ブラック・コメディーを作らせたら右に出る者はいないコーエン兄弟ですが、1996年の「Fargo」、そして昨年の「No Country for Old Men」に続いて「Burn After Reading」という、これまたとんでもない良作を出してきました。 CIAを退職したオズボーン(ジョン・マルコビッチ)はそれまでに扱ったデータを自伝執筆のために用意するも、離婚を切望する妻に無断で持ち出されてしまいます。スポーツ・ジムのトレーナー、チャド(ブラッド・ピット)とリンダ(フランシス・マクドーマンド)は、そのデータの入ったCD-ROMを偶然手に入れ、ふたりはそれをネタにオズボーンを脅迫し、ひと稼ぎしようともくろむのですが……。一方、オズボーンの妻の浮気相手であるハリー(ジョージ・クルーニー)はネットの出会い系サイトでリンダと出会い、物語は混乱を極めていきます。 ちょっとずつどこかずれている、浮世離れしたキャラクターしか出てこない本作。それぞれが一生懸命生きているにもかかわらず、それが全くと言って良いほど噛み合わずに、どんどん狂気へと昇華していくストーリー・ラインは、さすがコーエン兄弟といったところ。本作は、ほかのコーエン兄弟作品に比べても笑いの要素が強く、爆笑もののセリフが要所に織り交ぜられていました。特に最初に出てくるCIAでの飲酒問題に関するくだりは思いっきり笑えます。 俳優陣もジョージ・クルーニーとブラッド・ピットを筆頭に、みんなノリノリ。ブラピが演じたちょっぴり頭の足りないジムのトレーナー役は、これからこんな役を受けるかどうかは別として、彼の新境地を開いたと言って良いと思います。コーエン兄弟作品の常連、フランシス・マクドーマンドも美容整形がしたくてたまらないジム・トレーナー役を好演していました。 この作品の面白みがさっぱりわからない人もたくさんいると思いますが、皮肉の効いたジョークや全編に漂うちょっとすかした雰囲気は、いったん好きになったら止められない中毒性みたいなものがあります。本作は「No Country for Old Men」のようなシリアスさではなく、彼らの作り出す笑いを期待していたコーエン兄弟ファンにとって、最高の贈り物となりました。 |
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