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Letters from Iwo Jima

第134回 「Letters from Iwo Jima」
監督:クリント・イーストウッド
主演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮ほか
公開:1月12日(金)
レート:R
公式ウェブサイト: http://iwojimathemovie.warnerbros.com

 
Letters from Iwo Jima
©Warner Bros. Entertainment Inc.

日本に遅れること1カ月、ようやくアメリカでも「硫黄島からの手紙」が公開になりました。先月のゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞を受賞し、今月に発表されるアカデミー賞の有力候補とも言われている今作は、太平洋戦争末期の硫黄島を舞台に繰り広げられるヒューマン・ドラマ。アメリカ映画でありながら全編日本語で製作された作品というのは本作が初めてです。監督は「ミリオン・ダラー・ベイビー」のクリント・イーストウッド、製作総指揮は「クラッシュ」のポール・ハギスが担当しています。

1944年6月、本土防衛の要である硫黄島に、陸軍中将・栗林忠道 (渡辺謙)が新たな指揮官として着任します。アメリカ留学の経験を持つ栗林は、同じく欧米の合理性を理解するバロン・西(伊原剛志)と共に画期的な基地運営を始めますが、旧来の思想から抜けられない士官達との対立は深まるばかり。結局、団結を見ないまま、圧倒的な物量を誇る米軍と壮絶な戦闘に突入することになります。

特筆すべきは、イーストウッド監督がキャラクターへの感情移入を徹底的に否定していることです。たとえば日本軍兵士を勇士のように扱ったと思えば、理不尽な体罰のシーンを入れてそれをひっくり返すという風。同時に、戦争映画にありがちな描写、奮戦する日本軍兵士であるとか、優れた戦略家としての栗林や西、といった視点も避けてあり、彩度を落とした画面とも相まって、実に淡々とした印象を受けました。栗林隊の最後の突撃の場面でも、指揮官栗林が敵を倒すという、映画的には不可欠であろうシーンが描写されていません。戦争の悲惨さをことさら強調する必要なんてない、という監督の戦争観がよく表れていると思いました。また、この映画の語り部的存在である西郷(二宮和也)は不自然に思えるほど現代っ子的なキャラクターとして描かれていますが、自分を含めた若い世代の観客が違和感なくストーリーに入り込んでいける重要な設定なのかもしれません。

太平洋戦争当時ならば敵方であるアメリカ人のイーストウッド監督が、全く感傷に浸ることなく、冷静沈着にこの戦争を「日本側から」描き切った手腕には本当に驚きました。なぜ日本人がこういった映画を作れなかったのか、ちょっと残念な感じもしますが、観客に主題を考えさせるタイプの、かなり完成度の高い映画として「硫黄島からの手紙」を強くオススメしたいと思います。

ミトウ:
札幌生まれ、札幌育ち。高校卒業後、渡米。現在はショアライン・コミュニティー・カレッジで4年制大学への編入を目指して勉強中。好きな映画は「Down By Law」「Crash」「博士の異常な愛情」「リアリズムの宿」「tokyo.sora」「秋刀魚之味」など。