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オレゴン・コーストのタイドプール

ノースウエスト自然探訪
2002年07月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

豊かな自然に囲まれた美しいパシフィック・ノースウエスト。でも、その自然の醍醐味は、実際に体験してみなければ分からない。さて、どこへ出掛けたらいいのだろう? 地元在住のアウトドア・エキスパートが、そんなあなたをノースウエストの自然を堪能できる真の見どころへ案内しよう!

岩場の海岸では、潮が引くと窪みに水が残って池のようになるところが現れる。この潮溜まりをタイドプール(Tidepool)と呼ぶが、これは、また潮が満ちるまでの数時間だけの“小さい海”だとも言える。

タイドプールでは、海草の間に棲むウニやイソギンチャク、いろいろな魚などを見ることができる。子供連れの家族や小中学校のグループで賑わうキャノン・ビーチのヘイスタック・ロックには、大小の潮溜まりが広い範囲で現れる。子供たちは、この天然の潮溜まりでヒトデやカニを見つけては歓声を上げ、時間を忘れて走り廻っている。

人気の海岸にはパネルが設置されていたり、貝や海の生態の説明などを話してくれる解説員(Interpreter)がいる。これらの場所は岩礁なので足元が悪いところが多いが、サインや遊歩道、手すりなどを設置して海へ行きやすくしてあり、トイレやピクニック・テーブルが備えられているところもある。内海が主だからか、ワシントン州にはタイドプールが少ないが(オリンピック国立公園のMoraの北には、干潮時に行けるタイドプールがある)、オレゴン・コーストの南北500kmには、このように整備されたタイドプールが25カ所もある。

そのオレゴン州に、世界で唯一、車椅子で廻れるタイドプールがあるのをご存知だろうか?このタイドプールは、ニューポートの北、ヤキナヘッド岬にある。車椅子で海に入ることを思いついた人や、その夢を育てた地元のグループ、夢を夢で終わらせなかった連邦政府に、心から拍手したい。ここでは、潮が引いていくと海の中に遊歩道(設計されたスロープ)が現れてくる。このスロープの上なら、車椅子の人や小さい子供を乗せたストローラーを押す人たちが歩くことができ、水に手を入れたり、目の高さで海の生物を間近に見ることができるのだ。初めてここを訪れたときは、おばあさんが娘とおぼしき人と潮溜りを覗き込んでは、ゆっくりとトレイルを廻っていた。親不孝者には眩しい光景だった。日本もディズニーランドやユニバーサル・スタジオばかりでなく、アメリカのこういうところを真似すれば、お袋を連れて行くことだってできるし、日本の子供たちの目も“自然”に向くのではなかろうか。

今年の5月に訪れたときは、そのタイドプールの水が濁っていた。解説員に理由と聞くと、「これを作ったときに開口部を狭めちゃってね。年々砂が入ってきて、次第に水が循環しなくなり、濁りはじめたんだ」と顔を曇らせた。これから開口部を広げて、水の出入りを増やす作業をするそうである。手の掛かるメンテナンス、熱意ある人々の努力があってこそ維持できるこのようなタイドプール。この濁りが元に戻るには、2~3年掛かるそうだ。

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Information

■見どころ
ヤキナヘッドではBLM(連邦土地管理局)の自然解説員が現場に常駐しており、質問に親切に答えてくれ、その時々の見ものの動植物を教えてくれる。実際にプロミナ(望遠鏡)を設置して見せてくれるのでぜひ利用したい。タイドプール以外の見どころは以下の通り。

  • ヤキナヘッド灯台(130年の歴史)内部見学
  • 海鳥(海鵜、ツノメドリ)の繁殖地
  • ゴマフアザラシの営巣地
  • コクくじら(グレイホエール)の春の南下と秋の北上(夏は居着きのクジラがヤキナヘッドの岸辺近くに出てくることがある。スクールバスほどの体が波間からゆっくり躍り出る様子は迫力!)
  • ビジター・センター(広い館内で生物、歴史、風土資料の展示が充実。ギフト・ショップもある)

■トレイル
10~20分程度のトレイルが4ルート 潮の干満(Tide-Table): タイドプールを見るのにいい引き潮の日は、6月28日~ 30日、7月1日、14日 ~17日、28日~31日、8月11日~14日。潮の干満の詳細は、こちら

  • 服装と持ち物:ウィンドブレーカー、子供の着替え一式、足元のしっかりした靴、双眼鏡、スケッチブック、バンドエイドなど。
  • 食事: 野生生物保護のため、エリア内には食事のための設備はないが、近くにレストランがあり不便はない。
  • キャンプ: ヤキナヘッドの北2マイルのところにある「Beverly Beach State Park」がおすすめ。設備の整った森の中の大きなキャンプ場。自転車があると場内の移動に役立ち、サイクリングも楽しめるので大変重宝。トレイルを歩くと、夏草茂る要塞址を見つけることができる。思いもよらぬ場所にある日米史の遺構だ。

■問い合わせ先と参考サイト

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。