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チャン・イーモウ監督の「英雄」を観た。人間が空を飛ぶワイヤー・ワーク系のアクション映画は「マトリックス」や「グリーン・デスティニー」で慣れているが、あのチャン・イーモウがそんな映画を撮るとは思わなんだ。いや、びっくりした。 なんたってチャン・イーモウといえば、「紅いコーリャン」でベルリン映画祭金熊賞、「菊豆(チュイトウ)」でカンヌ映画祭ルイス・ブニュエル賞、「紅夢」でベネチア映画祭銀獅子賞、「秋菊の物語」でベネチア映画祭金獅子賞、「活きる」でカンヌ映画祭審査員特別賞、「上海ルージュ」でカンヌ映画祭高等技術賞、「あの子を探して」でベネチア映画祭金獅子賞、「初恋の来た道」でベルリン映画祭銀熊賞に輝くなど、“賞取り男”の異名をとる大監督だ。「初恋の来た道」なんて、これこそ昔の日本映画が持っていた情緒にあふれ、「踊る大捜査線」ばかりが映画じゃないのだよと思わず隣りの人に教えたくなるような傑作だった。 もともとイーモウ監督は、処女作「紅いコーリャン」から、色彩と様式美にこだわる監督であることがわかる。「菊豆」では独自の色彩感覚を発揮するため、主人公の職業をわざわざ原作と違う染物屋に変更したという。カメラマンに、ウォン・カーウァイ監督作品で知られるクリストファー・ドイルを起用したのは、香港の現代感覚を捉えるのに長けた彼の力量を買ってのことだろう。衣装デザインには、「乱」で見事な色彩感覚を表現し、オスカーを受賞したワダ・エミ。スタッフの人選でも、色彩に対する熱の入れようは明らかだ。 おまけにキャストもジェット・リー、マギー・チャン、トニー・レオン、チャン・ツィイーら旬のスターがごっそり出演し、期待感は高まる。が、観終わっても「初恋の来た道」の感動や「紅いコ-リャン」の衝撃は味わえなかった。ストーリーごとに赤、白、青と画面色彩を変えるのも、どうしてそうしたのか頭の悪い私にはわからんかった。それ以上に、「グリーンデスティニー」ではチョウ・ユンファがびゅんびゅん空を飛んでも気にならなかったが、今回のジェット・リーはマンガにしか見えなかった。 だが、芥川龍之介『藪の中』的な緻密なストーリーと、画面の美しさには久々に圧倒された。キン・フーから始まった中国の武侠映画※は、ここに頂点を観たってな感じか。でも、もうやることはすべてやったという感じ。イーモウ監督もさぞ満足だろう。次はまた重厚な「紅いコーリャン」か、さわやか感動系「初恋の来た道」の路線に戻るのだろうか。 ※日本でいう「チャンバラ時代劇」。心・技・体を超人的なレベルまで鍛えることにより、宙を舞いながら“気”の力で敵を次々に倒していく。香港を中心に、中国本土、台湾、韓国などで昔から人気の高いジャンルで、女性ファンも多い。 |
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