今年度のシアトル国際映画祭でも上映された本作。日本では06年に公開になり、ここ最近の邦画としては異例の40億円を超える興行収入を記録するなど、大きな話題作として記憶にある方も多いと思います。 東北の海坂藩で毒味役を務める下級藩士、三村新之丞(木村拓哉)は、ある日、赤つぶ貝の毒にあたって失明してしまいます。三村の妻、加世(壇れい)は、面識のある番頭、島田藤弥(坂東三津五郎)に家名存続の口添えをしてくれるよう頼みますが、その代わりにと島田の手中に落ち……。新之丞は苦悶の末、加世に離縁を言い渡し、島田への復讐を心に決め、自らの「一分」を賭けて果たし合いに挑みます。 山田洋次監督の本格的な時代劇監督作。「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」に続く完結編で、原作は78年に藤沢周平が発表した「盲目剣谺返し」。主演には木村拓哉、その妻に、元宝塚の檀れい。さらに坂東三津五郎、笹野高史、桃井かおり、緒形拳、小林稔侍などの渋い俳優陣が脇を固めています。 本作は、主演が木村拓哉だということを意識せずに見ることは不可能でしょう。結論から言うと、これは「あり」。前半はいかにも僕達の知っている“キムタク”の顔でしたが、中盤以降、どんどん殺伐としてくるストーリーに合わせて、彼の非凡な演技力が前面に出てきます。特に眼力の鋭さはなかなか見応えがありました。脇役では徳平役の笹野高史が抜群で、映画の雰囲気をうまくまとめていました。 また、僕が好感を持ったのは、うるさ過ぎないBGMでした。音楽を担当したのは、シンセサイザー音楽では日本で第一人者の冨田勲。山田監督の時代劇3部作のすべてで劇中音楽を作曲しています。曲はどれも、メロディーで主張するタイプではないのですが、控えめながらも重厚な印象を受けました。綿密に計算されたカメラ・ワークと相まって、本編の素晴らしいアクセントになっていると思います。 ここ数年の邦画の中では明らかに毛色の違う、職人芸とでも言うべき作品で、驚きの展開や斬新なアイデアはありません。しかし、作りがしっかりしているので安心してゆったり見ることができました。 いわゆる侍映画としても、下級武士の日常と夫婦愛にスポットを当てた本作はユニークで、久々に「王道の日本映画」と呼べる1本ではないでしょうか。 |
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