アカデミー賞の発表も終わり、作品賞は大方の予想を裏切り「クラッシュ」が受賞した。アカデミーの老会員は、「ブロックバック・マウンテン」に対して拒否反応を持ったようだ。アメリカでは全米とシカゴの映画批評家賞を除くほぼすべての賞で作品賞と監督賞を独占していただけに、まさに大番狂わせだった。 その「クラッシュ」だが、脚本が「ミスティック・リバー」「ミリオン・ダラー・ベイビー」の脚本家ポール・ハギスらしく、実に緻密なストーリーで人種偏見の複雑さを描写している。しかし、人種差別を的確に表現している映画と言えば、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」には遠くおよばず。その「ドゥ・ザ・ライト・シング」を、当時のアカデミー賞は全く無視したのにね。今回の「クラッシュ」受賞の真相は、アカデミー会員の東洋人差別だったりして(「ブロックバック・マウンテン」は台湾人のアン・リー監督作品)。 こんなこと言いたかないが、黒澤明でさえアカデミー賞候補になったのは「乱」の1回こっきり。その反面、スウェーデンのイングマール・ベルイマンやイタリアのフェデリコ・フェリーニといった黒澤と同格と言われているふたりは、それぞれ8回、12回ノミネートされているのに。中国のチェン・カイコーが監督した「さらばわが愛、覇王別姫」もゴールデングローブ賞などアカデミー賞の前哨戦はほとんど制していたが、アカデミー賞はスペインの「ベルエポック」に敗れている。 アカデミー賞9部門を制した「ラストエンペラー」では、主役を堂々と演じたジョン・ローンだけはノミネートされなかったし、今年の「SAYURI」に主演したチャン・ツィイーも全米俳優組合賞やゴールデングローブ賞にはノミネートされながら、アカデミー賞からは選に漏れた。今回アン・リーは監督賞を取ったが、以前の「いつか晴れた日」ではアカデミー7部門にノミネートされながら監督賞のみノミネートされなかった。これには脚本賞を取ったエマ・トンプソンも授賞式でチクリと批判してたっけ。黒人差別には敏感に反応するハリウッドだが、これだけアジア差別を露骨に行われているのだから、アジアの人々はもっと声を大にして言うべきである。 ところで「クラッシュ」に戻るが、人種差別や偏見を描く意味では「ドゥ・ザ・ライト・シング」のほうが上だ。しかし、差別をする側とされる側という単純な構造を超え、多数の人間のドラマが絡んだ緻密なストーリー展開と、それらを収束するラストシーンは特筆ものだ。途中まであまりにくどい人種エピソードに辟易としたが、ラストで納得。アカデミー脚本賞受賞が頷ける構成力だった。
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