第10回 「Master and Commander: The Far Side of the World」 | |||
「いまを生きる」「トルーマン・ショウ」「ピクニック・アット・ハンギングロック」など数々の名作を世に送り出している、ピーター・ウィアー監督の最新作。海軍士官を主人公にしたパトリック・オブライアン著の人気冒険小説シリーズの映画化で、舞台は19世紀初頭(1800年~1815年)、ナポレオン戦乱時代の英国海軍とフランス海軍との戦闘を描いたアクション・ムービーだ。 主人公、ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)は英国海軍の軍艦サプライズ号の艦長であり、乗組員達からは“ラッキー・ジャック”と呼ばれ、尊敬されている。この軍艦の医師でもあり、無類の動物好きの博物学者でもあるステファン・マチュリン(ポール・ベタニー)とは親友同士。1805年、ジャックの英国軍艦はフランスの船を追跡しているが、ある夜明けに奇襲を受け、実は彼らがこちらを追跡していたことがわかる。ブラジルの北岸からアルゼンチンを過ぎて、岬を回ってガラパゴス諸島をまたいで、追撃のチャンスを窺いながら航海は進むが、その間も嵐や乗組員たちのぶつかり合いなど様々な困難に遭遇。大海原の軍艦の中で乗組員達は力を合わせて立ち向かっていく……。 約9割が船上でのシーンであり、主要なキャラクターの女性がひとりも(厳密にいうと、途中で寄港した島の娘がふたり映っていた。でも手を振っているだけ)出演しておらず、本当に男と海の世界の話だった。もちろん女性は乗船が許されていない時代であり、乗組員の階級も厳しく決まっており、年端のいかない士官候補生が、自分の親ほどの乗組員に指示を出す。アクション映画あるいは戦争映画に区分されているが、戦闘シーンは生々しく、そこで怪我を負った組員にも限られた医療しかできないため、麻酔なしでの手術など、「うっ」となる場面もかなりあった。 艦長室でのヴァイオリンとチェロのデュエット・シーンのため、ラッセル・クロウとポール・ベタニーは、ヴァイオリンとチェロを相当苦労して練習したらしい。また英国上流階級のアクセント、船や航海について(『Sailing for Dummy』も読んだと本人がインタビューで答えている)も相当勉強したそうだ。このおかげで、イギリス英語が得意でない私は、自分が逃してしまった会話や簡単なジョークも「???」という時があり、一緒にいた友人に頻繁に質問してしまった。 オーブリー艦長役のラッセル・クロウは、まさに彼のはまり役であった。戦時における人間の複雑な心理を、繊細に、そして力強く演じ、人間味溢れる艦長として、十分表現していた。2時間20分の上映時間は少し長く感じたが、歴史に忠実な細かい演出と高度なCG技術がリアリティーを高め、壮大な海を舞台にしたこの映画をさらに迫力のあるものにしている。 余談だが、この映画のオフィシャル・ウェブサイト、10ヶ国語(英語、スペイン語、中国語、韓国語など)で翻訳されているのに、なぜ日本語がないんだろう? と、日本人としてちょっとさびしく思った。日本でも来春公開されるはずなんだけど……。 | |||
石渕裕子 群馬県生まれ。2002年までインターネットの会社(川崎)で勤務。結婚を機に渡米し、シアトルへ。小学校勤務を経た後、現在はコンピュータ会社にて勤務中。 |
Master and Commander
- 12/07/2020
- とれたて!映画レビュー
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