ブッシュ大統領の無能ぶりを告発することは、すでに日本でも各種週刊誌などでお馴染みとなった。そんな中でも、最初から最後までブッシュのアホぶりを徹底して暴いたのが、マイケル・ムーアの新作「華氏911」である。前作「ボーリング・フォー・コロンバイン」で知名度を確定したムーアは、前作でもチラリを登場したブッシュ大統領を、今作では主役に起用している。 映画はブッシュの大統領選の不正疑惑に始まり、何もできないブッシュを批判。そして、ビンラディン一族とブッシュ家の石油利権に関係した交流、テロ後もオサマと縁戚関係にある人物をほとんど形だけの取り調べで国外退去にしていた事実などが浮彫りにされる。特に強烈なのが、9月11日、テロ当日のブッシュ。ブッシュが幼稚園児に絵本を読ませている時、秘書官が彼の耳元でテロの事実を報告する。だがその後も9分余りブッシュは何もできずにいる。うつろな目で呆然とするブッシュの顔を、カメラは克明に捉える。学校の関係者が撮影した映像らしいが、こんな貴重なプライベート・フィルムを巧みに編集し、この映画を観た人は必ずブッシュの品性を疑うという作りになっている。だが、これが純粋にドキュメンタリーと言えるかというと疑問はある。 全米では賛否両論。反ブッシュ陣営のプロパガンダ映画だとも評された。だが、ドキュメンタリー映画の意義を考えた時、それはやはりテレビのニュース番組と同列では考えられない。テレビはただひたすらそこにある事実を全世界に向けて発するのが使命である。だが、そのあまりの情報量の多さに、そこに映ったことしか信じなくなる視聴者が現れるのも事実。しかし、テレビのニュース映像に写った映像には、本当の真実が抜け落ちていることがある。例えば、バグダッド陥落の映像を我々が初めて観た時は、バグダッド市民が歓喜の声を上げてフセイン像を倒していた。しかし現地テレビ局の映像が伝えたのは、フセイン像を倒すのは明らかに演技めいた胡散臭い人物達と、米軍に怯える民衆の姿だった。今やジャーナリストは、政府の太鼓持ちにして情報操作の達人と化した。 それを考えるとムーアは、「事実映像を繋いだ私の“見解”」と目的を明確にしているし、それに対して批判するのはお門違いと思うのだが。彼は前回のアカデミー賞授賞式で「恥を知れ!ブッシュ」と叫び、もう二度と映画は撮れないとさえ言われた。会場で政治発言をして業界から消えた俳優も過去に何人かいた。それに当時はブッシュの支持率が一番高い時だった。ディズニーの配給撤退などのトラブルに見舞われながらも、見事ブッシュ批判の映画を作り、カンヌ映画祭でパルムドールを取り、全米トップの興行成績を記録した。自分を危険に晒しながらも自己の主張を世界に知らしめたムーアは、やはり評価すべきではないか。 プロパガンダ映画と言うけれど、彼はブッシュが嫌いだから、結果的に反ブッシュ陣営に協力しているように見えるだけではないか。映画は所詮プロパガンダだと思う。「トロイ」なんてブラッド・ピットのプロパガンダ以外、何があるっていうのか? 阿佐ヶ谷あたりの映画館で「トロイ」「キューティーハニー」※1「ブラウン・バニー」※2 の3本立てをやってみなさい。あまりの退屈さに、間違いなく人が死ぬよ。それに、どんな映像繋いだってブッシュを利口に見えるように編集するのは至難の業である。 ※1 永井豪のコミックを原作とした1970年代の人気アニメを、「新世紀エヴァンゲリオン」などでコアなファンの圧倒的な支持を得ている庵野秀明監督が実写映画化。 ※2 「バッファロー ’66」でブレイクしたカリスマ的人気を誇る監督兼俳優、ビンセント・ギャロの作品。主演するギャロの映像が延々と繰り返され、賛否両論の批評を受けた。
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