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クレーター・レイクの深い“あお”

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2003年07月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

ノースウエストの自然を宝石箱とするなら、そのどこまでも青い様から“ラピスラズリ”にたとえられるクレーター・レイク。アメリカ最深のこの湖が国立公園となって1世紀。“隠し世界遺産”クラスの原始景観は、「旅行者に限らず北西部に住む人にとっても“must-see”。なぜならその“あおさ”は言葉では伝えきれないから。だから来て自分で感じて」と言う隊長。今月はそのクレーター・レイク国立公園を紹介。

その“あお”を見よう!

あお、青、蒼、碧、藍、紺、群青、コバルトブルー……。
クレーター・レイクはそんな人間の表現などお構いなく、四季折々、陽の移ろいの中に、刻々とその“あお”を変えていく。「まるでブルー・ブラックのインクを流したような」とか、「そこに手を入れると青く染まりそうな」などと表現される湖面に恐る恐る手を入れてみても、それはただの透明な水だ。

それこそが青さの理由で、透明度が限りなく高い水に太陽の光が差し、青色以外の波長の色光はすべて吸収され、青色だけが水底に反射して返ってくる。

理屈ではそうなのだけれど、この“あおさ”をじっと見ていると、この世のものに思えなくなってくる。まるで地球上にポッカリと開いた穴から、宇宙空間の青さを覗き込んでいるような感覚だ。一度でもこの“あおさ”(青の光)を観ることは、生涯の思い出となるだろう。“観光”とはこのことなんだと実感する場所だ。

アプローチの方法

クレーター・レイク国立公園はオレゴン南部にあり、ポートランドからは車で約6時間。最寄りの街はメドフォード(Medford)かクラマス・フォール(Klamath Fall)で、時間がない人はそこまで飛行機で、後は車で向かう方法もある。しかしベンドまで飛んで、そこから前回紹介したカスケード・レイクス・ハイウェイを通ってクレーター・レイクに至るというコースもおすすめ。クレーター・レイクは、7,700年前にマザマ山が大噴火してできたカルデラ湖で、周囲はリム・ドライブとなっている。この道は6月中旬~10月中旬の間は全線開通しているが、雪の状態により閉鎖されることもあるので、シーズンの初めか終わりに出掛ける人は、事前のチェックを怠りなく。1周約30mileの道沿いに外輪山、湖の展望台がある。

対向二車線の快適な舗装道路には、ほかの国立公園の眺望絶好の場所と同じようにガードレールがなく、抜群の景観だ。ゆっくりと景色を楽しみつつ、気をつけて走ろう。

公園の中心施設(ビジターセンター、ロッジなど)は湖南岸のリム・ビレッジ周辺と、その直下に集まっている。どの方角からでも湖を眺められるのだが、神秘の湖を初めて訪れる人には「それにふさわしい出会いの場が大切」と隊長は考える。それは、公園のNorth Entranceからリム・ドライブに入るNorth Junctionで、ここの駐車場に車を止めて外輪山の斜面を少し登り、湖との初対面を果たそう。湖を見に自分の足で登ること、最小限の人工物しかないことが「出会い」を盛り上げてくれる。

ボート・ツアーのすすめ

日中、湖の周囲のいろいろな地点から異なる眺望を楽しめるが、まるでドレスの色を変えるようにクレーター・レイクは表情を変えるので、昼間の観光だけではあまりにもったいない。夕方、夜(特に月夜)、早朝とそれぞれの表情の“あお”を見ることができる。 そして、湖面へも下りてみよう。標高1,883mにある湖面へのアプローチは、北岸のクリートウッド・トレイル(Cleetwood Trail)の利用のみ。標高差210m、片道1.6kmの道のりだが、急斜面となっているクレーターの内壁をジグザグに上り下りすることになるので、ハイキング・シューズを履くなど、足回りはしっかりして歩こう。下りきった地点に船着き場があり、湖を巡るツアー・ボートが発着する。国立公園のインタープリター達が乗り込んで解説してくれるこのボート・ツアー(*)は、クレーター・レイクの核心部を巡る、優れた、そして存分に楽しめるプログラムだ。

ボートは湖の中にあるウィザード島(Wizard Island)へ接岸する。これは湖の中に浮かぶ島で、この島自体も火山であるため、山頂部にはミニ・クレーターがある。ここで下船して、標高2,116mの山頂までは233mを登るちょっとしたハイキングだ。登って下るだけなら1時間もあればいいが、あの神秘の“あお”で俗界からきっぱりと切り離された山の風景とその雰囲気に、誰もがゆっくりと浸りたいと思うはずだ。青い宇宙空間の中にポッカリ浮かんだ極小惑星でミニ登山をしているような気分にさせるのは、きっと世界中でここしかないだろうから。さらに、島に渡れるのは夏場の短い間しかない。それに晴天の続く期間でもある。ランチやスナック、飲み物を持って午前中に島へ渡り、ゆっくりと過ごしたい。子供から大人まで生涯の思い出になる景色だ。最低2時間、できれば3、4時間は島の滞在に充てるため、なるべく午前中のボート・ツアーに参加しよう。帰りの最終船は、5:00 p.m.に島を離れる。この船とトレイル・ウォークを組み合わせたウィザード島探訪がこの国立公園の一番のエッセンスでありハイライト。ちなみに湖では泳げるが、水は手を切るような冷たさだ。

湖を囲むリムに戻ったら、リムの南東約5mileのところにあるピナクルズへも立ち寄ってみよう。ここでも、人智の及ばぬ自然の造形に出合えるだろう。

*ボート・ツアー
この夏は7月上旬~9月中旬に実施の予定。ただし、新船を造船中のため、開始日・スケジュール・料金は未定。7月に入ってから問い合わせをすること(6/11現在)。


▲ボート・ツアーではガイドによる説明が聞ける


周辺のキャンプ場、見どころ

公園内には2カ所のキャンプ場がある。リム・ビレッジの南のマザマ・キャンプ場(Mazama Camp Ground。約200サイト)とピナクルズへ向かう途中のロスト・クリーク(Lost Creek。16サイト)、さらに公園の北10mileにあるダイアモンド・キャンプ場(Diamond Camp Ground。238サイト)は湖に面した、規模の大きい快適なキャンプ場だ。

問い合わせ先:クレーター・レイク国立公園ビジター・センター(1541-534-3000)

Information

●出掛ける前にチェックしたいウェブサイト

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。