

マイルポスト
▲トレイルのそばに建つマイルポスト。ポートランドのダウンタウンより18.1マイル地点。このトレイルは以前、この写真の鉄道線路だった
トレイル
▲天気が良い日には近在の人々がトレイルへ出てくる。乗馬トレイルもこのトレイルに並行して通っている
 19マイル地点
▲19マイル地点から南、ボーリングに入ってから先は08年5月現在未舗装。近々アスファルト舗装が施される予定だ
U-Pick(果物狩り)
▲夏の盛り(8月)にはブルーベリー・ファームのブルーベリーが熟す。U-Pick(果物狩り)もできる
ナーサリー
▲ポートランドの近郊にはナーサリーが数多く点在。ボーリングにも庭木用の園芸樹が栽培され、全米へ出荷されている


Information

■スプリング・ウォーター・コリドール・トレイル
ポートランド市、公園レクリエーション部のオフィシャルサイト。トレイルの管理運営は、ポートランド・メトロ・エリアが行っている。
Spring Water Corridor Trail
ウェブサイト:www.portlandonline.com/parks/finder/index.cfm?action=ViewPark&PropertyID=679

■オレゴン・ウォーター・パワー・アンド・レイルウェー・
カンパニー・スプリング・ウォーター・ディビジョン・ライン

この電車会社の登記自体は1903年から1990年まで、グレシャムにあったが、20世紀の間の電車、電気会社の合併、分離、再編、再々編の動きは複雑を極めた。 同社を紹介するウェブサイトは見つからないが、当時の電車路線図を以下のPDX History.comのサイトで見ることができる。
Oregon Water Power and Railway Company Spring water Division Line  
ウェブサイト:www.pdxhistory.com/html/interurbans.html

■オレゴン・ブルーベリー
U-Pick(フルーツ狩り)のシーズンは8月。
Oregon Blues
9751 SE Telford Rd., Boring, OR 97009
TEL: 503-663-6451
ウェブサイト:www.getoregonblueberries.com/U-pick/OregonBlues.htm

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。ウェブサイトをリメイク中。