「トゥルー・ロマンス」という映画で、主演のクリスチャン・スレーターの女の子への誘い文句が「ソニー・チバの『ストリートファイター』3部作を見に行こう」だった。結局ひとりで劇場に行った彼は、パトリシア・アークエット扮する娼婦と運命の出会いをする。彼が、ソニー・チバは世界最高のカンフー・スターだと説明していたのは、日本の千葉真一である。脚本を書いたクウェンティン・タランティーノがソニー・チバのファンであることは有名で、彼の「キルビル」にもキャスティングされている。「パルプフィクション」で、サミュエル・L・ジャクソンが人を殺す前に聖書の引用を長々と喋るのは、千葉真一主演の「影の軍団」を参考にしている。タランティーノとジャクソンはこの「影の軍団」がアメリカでテレビ放映されていた時、熱中して見ていたそうだ。 1970年代、そのソニー・チバが主演した東映製作の空手映画の多くが全米で公開されていたことは意外に知られていない。「ストリートファイター」は、東映の「殺人拳」3部作と志穂美悦子(長渕剛の奥さんである)主演の「女必殺拳」を含めた4部作としてニューライン・シネマ(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの製作会社)から全米公開された。1作目は全米興行収入5位に入るほどの成績を残している。なぜタランティーノはブルース・リーやジャッキー・チェンよりもソニー・チバに熱狂したのか。その「殺人拳」シリーズをビデオで見てみた。 ジャッキー・チェンやブルース・リーと違うシーンは明白である。その異常なまでの残虐さだ。千葉扮する剣琢磨はアクション映画史上最高の悪いヤツである。女は売春宿に売り飛ばす、マフィアのキン○マはひねりつぶす、目の玉はつかみ取るなどの極悪ぶり。ここまで来れば最上のシュールさと言えるだろう。最後は敵の喉仏を引きちぎり、それを持ったまま意味不明の不気味な笑い声を上げて映画は終わる。こんな映画を堂々と作って全国公開していた当時の東映という会社と、それを受け入れていた寛容な日本国民に最大限の敬意を払いたい。また、バイオレンス志向の強いタランティーノがこのような作品を好むのは、ジミー・ウォング主演の香港映画「片腕ドラゴン」(この映画も相当狂ってます)をお気に入り作品と公言していることからも確かである。ちなみに最も尊敬する監督は「仁義なき戦い」の深作欣二で、その深作監督でソニー・チバとタランティーノが主演する作品を企画していたそうだ(深作の死により延期)。 最後に、ニューラインは真田広之をデューク・サナダ(サナダ男爵!?)、志穂美悦子をスー・シオミ、中島ゆたかをドリス・ナカジマ、成田三樹夫はミッキー・ナリタ(!?)という名前でクレジットされていたことも付け加えておきたい。 |
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