第156回 Quantum of Solace ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドとしては2作目になる「Quantum of Solace」が、「カジノ・ロワイヤル」からちょうど2年のブランクを経て公開となりました。それまでのボンド・シリーズのマンネリ化を打破した前作は、前評判を覆して大ヒットとなり、興行成績でもシリーズ最高記録を樹立したのは記憶に新しいところです。 前作で恋に落ちた女性、ヴェスパーを失ったボンド(ダニエル・クレイグ)は、彼女を操っていた人物を尋問するうち、巨大な悪の組織の存在を知ります。組織のトップであるグリーン(マチュー・アマルリック)は、ラテン・アメリカの一国を手中に収め、そこに隠された自然資源を独占しようとしていました。ボンドはヴェスパーへの感情を捨てきれないまま、与えられた任務を個人的な復讐のために利用し始めます。エージェントとしての資格を剥奪されながらも、CIAやMI6を先んじるボンドが追い求めるものとは……。 主演には前作で多くのボンド・ファンを唸らせたダニエル・クレイグが当然の続投。ボンド・ガールには、ウクライナ出身のオルガ・キュリレンコ。2005年の「薬指の標本(L’Annulaire)」で映画デビューした新顔です。監督には、クレイグの推薦もあって「君のためなら千回でも」、「ネバーランド」などで知られるマーク・フォースター。アクション映画の監督は今回が初めてだそうです。 本編開始直後に気付くのは、本作が「カジノ・ロワイヤル」の完全な続編扱いになっているところ。ストーリーの開始は「カジノ・ロワイヤル」本編終了から数時間後に設定されています。そのためか、本作のボンドは前作に増して不安定で弱い人間というふうに描写されているように感じました。そういう繊細な部分の演出を見越してのマーク・フォースターの起用だったのかもしれません。 しかし、ボンド・シリーズらしいアクション・シーンは健在です。アクション映画としての要素は前作以上の充実ぶりがうかがえました。時に泥臭く感じられるリアルな格闘と、それを淡々と追うスタイリッシュな映像は相変わらず。冒頭のカー・チェイス、シエナの街を舞台にした追跡劇、そしてハイチでのボート・チェイスなど、文句の付けようのないシーンがこれでもかというくらい盛り込まれています。 惜しむらくは、ボンドの復讐劇に焦点を置き過ぎたあまり、世界中に支援者を持つ悪の組織を率いるグリーンが小悪党程度にしか見えず、その最終目的もあやふやなままだったところ。結果、ストーリーが物足りなく感じてしまいました。ボンド・シリーズのお約束を、随所でことごとく裏切る本作ですが、定石外しもほどほどにしたほうが良かったのかもしれません。 |
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