第164回 District 9 久々に超硬派なSF映画の登場です。南アフリカはヨハネスブルグを舞台にした、異星人と地球人との奇妙な関係を描く異色作がこの、「District 9」。ドキュメンタリー・タッチで制作されたトレイラーやキャンペーンが功を奏してか、公開後3日で37万ドルの興行成績を記録、Rotten TomatoesやIMDbといった各レビュー・サイトでも絶賛の嵐となっています。 その絶賛の原因は何かと言えば、作り込まれた映像でも俳優陣の演技でもなく、今までのSF映画とは全く異なる、リアリティーを追求した設定にあると思います。もちろん細かいところを見ればその設定にも破綻している箇所はいくつかありますが、メインストリームから外れたSFの可能性を見せてくれたことは特筆に値します。特に映画の前半は、主人公の異星人に変態していく過程が冷酷に描かれており、その突き放した描写がストーリーを際立たせていました。 しかしながら、良くも悪くもSF映画の枠を決して外れることがなかった本作。後半は、主人公と主人公の抹殺を試みる人々との銃撃戦がメインとなります。全編通してスプラッター映画顔負けの惨殺シーンがいくつも出てくるのですが、後半では特に顕著になり、そういうシーンに免疫のない人には注意が必要。頭がいくつも飛び、体が爆発してちりぢりになります。そこにストーリーはなく、主人公の置かれているシチュエーションにも何ら解決をもたらすでもなく、その先には妙に急いた、中途半端な結末が待っています。 例えばストーリー前半に頻出したドキュメンタリー・タッチの演出を、後半はオマケ程度にしか扱っていなかったり、主人公のDNAを採取するために奔走した科学者達が、途中から全く出て来なくなったり、残念な部分はたくさんあります。しかし、それを補ってあまりある新しいSFとしての存在感には脱帽するほかありません。ちなみに主人公を演じた俳優は監督の友人で、元々は俳優志望の人物ではないそう。無名の俳優ばかりを起用することで、物語にリアリティーを持たせた意味もあるようです。 本作は、監督が2002年に制作した6分間の短編作品「Alive in Joburg」が元になっています。Google Video(http://video.google.com)などで視聴が可能なので、本作を観る前に予習と思ってチェックしておくと良いかもしれません。 9月公開の注目作品 Whiteout 監督:ドミニク・セナ 出演:ケイト・ベッキンセイル、アレックス・オローリンほか 公開日:9月11日(金) 南極で初の殺人事件が発生、ケイト・ベッキンセイルが演じるアメリカ連邦保安局の捜査官が現地に派遣される。太陽が昇らなくなる本格的な冬が到来するまであと3日という極限の状況下、犯人逮捕に乗り出すのだが……。 The Informant! 監督:スティーブン・ソダーバーグ 出演:マット・デイモン、スコット・バクラほか 公開日:9月18日(金) 野菜の価格操作が行われていることを内部告発し、FBIに協力する物語。2000年に出版されたノン・フィクション本を、コメディー色も交えて映画化。主役を演じるマット・デイモンは、この映画のために30キロ増量。その変貌振りにも注目。 Surrogates 監督:ジョナサン・モストウ 出演:ブルース・ウィリス、ロザムンド・パイクほか 公開日:9月25日(金) ロボット工学の技術の発達で、人々は自分そっくりに造られたロボットを通じて、日々の生活を送っている。そんな中、ブルース・ウィリス演じる刑事が事件に巻き込まれてゆくのだが……。近未来が舞台のSFスリラー。 |
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