北野武の最新作「Dolls(ドールズ)」を観た。本当は「サイン」を観るつもりだったけど、有楽町マリオンで長蛇の列を作っていた「Dolls」が妙に気になり、ついこっちを選んじゃったのだ。でも、館内に入ったら単に係員が便宜上一列に並べてただけで、結局は全体で六分の入りってとこ。でも、たけしの映画(世界の北野をたけし呼ばわりするなんて、ワシも偉くなったもんだのう)としては、この客の入りは相当いい方である。「ソナチネ」なんて、海外では評価されたが、日本では数千万円の興行成績で、プロデューサーの奥山和由が二度と仕事しないと憤慨してしまったほどである。その、極端に台詞や音楽を削り、間接表現を多用した演出手法はやはりハリウッド映画好きの日本人には受け入れにくい。それ故、難しい映画を愛する欧州人にはこたえられないのであろう。 その「Dolls」。恋愛映画と勘違いしたカップルがたくさん来ており、案の定、映画終了後いてもたってもいられず、足早に劇場を去るカップルを私は多数目撃した。彼女にコメントを求められるのを恐れた彼氏が最悪の事態をまぬがれるための、とっさの判断であったのだろう。台詞が少ないのが実に辛い。おまけに無表情の境地である西島秀俊が一番表情があったりする。随所に登場する人形がモチーフだからだろう。 三組のカップルの恋愛と、その後の悲劇を残酷に描いているので、すっきり爽快という訳にもいかず、「HANA-BI」のように感動する訳でもない。ただ、三橋達也扮するヤクザの親分と松原智恵子のエピソードは良かった。若いときにベンチで弁当を持って待ち続けると約束した前のガールフレンドが、30年間も弁当を持ってベンチで待ち続けているという話。溝口健二の「雨月物語」からモチーフを得ていると思われるが、まさに「雨月物語」! だって松原智恵子の顔はどこからどう見ても幽霊にしか見えないもの。さあ、彼の次の映画に期待しましょう。だって“世界の北野”だぜ。 |
コメントを書く