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キル・ビル

ロゴ 第25回
キル・ビル

キル・ビル
© Miramax

タランティーノが「ジャッキーブラウン」以来、5年ぶりに放った映画「キル・ビル」。米劇場公開用ポスターも、日本語で“キルビル”とある通り、日本や香港などのオリエンタル活劇を相当意識した内容になっている。

映画の舞台はロサンゼルス、沖縄、東京、北京、メキシコ。製作期間は270日。脚本が長すぎたため、前編・後編分けての公開という前代未聞のものとなった。製作会社のミラマックス・フィルムといえば、アカデミー賞に一番力を入れる会社で有名だが、今作もやはりアカデミー賞を意識した公開時期となっている。ノミネートされれば、来年1月公開の第2部の宣伝にもなり、その後2作併せての公開も視野に入る。巧みな宣伝戦略である。

ストーリーは、ユマ・サーマン扮する女殺し屋が、ギャングのボスでかつての恋人でもあったビルに襲撃され、夫と身ごもった子供を惨殺される。彼女は九死に一生を得るが、昏睡状態になる。5年後目覚めた彼女は、ビルと5人の手下への復讐を誓い世界中を旅する。

タランティーノは暴力的な作風で知られ、この作品が果たしてアカデミー賞の対象になるのか普通ならば疑問なのだが、タランティーノの評価は国内外で絶大。特に、今回の作品にも使われている時間感覚をバラバラにした個性的な演出など、そのしゃれた感覚は批評家受けが良く、「パルプ・フィクション」ではオスカーの脚本賞を受けるに至った。

彼が脚本を執筆した「トゥルーロマンス」では、ジョン・ウー監督の「男たちの挽歌」や千葉真一主演の「殺人拳」シリーズを主人公が鑑賞する場面があるし、「パルプ・フィクション」でブルース・ウィルスが日本刀で斬り込むシーンでは、脚本に「ケン・タカクラのスタイルで」とわざわざ注釈まで入るほど、アジアのアクション映画には造詣が深い。この「キル・ビル」では、日本人役に、「殺し屋1」で殺し屋を演じていた菅田俊や「バトル・ロワイヤル」の栗山千明を名指しでキャスティング。挿入歌も、1973年「修羅雪姫」で主役の梶芽衣子が歌った主題歌、3年前「新・仁義なき戦い」での布袋寅泰の曲を使用するなど相当コアな選曲になっている。

そんな熱狂的な映画ファンでもあるタランティーノの映画愛のすべてを傾けた本作は、彼が愛する日本のヤクザ映画、チャンバラ時代劇、香港ショウ・ブラザーズのカンフー映画、マカロニ・ウェスタン、ギャング映画など、さまざまな映画のエッセンスをごった煮にし、全く新たな“ジャンル”のエンターテインメント作品を作った。最大の見所は、ルーシー・リュ―扮するオーレン・イシイ(タランティーノが敬愛する石井聰亙、石井隆、石井輝男へのオマージュらしい)とユマ・サーマンとの対決シーンで、その手下88人を延々と切りまくるシーン。この辺りも、岡本喜八の「大菩薩峠」や「子連れ狼・三途の川の乳母車」の影響が垣間見える。そのイシイを倒して第1部は終わる。

スパイク・リーのように(※1)「ニガー」の言葉が劇中何回出てくるか数えようかと思ったが、今回は意外にも少なかった。サミュエル・L・ジャクソンはカメオ程度の出演(※2)で黒人俳優が少なく、代わりにアジアの出演者が多いためだろう。


※1  タランティーノの監督作品「ジャッキー・ブラウン」の中で“ニガー”の言葉が多用されているとして、スパイク・リーが非難していた。

※2  ゲスト出演、友情出演といった意味合いで使われる表現で、大物俳優などがほんのわずかのシーンに登場すること。


前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。