2003年06月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
「思い入れが強すぎる……」。隊長がそう告白するのが今回のカスケード・レイクス・ハイウェイ。青い空、澄んだ空気はもちろん、常緑樹に溶岩台地と、めまぐるしく変わる大自然の風景を体感してほしい。
たとえようのない空気
「さわやかな うるおい」。こう表現するしかないカスケード・レイクス・ハイウェイ辺りの空気は、ほかのどこにも例えようがない。カスケード・ループ、ロッキー、シェラネバダ、北アルプス、ヨーロッパ・アルプス……。各山岳ドライブ・コースにはそれぞれ素晴らしい魅力があるが、ここの魅力は独特の空気だ。
カスケード・レイクス・ハイウェイはセントラル・オレゴンI-97の西側ベンドの街からステート・ハイウェイ372を経由し、フォレスト・ロード46へ抜ける回廊で、カスケードの東面に沿った支道を合わせると100マイルにもおよぶ。青い、空気までも青く感じる空の下、岩と雪で覆われた山並み、森、溶岩原、湖、草原をぬって道は続いている。数々の美しい湖を訪れることができ、キャンプ場も多い、素晴らしい環境だ。
カスケード山脈の東側は年間を通じて乾いた晴れた日が多く、セントラル・オレゴンの中心の町ベンドは年間で300日が晴天と言われる。カスケードの山並みが冬には西の衝立となって雪を阻むからだ。そのため、山脈の東を貫くカスケード・レイクス・ハイウェイは11月から翌5月までマウント・バチェラーから先が閉鎖され、ホテルやリゾート地、アトラクションなど観光地の必要悪(?)はI-97側にまとまっている。そのおかげで、このハイウェイには静謐が保たれ、観光地臭さがまったくない。ノースウエストの代表的なドライブ・ルートのカスケード・ループと対照的なのは、ウェット VS ドライだけでなく、賑わい VS 静謐、これも挙げられるだろう。
見所を駆け足で巡る
この一帯は見所の宝庫なのだが、これから紹介するのはその一端。サンリバー、ベンド、マウント・バチェラー、「ハイ・デザート・ミュージアム」など、いずれも単独で紹介したい個所が山ほどだが、今回はまず概論実習ということで、このルートを駆け足で回ってみよう。
I-97から山に向かうにつれて木々の緑が多くなっていく。一帯はダグラスファー、モミなどのカスケードらしい樹種に加えて、ポンデロサ・パイン、ロッジポール・パインなど内陸性の木も混じっている。ベンド郊外やエルク・レイクの近くでは黒い木々が一面にあるのが目に入るーー6年前の山火事の跡だ。次の世代が育ってきているのが下生えから見て取れる。
山間に入っていくと、草原が開け、所々湖沼がある。マウント・バチェラーの西のダッチマン・フラットやデビルス・レイクのほとりのデビルス・ガーデンなどは夏場、色とりどりの花畑となる。カスケードの山並みと相まって、まるで天上の景色のようだ。
カスケード・レイクス・ハイウェイで見逃せないもののひとつは、火山帯のいろいろな姿だ。ルートは溶岩の押し出しのすぐ真横を通っているし、ニューベリー噴火口では、ほかにはない、黒曜石が一面にうねった溶岩台地の圧巻な様を見ることができる。ラバ・ビュートはミニ火山で、ここで火山のメカニズムと実態をつぶさに見られる。頂上にはちゃんとクレーターもあり、ここからの360度の眺望は抜群だ。地平線まで広がる大平原、カスケードの山々が一望できる。
麓のラバ・チューブは溶岩の通った後にできたトンネルでI-97の下を貫き、中に入れる。ラバ・ビュート、ラバ・チューブの近くにある「ハイ・デザート・ミュージアム」は、セントラル・オレゴンの自然、動植物、風土、歴史などの実物を多く取り入れた総合的な展示が大変興味深い。
この辺り、本当に空気が旨いが水も良い。ルートの中間クイン・リバー・キャンプ・グラウンドの泉は大量にわくカスケードの雪解けの伏流水。手を切るような冷たさで、とてもおいしい。朝夕には鹿の群れも水を飲みに集まってくる。また、近くのオスプレイ展望台は野鳥観察のスポットだ。その地名のとおり湖岸よりオスプレイ(魚を主食とする鷹)のダイビングが観察できるほか、鵜、白頭ワシなども見られる。
アメリカ10大景勝ルートを体験しよう
カスケード・レイクス・ハイウェイは1998年に“National Scenic Byway”に指定され、“America’s 10 Most Important Scenic Byway”のひとつにも選ばれている。このルートは今まさに除雪が終わり、この夏に向けて開通したばかりだ。ここに出掛ける際にとても役に立つのが「フォレスト・サービス」発行の地図“Deschutes National Forest Map”($4)と「Bend Chamber Visitor & Convention Bureau」発行の“Cascade Lakes National Scenic Byway”という無料パンフレット。いずれもインフォメーション・センター、ビジター・センター、フォレスト・サービス・オフィス(レンジャー・ステーション)、またはREIなどで入手可能だ。
Information
■カスケード・レイクス・ハイウェイ Cascade Lakes Scenic Byway
The Federal Highway Administration (FHWA)がすすめるNational Scenic Byway Programのひとつ。このプログラムはbyway(裏道)を利用した旅の促進と充実を目的とする。ここで楽しめるアクティビティーにはドライブはもちろん、自転車、キャンプ、スキー、スノーボード、ボート、バード・ウォッチングなどがある。
www.byways.org/travel/byway.html
■ベンド Bend
人口5万人のセントラル・オレゴンの中核都市。ルートの起点となる。通年で300日以上の晴天に恵まれる。
www.bendchamber.org
■ハイ・デザート・ミュージアム High Desert Museum
屋内外共とても広く、そこには内陸部の平原、砂漠の動植物、人間と自然とのかかわりを分かりやすく説明した展示物がある。館内は開拓時代の農家や農場などをそのまま、実際の作物と共に保存・再現してあり、大変興味深い。
ウェブサイト:www.highdesert.org
■デシュート国有林 Deschutes National Forests
ニューベリー噴火口、ラバ・ビュート、キャンプ場、トレイル・ウォークなどがある。
www.fs.fed.us
■ラバ・ビュート Lava Butte
平原の中のミニチュア火山。麓には「ボルケーノ・ミュージアム」があり、山頂までシャトル・バスが往復している。フォレスト・サービス(森林局)のレンジャーが常駐し、説明を受けられる。頂上のカルデラの中がミニ生態系の箱庭のようで、トレイルがリムに沿ってある。「ハイ・デザート・ミュージアム」のすぐ近く。
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
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