別にそんなに期待する訳でもないけど、失望はさせないだろうなと思わせる……それがスティーブン・スピルバーグ監督の作品ではないだろうか。「ターミナル」は実を言うとそれほど見たくもなかったし、DVDが出たら見ようと、その程度の存在だった。 見終わってみたら、やはりすごい傑作でしたっという訳ではないが、エンターテインメントとしての基本を押さえ楽しめる作品になっている。スピルバーグの昔の作品で言うと「フック」「オールウェイズ」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」なんかもそうだが、巷での評判がすこぶる悪い中でも、見るとそんなに悪くないし、それなりに楽しめる。これは実はすごいことだと思う。 「映画マニアはスピルバーグ作品を嫌うが、映画ファンは好む」と、ある作家が言っていたが正にその通り。「シンドラーのリスト」「ET」「プライベート・ライアン」のような大傑作もある一方で「ターミナル」のような小品も手掛けるスピルバーグのすごさは本当の映画ファンならわかっている筈なのだ。つっぱって「モーターサイクル・ダイアリー」※1とか、ジャン=リュック・ゴダール※2とか、そんな映画を褒めてスピルバーグを馬鹿にする映画マニアなんか大したことはない。「ターミナル」を見て(そんなに傑作とは思っていないので矛盾しているようだが)改めてスピルバーグの偉大さを実感した。 スピルバーグのベスト・ワンは圧倒的に「ジョーズ」である。よく、「ジョーズ」や「ジェラシック・パーク」は人間を描いていないとアホな作家さんはけなすが、良いじゃないですか。鮫や恐竜をあれだけリアルに描いただけでも相当なものだ。それに「ジョーズ」を改めて見直してみると、とても人間が描けている。ブロディ署長、マット・フーパー、クイントの3人が沖合いに鮫退治に出てからの描写なんか、あれだけキャラクターをしっかり掴んで物語を紡いでいく手腕は圧倒的である。特に船でクイントがなぜ鮫退治に執念を燃やすかをえんえんと話すシークエンスが素晴しかった。 殺人蟻の恐怖を描いたこの「ジョーズ」は、バイロン・ハスキン監督の「黒い絨毯」と並び、動物パニック物でありながら人間をしっかり描いた後世に残る傑作だと思う。 ※1 カストロと共にキューバ革命に貢献したチェ・ゲバラの青年時代に焦点を当てた映画。ロバート・レッドフォード製作総指揮、ガエル・ガルシア・ベルナル主演、2004年カンヌ国際映画祭出品作品。 ※2 初長編監督作「勝手にしやがれ」で映画界の常識を覆す手法を数々取り入れ、革命的監督として知られるフランスの巨匠。政治色の強い映画を多く撮っている。 |
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