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宇宙戦争

ロゴ 第46回
宇宙戦争

今から67年前、あるラジオ番組を聴いた全米の市民が大パニックになった。火星人襲来を描いた、そのラジオ番組があまりにリアルなため、実際に起こっていることだと勘違いしたからだ。それは、H・G・ウェルズ原作の小説『宇宙戦争』を朗読したラジオ・ドラマの間に、火星人来襲のニュース速報を挿入するというトリック。あたかも火星人による侵略が始まったかのような臨場感あふれる放送の仕掛け人、オーソン・ウェルズは当時23歳の無名俳優だった。数年後に世界映画界の金字塔「市民ケーン」を、自身の監督、主演、脚本で製作する。

その後の「宇宙戦争」はジョージ・パル製作で1953年にも映画化されたが、今回はあのスティーブン・スピルバーグが監督するということで、世界中の注目を浴びていた。全米公開では、オープニングの出足は悪かったが、次第に回復し、現在は興収2億ドルに迫る好成績を続けている。

「インディペンデンス・デイ」のような世界SF映画史上、最もくだらないSF映画を、スピルバーグならばアンチテーゼにして作ってくれるだろう、という期待はあった。はるかに科学の発達した宇宙人を、劣った地球人が破るという結末は、この映画の結末が説得力を持っていたし、皮肉も利いていて面白い。

やはり、主役のトム・クルーズが優等生でも軍人でもなく、単なるブルーカラー労働者で、しかもちょっと嫌な奴だったりするところが面白い。この手の映画には珍しく、大作感を醸し出すためのホワイトハウスも、他国の惨状も出てこない。まるで「プライベート・ライアン」のトップ・シーンや「シンドラーのリスト」のユダヤ人虐殺場面のような死屍累々と直面する、普通の人の代表であるクルーズ・ファミリーを描いている。今さら異星人襲来ものを撮って、これだけの作品に仕上げたのだから、さすがスピルバーグである。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。