2013年11月号掲載 | 文・写真/小杉晶子
幻想的な姿をした白フクロウ。
冬になるとアラスカやカナダ北部から南下し、
カナダ南部やオリンピック半島に越冬します。
この冬、簡単には見つけられないその白い姿を追って、カナダへの旅に出てみませんか
▲反対側の沿岸にも白フクロウ。なぜかこちらは人気なし
突然の白フクロウ情報
夫の友人、ジャックから「おい!今、白フクロウがバンクーバーでウヨウヨ見られるぞ!」と週末の早朝から電話がありました。ジャックは、50代半ば、バードウォッチングが好きで、時折仕事の休みを取って1人でアルゼンチンやガラパゴスなどへ旅する野性味あふれるアメリカ人です。白フクロウはシアトル近辺ではなかなか見られない珍しいフクロウで、冬にカナダからオリンピック半島に越冬してくるようです。
「今年は当たり年らしいぞ!」という、どうも怪しい情報をジャックから得たので「まぁ、1羽でも見られたらもうけもん」と自分を納得させながら、久しぶりに車をカナダへと走らせました。
以前にも、ジャックが「穴掘りフクロウ(砂漠に穴を掘って住む小さいフクロウ)を見た!巣穴も見た!xxストリートの信号の横!」と自信満々に言ってきたので、私たち夫婦はキャンプ道具を車に積んでワシントン東部のモーゼズレイク辺りまで行ったことがありました。ところが、穴掘りフクロウどころか鳥1羽も見つけられませんでした。「嘘つきジャック」と叫びながらキャンプをしたことは今でも忘れられません。
バンダリーベイへ
カナダ国境を渡り、ハイウェイ99号線に沿って西へ進むと、大きなデルタ地帯が目の前に広がります。ジャックが「ウヨウヨ見た」と言うバンダリーベイ自然保護区域(Boundary Bay) はその中です。舗装されていない道端に車を停めて堤防に沿って歩きます。土砂の堆積したデルタ地帯なので堤防から沿岸までは木一本もないジュクジュクの広い湿地が広がっており、猛禽類がいかにもエサを探しやすいような環境です。
ほわほわの白フクロウ
堤防沿いを歩いて行くと、既に大きな望遠鏡やカメラを担いだ人が何やら群がっていました。「もしや!あれ?でも、こんなに簡単に見つけられていいの?」という一抹の不安もありましたが、勇気を持って「何が見られるの?」と聞いてみると、「あぁ、あそこにね、白フクロウだよ、覗いてごらん」とおっちゃん。言われた通りにおっちゃんのでっかい望遠鏡を覗くと、あらら…、白フクロウ。能面のような顔がジッとこちらを睨んでいます。
もうちょっと、探すのに苦労の過程が欲しかったかな。いろいろ探しながら、ついに見つけたーというような序章が欲しかった気分で、少し感動が薄れる感じがしました。まして、君、白フクロウくん、そこ工場の駐車場だしな。
みんなが群がって見ていた白フクロウは、堤防に隣接する小さな工場の駐車場の路肩にぼぉっと座っていました。フクロウはだいたいが夜行性なので、日中は、ぼぉっと寝ていることが多いのですが、この白フクロウ、なんでまたこんな駐車場で寝ているのか…。まぁ、日曜日だしね。工場、休みだしね。私の小さい望遠鏡からでは、あんた、捨てられたビニールにしか見えないよ。
でも、真っ白なほわほわの毛で包まれ、全てのことを知っていそうなあの神秘的な顔には、やはり心がどきどきしました。わたしは、そのなんとも言えない顔を見るために、でっかい望遠鏡を持ったおっちゃんのまわりをウロウロして、何度か意味のない微笑みを作ってこの白フクロウを見せてもらいました。
この日はお天気がよく、カナダ国境を越えた辺りから、街路樹に鈴なりに止まっている白頭ワシや、ほかのバードウォッチャーには見向きもされないコミミズクなども、大きな湿地をふわふわと飛んで狩りをしていました。地元のバードウォッチャーによると、数週間前は本当にウヨウヨと白フクロウがこの辺りにいたそうで、あながちジャックの情報もウソではなかったようです。
レイフェル野鳥保護区
しかしこの白フクロウ、派手な狩りなどのアクションもなく、ずっと工場の駐車場の隅でぼぉっとしているだけ。このままずっとここで時間を潰すのもなんだと思い、この近くに餌付けされた鳥のいる野鳥保護区があるというので、足を伸ばしてみることにしました。
バンダリーベイから約20分のところにあるレイフェル野鳥保護区(Reifel Bird Sanctuary)は、小さい子どもを連れた家族でいっぱいでした。ビジターセンターでエサを買い、まったく逃げないカモたちにエサを与えられるので、子どもたちには大人気の場所です。なんとここでは、普段警戒心の強いアメリカオシドリやカナダヅルも間近で見られるので、野鳥の写真を撮る人にとっては、素晴らしい撮影場所でもあります。
餌付けされ人工的ではありますが、寒い冬などでも子どもを外に連れ出すのにはいいのではないでしょうか。ちょうどお昼に差し掛かかったので、フィッシュ&チップスで有名な近くのお店でたらふく食べてから、シアトルへと家路に就きました。
▲真っ白いまんまるお顔が魅力的。日本ではまず見られないフクロウの一種
▲白頭ワシ(幼鳥)もこの日はまったく人気なし
▲白フクロウのお願い。長い越冬で羽を休めているので近くに寄りすぎないでね
▲ほとんど動かずにいる白フクロウ
▲多くのバードウォッチャーが望遠レンズで狙っています
▲海岸まで広がるデルタ地帯。多くの猛禽類が現れる
■バンダリーベイ
毎年多くの渡り鳥が見られる。中でもまれな白フクロウが見られる貴重な場所でもあります
www.metrovancouver.org/services/parks_lscr/regionalparks/Pages/BoundaryBay.aspx
■ナショナルジオグラフィック
自然写真雑誌による白フクロウの紹介。バードウォチャーの間でも白フクロウは憧れの鳥
http://animals.nationalgeographic.com/animals/birds/snowy-owl
■オードボン オリンピック半島支部
アメリカの野鳥の会「オードボン」。冬、まれにオリンピック半島にも白フクロウがやってきます
www.olympicpeninsulaaudubon.org
■レイフェル野鳥保護区
ここでも白フクロウが見られます
www.reifelbirdsanctuary.com
(2013年11月)
Akiko Kosugi Phillips サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジで園芸学の学位を取得。シアトル日本庭園でのインターンシップ、エドモンズ市の公園課での職務を経て、現在は、小杉剪定サービスとして個人の庭やSeaTac Botanical Gardenなどの日本庭園の手入れを行うビジネス・オーナー。年に2回ほど当ページの執筆を務める。 |
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