第11回 「The Last Samurai」 | |||
オールグレン大尉(トム・クルーズ)は、明治政府の皇軍を近代的な軍隊として訓練するために雇われ、日本にやって来る。元軍人でアメリカ南北戦争の英雄でもあるオールグレンだが、戦いでの精神的なダメージから立ち直ることができないでいた。ある戦いの末、オールグレンは士族反乱軍を率いる勝元(渡辺謙)の軍に捕らえられるが、勝元の妹、たかとその家族、そして勝元の家来達と過ごしながら、侍、武士道という世界を知り、次第に彼らとの間に強い絆が生まれる……。 映画の舞台となったのは、1870年代の日本。1868年の明治維新以後、新政府の新しい体制(徴兵制、帯刀禁止令など)によって、武士の存在自体が無用なものとなっていく。そんな彼らは次第に大きな不満の波となり、全国各地で士族の乱が勃発。その代表的人物が西郷隆盛だ。大政奉還の貢献者であった彼だが、時代の流れに翻弄され、西南戦争で軍を率いて鹿児島城山で散った。勝元のバックグラウンドやキャラクター(正義感が強く、博識、人望が厚いなど)と重なる点が多い。 勝元役を演じた渡辺謙を始め、日本の実力派俳優の迫力の演技と目にも留まらぬ速さの立ち回りが素晴らしかった。アメリカでは、渡辺謙が今後期待される俳優として非常に大きくメディアで取り上げられている。個人的には、勝元盛次の長男役を演じた新人俳優、小山田シンとたかの長男役の心に 残る名演技に注目したい。今後の活躍が非常に楽しみである。 インタビューで渡辺謙と真田広之は、「人として心の大切な部分は侍であろうとなかろうと同じものであるから、そこを感じて欲しい。この映画に関わったことを日本人として非常に誇りに思う」と語っている。武士道(サムライ・スピリット)は、確かに日本の誇れる、美しい日本の一部であった。戦いに敗れ、潔く死を選ぶ。というより、侍にとっての選択肢は“死ぬこと”のひとつしかないのだ。 武士の誇りと共に自分を全うする……。死を選んで逝った、ふたりといない偉大な人物が、もし武士道ではありえない“生きる“という選択をしていたら、日本は今と違っていたのであろうか。歴史はそういった人達の犠牲によって作られているのは理解できるが、くやしいというか歯がゆい思いがした。死ぬという選択肢があっても、死ぬなら相手を道連れに、というアメリカ人にうまく伝わるといいのだが。 日本の武士道を描いた初のハリウッド映画という点では、なかなかやってくれたのではないかと満足である。 | |||
石渕裕子 群馬県生まれ。2002年までインターネットの会社(川崎)で勤務。結婚を機に渡米し、シアトルへ。小学校勤務を経た後、現在はコンピュータ会社にて勤務中。 |
The Last Samurai
- 12/07/2020
- とれたて!映画レビュー
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