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ワシントン湖を巡って(後編)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2014年10月号掲載 / 文・写真/小杉礼一郎

この夏、ワシントン湖に架かる新しい浮橋の
建設現場を訪れる機会があった
この大きな氷河湖に時代の英知を注ぐ
人間の営為をリポートする

ワシントン湖 I-520 浮き橋工事
▲アーゴシークルーズの船上から東(メダイナ)側を撮った一枚。新旧の橋の高さ、道幅の広さがよく分かる

新しい浮橋について

「ああ今は21世紀だ!」訪れる人々にそう実感させるMicrosoft社のキャンパスを出て州道520号線に乗る。が、ものの5分もせぬうちに慢性化した午後の渋滞に入り込む。I-405に合流しても渋滞。セーフコ球場で人気ゲームの日などはシアトルまで止まっては進みで2時間かかる。
 
「これがハイウェイ?リアルはこれ?」。21世紀のソフトとハードのギャップをノロノロと進むリアリティーよ。「ああ西日がかったるい」。
 
そんな現実を改善すべく、ワシントン州交通局は動いている。I-5からレドモンドを結ぶ州道520号線の改修プロジェクトがそれであり、その総工費40億ドルの3分の2が新しい浮橋の建設に充てられている。
 
現行の浮橋、Evergreen Point Bridgeの耐用期限が迫り、橋脚の破損など目に見えて老朽化が進んでいることが架け替えの理由だが、もちろん交通状況の改善を図ることも目指している。現在のシアトル圏では新ハイウェイ99の地下トンネル工事と並ぶ巨大プロジェクトである。

新橋では現行の4車線を6車線にして歩道を併設し、かつ将来的にはライトレールも通せる構造設計となっている。荒天時の波かぶりを免れるよう湖面からの高さも2m上がる。主な諸元は表と図を見て頂きたい。より具体的で最新の情報はワシントン州交通局のサイトにとても詳しくアップされている。

工事はワシントン湖の現場だけで行われているわけでない。道路を支えるポントゥーン(Pontoon)はアバディーンとタコマの2カ所で分担して製造されている。出来上がったポントゥーンはそれぞれ海路をタグボートで押され、チッテンデン水門を通り、ユニオン湖を通り、ワシントン湖へ運ばれてくる。湖の北端のケンモアでは湖底に設置するケーブルアンカーや付属のコンクリート構造物を作っている。

これらの工程が並行して、というより先がけて進められ、橋の設置場所である現在の浮橋の北側の湖面に各部位が集められて最終組み立てが行われている。担当者によると2014年8月時で工事の進捗率は60%、予定通りということである。

産卵を終えたソックアイサーモン

ポントゥーンのこと

浮橋は、ポントゥーン抜きには語れない。日本語を充てると「浮き」「艀」「いかだ」となるが、ポントゥーンはそのままポントゥーンとして受け入れるほうがいい。
 
11年の東日本大震災の津波が、青森県の三沢港の浮きドックをはるばるオレゴンコーストまで漂着させた。鉄筋コンクリートの巨大な箱、これが「ポントゥーン」である。新しい浮き橋のポントゥーンも構造としてはまったく同じである。船と同じように、万一の浸水を考慮して、内部は格子状の升に区切られている。
 
道路が乗るメインの縦ポントゥーンは、1個の大きさが高さ9m、幅23m、長さ110m、重さ1万1千t。このサイズ、実はチッテンデン水門を通せるギリギリの大きさで設計された。さらに安定性と浮力のためにサブポントゥーンが両サイドに直径10センチのボルト多数で緊結される。
 
これが1列に21個並べられ、次に、湖底に直径8㎝のアンカーケーブル50本で固定される。最後に道路部分がこの躯体上に置かれる。
 
この秋にはアバディーンで最後の縦ポントゥーン群が出来上がり、回航されチッテンデン水門を通る。間違いなくワシントン湖の歴史の一ページとなるその光景をぜひ見たいものだ。

 

メインポントゥーンにサイドのサブポントゥーンが接合された状態
▲メインポントゥーンにサイドのサブポントゥーンが接合された状態
タコマにある浮きドック専門工場
▲タコマにある浮きドック専門工場にて。小さめのポントゥーンを作っているところ。何百本もの太い鉄筋が網籠のように入っている
ポントゥーン内部
▲ポントゥーン内部。幾つもの細かい升に区切られ、万一浸水があってもそれぞれの升だけで浸水が収まるようになっている
新しい橋の陸地との取り付け部分
▲新しい橋の陸地との取り付け部分(メダイナ側)。右側に見える現在の橋は、新しい橋の開通後に撤去される


ワシントン湖を渡るI-90の浮橋
▲ 左の図:新しい州道520号線浮橋   右の図:現行の州道520号線浮橋
ワシントン湖を渡るI-90の浮橋
▲ 写真手前に現行の橋が通り、その向こうに新橋の建造が進められている。新旧の路面の高さの違いがよく分かる
新しい橋の浮橋のポントゥーン部分。
▲ 新しい橋の浮橋のポントゥーン部分。陸地との取り付け部分から中央部の水平部分までの勾配区間はこのような高い橋脚でポントゥーンの上に立てられている

Information

■州道520号線新浮橋プロジェクト
ワシントン州交通局のサイト。工事の正式名称は、SR 520 Bridge Replacement and HOV Program
www.wsdot.wa.gov/projects/SR520Bridge

■ポントゥーン作りの進行状況
施工現場で浮橋を作る重要な前工程。造船所のDry Docと同様のドックで入念に作られ、タグボートで橋の建設現場の水域へ回航される。作業の進行状況は逐一ウェブ上で公開されている
www.wsdot.wa.gov/projects/SR520Bridge/BridgeAndLandings/520bridgeassembly.htm

■ワシントン公園植物園
州道520の浮橋のシアトル側に広がる公園。園内には浮橋と並行して歩くことのできるトレイル、Arboretum Waterfront Trailがある
http://depts.washington.edu/uwbg/gardens/wpa.shtml

(2014年10月)

Reiichiro Kosugi
54年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、77年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て88年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。国立公園や自然公園のエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱する。