第49回 「Cellular」 | |||
「アウトドアの季節も終わり、芸術の秋ですわね」と気取りつつ、内心では「ちぇっ、また引きこもりの季節が始まるのか……」とつぶやきたくなる今日この頃。皆さん、いかがお過ごしですか? 浅倉薫です。今回から月1回、レビューを担当させていただくことになりました。 今月のレビューは「Cellular」。題名のとおり、携帯電話がカナメになっています。電話と言えば、記憶に新しいのはコリン・ファレル主演の「Phone Booth」(2002年)。主人公が公衆電話に張りついたままほとんど動かないという設定ゆえ、俳優の表現力が問われる映画でもありました。コリンはその点うまかったですね。思いがけない状況に巻き込まれた主人公の当惑が、緊張へ、恐怖へ、決断へと移っていく様子、その過程で人間性があらわにされていくことへの葛藤をよく見せていました。 さて、「Cellular」のヒロイン、ジェシカを演じるのはキム・ベイシンガー。綺麗で色っぽいだけじゃなく、説得力のある演技ができる女優さんです。繊細で一見か弱そうなジェシカが必死に行動する姿にはキュンときますよ。このヒロインは電話を掛ける側。電話を受けて事件に巻き込まれていくのは、無責任で自己チューな若者、ライアンです。ただならぬ事態を感じ取った彼は、普段のいい加減さをかなぐり捨て、なりふり構わず奔走。根はいいヤツなんですね。 俳優達の演技も撮影も並み以上のデキですが、難を挙げるとすれば、ジェシカの張りつめた表情とライアンの騒々しい活躍とのミスマッチかな。ハラハラすべきか笑うべきか、見てて微妙に迷うんですよね。「Phone Booth」と同じくラリー・コーエンが脚本を担当しているので二番煎じかと思いきや、じつはかなり趣の違う映画に仕上がっています。ま、これはこれでまたよし。携帯電話ならではの機能も話の要所要所で生かされていますしね。「大したギミック(仕掛け)じゃないじゃん」なんてお利口ぶらないで。せっかく作る側が工夫してくれているのだから、のってあげちゃいましょう。 この作品中、主要人物でもないのに存在感で得をしているのは、ポルシェを乗り回すイヤミったらしい弁護士役のリック・ホフマン。爬虫類系というのかな。なーんか独特のヌメッとしながらザラッとした生理的インパクトのある顔で、強烈な印象を残してます。今後のお仕事がちょっと楽しみですよ。 | |||
浅倉薫 東京生まれ。太平洋沿いの大都市を転々とした後、2002年にシアトルに流れ着く。文系思考の研究員、理系思考のマーケター、勉強ギライなUW生、などの過去を背負う不良主婦。自称“面食い”だが、その基準が普通じゃないと言う人も。現在のごひいきはジョニー・デップ。 |
Cellular
- 12/07/2020
- とれたて!映画レビュー
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