第162回 The Taking of Pelham 1 2 3 「Crimson Tide」、「Man on Fire」、「Déjá Vu」に続く、トニー・スコットとデンゼル・ワシントンのコンビによる本作は、1974年に製作された「The Taking of Pelham One Two Three(邦題:サブウェイ・パニック)」のリメイク。ニューヨークの地下鉄を舞台に繰り広げられるサスペンス映画です。 トニー・スコットといえばブレとボケ、空撮を多用したハイ・コントラストな映像でおなじみですが、本作でもそのスタイルは健在。地下鉄の軋む音もさまざまな場面で強調されていて、そのスタイリッシュな雰囲気はさすがというところ。そこにデンゼル・ワシントンとジョン・トラボルタのベテランらしい安定した演技が加わって、106分の本編はあっという間に過ぎ去っていくという印象でした。ただ、破綻のないストーリー、ベテラン俳優陣、美麗な映像と、成功作と呼ぶには問題のない要素がそろっておきながら、本作は全くといって良いほど心に残りません。 前半はデンゼル・ワシントン演じるしがないMTA職員と、全くバックグラウンドがわからない、まさに悪役のお手本のような犯人(ジョン・トラボルタ)とのやりとりが続き、お互いの裏を探り合う会話にはぐぐっと引き込まれたのですが、後半、アクション・パートがメインになった辺りから、何から何まで一定の淡々としたトーンに飽きが出てきました。あまりにあっけないラスト10分を含めて、あれぇ、という感じです。 原作となった小説は30の異なる視点からこの事件を描いたものだそうですが、本作にそういった群衆劇的アプローチは一切なし。地下鉄車両の中で人質となった乗客の描写はオマケ程度の浅いもので、あまりに頭の悪いニューヨーク市長を含めて、もっとほかのキャラクターに迫ったシーンが欲しかったような気がします。さらに、立場が全く違っていても、本質的には似ている正義と悪、というテーマを伝えたいのはなんとなくわかりましたが、この何ら真新しくない命題をごくごく平凡なストーリーで語ってしまったところにも、この映画の弱さがあるような気がしました。リメイク作品にはつきものの「リメイクする必要なんてあったのか」「オリジナルのほうが良かった」という反応はあるものの、細かい能書きを抜きに純粋なサスペンス映画としてみれば、本作は及第点。いかにも夏公開の作品らしい、重過ぎず軽過ぎずのバランスは評価しても良いと思います。
7月公開の注目作品
Public Enemies 監督:マイケル・マン 出演:ジョニー・デップ、クリスチャン・ベールほか 公開日:7月1日(水) 舞台は1930年代、大恐慌時代のアメリカ。国民の敵と呼ばれた銀行強盗ジョン(ジョニー・デップ)と、それを追うFBI捜査官メルヴィン(クリスチャン・ベール)の実話を元にした物語。製作総指揮をロバート・デ・ニーロが務めることでも話題。
Hurry Potter and the Half-Blood Prince 監督:デビッド・イェーツ 出演:ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソンほか 公開日:7月15日(水) 世界中で人気のシリーズ、第6作。魔法学校に通うハリー(ダニエル・ラドクリフ)とその仲間達が、強敵との最終決戦に向けて手掛かりを探ると、そこにはこれまで謎とされてきたことの答えが……。思春期ならではの彼らの恋のゆくえにも注目。
The Ugly Truth 監督:ロバート・ルケティック 出演:キャサリン・ヘイグル、ゲラルド・バトラーほか 公開日:7月24日(金) テレビ局で働くアビー(キャサリン・ヘイグル)は仕事では成功しているものの、私生活はイマイチ。そんな中、テレビ司会者マイク(ゲラルド・バトラー)の恋愛指南の元、恋人作りに励むのだが……。「Legally Blonde」のスタッフが送るコメディー。
伊藤 晶 札幌生まれ、札幌育ち。アメリカ生活5年目。07年9月からオレゴン大学でコミュニケーションを専攻中。好きな映画は「Down By Law」「Garden State」「リアリズムの宿」「好きだー」「サマータイムマシーン・ブルース」など
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