2012年11月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
写真のことを語るのはどうにも面映い。なにしろド素人なのだ
ただ、この四半世紀、米北西部の自然景観をいっぱい見てきた
術がなんだ、写真は場数や!と居直り、隊長の言わば「写真考」を話したい
▲逆光で人物がシルエットになっても、その場に居た人達にはこの写真1枚であの日のあの場所に戻っていける
アラスカ・タルキートナ河畔より、夕暮れのデナリ3山を望む
カメラの功罪
この夏も大勢の人がクレーター・レイク、オリンピック半島など、北西部の国立公園や自然の景勝地を訪れた。今はもう、ほとんど誰もがコンパクト・カメラを持ち、数人にひとりは一眼レフを持っている。誰もが車から降りたら、すぐにカメラや携帯電話を眼前の景観に向けパシャパシャやる。それから景色をバックに記念撮影。ドイツ人はどうも違うようだが、日本人を含む大多数の観光客のそれが、普通の風景だ。みんな写真ばっか撮り過ぎ。ちゃんと景色見てる? そんなにいっぱい撮ってどうするの?
目の前に、これまで見たこともない碧い水や氷河、巨木林にうっ蒼とした原生雨林、そして溶岩原や大平原が広がっている。その地に立ち、風に吹かれ、日差しの中でそれを見ている自分がいる。「まず観て」と隊長は思う。好きなだけ時間を取ってじっくりと、心がその原生景観にシンクロナイズするまでカメラのことは忘れなさい。あれはあなたの道具であって、あなたがカメラに使われることはない。写真を撮りたい気持ちはわかるけど、それはギリギリまでこらえましょう。まず感じなさい。そして思い出に残したい、誰かに伝えたい気持ちが高まったら、心のフォーカスを絞り、自分が本当に美しいと思うものにおもむろにレンズを向ける。そういう写真こそ思い出の1枚になるのだから。
▲スナップショットの体の向きは自由。さらに欲を言えば、足は切らないほうがいいし、空を入れた方がいい。サンファン島へのフェリー上のスナップ
▲目が横に並んでいるからか、写真は極力横長の構図で撮ったほうがしっくり眺められる。だが、この写真の場合は別。自然(樹木)が主役であり、人物は樹木の大きさの引き立て役、あるいは縮尺代わりである。レッドウッド国立公園にて
小手先の術の幾つか
隊長の経験から得た撮影術を、以下と実際の写真に沿って述べよう。
●カメラを構える時、必ずべルトを首に掛けるか、手首をスリングに通す。
このふたつを癖にしておくこと。人にカメラを託された時も同様。自然の中では足元に岩や水があることが多い。これは撮影以前の基本。
●ブレないようにする。
良い写真を撮るには、三脚+レリーズ・シャッターが理想的だが、自然探訪での撮影はうんとプリミティブである。手ブレ防止機能のあるカメラが主流になってきたが、それでも特にズームで遠くの動物などをより鮮明に写すには、極力手ブレを少なくすることを考える。写真のShootingの基本は、銃のShootingと同じ。足を開き腰を据えてしっかり構える。立て膝でもいい。両肘を脇にしっかり付ける。息を止め、絞るようにそっとシャッター・ボタンを押す。柱、壁、テーブル、車などにカメラか、カメラを構えた手や体の一部を付けて撮るとさらに良い。
三脚でなくトレッキング・ポールの上にカメラを取り付ける。一脚でも、画面は安定する。フレキシブル・ワイヤーを使った超ミニ三脚は、さまざまな場面で使える優れものだ。
●スナップの構図は、対象を頭に、連勝複式馬券で。
前景、対象、遠景、背景、上空……欲張ってあれもこれもと要素を画面に取り込まない。狙うものはこのうちふたつまでとする(時にはそれだけでも難しい)。あとは写り込むままに任せる。フォーカスが合ってなくても、それは構わない。
▲自然の大きさを表すため、時には人物をシルエットとして使う。共に、アラスカ・クロウパス、クロウ氷河にて
▲その場、その時の自然な表情としぐさ、それと景色が撮れればいい。アラスカ、キーナイフィヨルドにて
▲スナップ写真を撮る際は、特にカメラを向かせなくてもいい。アラスカ、ワージントン氷河にて
▲これは後ろ向きこそ自然な構図。カンザス州のキャンプ場にて
▲自然(砂丘)が主役で、人物は縮尺代わり。砂丘の熱さも伝わってくるよう。ホワイトサンズ国定公園にて
▲どこで何をしているか、判りやすい構図を心掛ける。後のディテールは、見る人の回想やイマジネーションに任せる。セントラルオレゴン・エルクレイクにて
(2012年11月)
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
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