シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

亡国のイージス

ロゴ 第47回
亡国のイージス

製作費12億円を掛け、実物大に近いイージス艦を再現し、韓国や中国が戦争賛美映画だと騒ぐなど、製作前から話題になっていた。キャストも真田広之、寺尾聡、佐藤浩市、中井貴一と日本アカデミー賞主演賞受賞者4人(岸部一徳と原田美枝子も含むと6名!)を結集した豪華なキャスティングも話題だった。

しかし中身は非常にわかりにくい内容になっていた。それぞれをここで触れてしまうと、物語の核心部分に入ってしまうので、あえて触れないが、欠陥のひとつは説明不足の展開。編集を担当したウィリアム・アンダーソンの編集が重要なセリフをカットしたのか、元々のシナリオがずさんだったのかわからないが、それぞれのキャラクターが全く理解できない。

北朝鮮(作品中は国名に触れず)の女性工作員とヨンファ(中井貴一)、如月(勝地涼)との関係。クライマックスに如月が宮津(寺尾聡)に言うセリフ、そしてラストシーンと、すべて原作を読んでいなければさっぱりわからない筋立てになっている。これだけの群像劇では、せめてテロップで場所と人物の役職説明くらい入れる配慮があっても良かった。

首相官邸での戦略会議も結構チャチだ。国亡が懸かった一大事なのに全然緊迫感が伝わらない。ハリウッドのこの手の映画ではその辺をうまく演出して、さすがに緊迫感を持たせている。その点は見習うべきだ。裏切り者自衛官にイージス艦が乗っ取られる動機立てもしっくりこない。どんな動機があるにせよ、あの国の工作員とは組まないでしょう、普通。

監督は阪本順治。「どついたるねん」「顔」など、底辺やアウトローの人間をじっくり描くことで定評のある骨太の監督だ。今までの「ホワイトアウト」「踊る大捜査線」「OUT」など製作費をかけた超大作に比べるとある程度の作品には仕上がっているが、こういったスペクタクルでの多数の人物処理は不得意なのだろう。しかし、前に述べたストーリーのわかりにくさと、説得力のなさ、そしてラストのVFX(ビジュアル・エフェクツ)に至っては、それまで楽しんでいた観客も脱力してしまう。

大作感を売りにしながら、相対的な腰砕け。あたかも前歯真っ白、奥歯ボロボロといった例えがふさわしい作品である。

前川繁(まえかわしげる)
1973年愛知県生まれ。シアトルで4年間学生生活を過ごす。現在、東京でサラリーマン修行中。コネクションを作って、いつか映画を作っちゃおうと画策している。