第81回 「Rock School」 監督:ドン・アーゴット 出演:ポール・グリーン ウェブサイト:www.rockschoolthemovie.com/ | |||
暑い日の映画館は天国だと思ったのは入った瞬間だけ。映画を見ているうちに寒さに震えあがってしまい、なまった体の新陳代謝を活発化しなくちゃと痛感する今日この頃。皆さん、いかがお過ごしですか? 浅倉薫です。 今年のSIFF(シアトル国際映画祭)では、音楽をテーマにした作品を20本以上も上映。アンドリュー・ウッド(パール・ジャムの前身バンドのボーカル)の伝記「Malfunkshun: The Andrew Wood Story」や、キャピトル・ヒルで殺害されたミア・ザパタを取り上げた「The Gits」などは、シアトルの音楽通ならたまりません。ロックを全く知らない人にも楽しめるドキュメンタリー、「Rock School」はシアトルほかアメリカ各地で上映が開始されていますので、ここではこちらをご紹介します。 ポール・グリーンという人が主宰するこのスクールは、耳触りのいいポップな音楽など歯牙にもかけず、ヘッド・バンギング系ヘビメタ一辺倒という珍しい学校。生徒は9歳から17歳の子供達。レッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、アリス・クーパーなどのポスターがベタベタと張られ、ギターやドラムが大音量で鳴り響く教室で、常に躁状態といった様子のポール・グリーン先生が罵声を飛ばす。言葉は汚いわ、容赦のないコメントが次々飛び出すわで、見ているほうがびっくりしてしまうほどですが、怒鳴られて、泣いたりわめいたり言い返したりしながらも、子供達は意外にあっけらかんとしています。「学校」という一般イメージとは随分違うところなんですよね。 スポットを当てられている生徒達も、先生に劣らず個性的です。暴言攻撃に動じることなくポール・グリーンの精神を辛らつに解析してみせる鬱病の少年。意地悪なコメントに涙しつつも(ヘビメタ路線からはかなりはずれた)自分の音楽志向を譲らない敬虔なクェーカー教徒の少女。格好だけはイッチョマエのチビッ子双子姉妹は、天然系のおかしさ爆発。正直なところ、ほんとにロック・スターになれそうな生徒はほとんどいませんが、例外はスクールきっての神童、CJ。恐ろしいギター・テクニックで難曲を弾きこなしながらも自分の腕前におごることないCJには、口の悪いポール・グリーンも一目置いています(でもその一方で、同じギタリストとして彼の才能に嫉妬も感じているみたい)。 このスクールは、子供達も大人になりきれない大人も、個性殺すことなく生きいきとしている場所です。生徒と同レベルで真正面からぶつかってくるポール・グリーンは、演奏技術以外のものも子供達に与えているのでしょうね。スクールと先生と生徒達のユニークさで成り立っている作品なので、「だから何が言いたいの?」と問われると答えに窮してしまいそうですが、胸がすっとして、元気な気持ちをもらえるような気がするドキュメンタリー。とにかく面白いですよ。
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浅倉薫 東京生まれ。太平洋沿いの大都市を転々とした後、2002年にシアトルに流れ着く。文系思考の研究員、理系思考のマーケター、勉強ギライなUW生、などの過去を背負う不良主婦。自称“面食い”だが、その基準が普通じゃないと言う人も。現在のごひいきはジョニー・デップ。 |
Rock School
- 12/07/2020
- とれたて!映画レビュー
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