2003年09月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
皆さんはこの夏、ノースウエストの海や山に行く機会は多かったでしょうか?アメリカでは、学校やコミュニティーのいろいろな場面でボランティア・ワークに接しますが、じつは自然の素晴らしさもまた、多くのボランティアに支えられているのです。
オレゴンの進取性と『SOLV』
“ウォーターフロントは万人のもの”という考えのもと、オレゴン州は他州に先駆けて、太平洋岸の南北約500キロに及ぶ海岸線の私有を制限した。現在、オレゴン・コーストには100カ所以上の国・州・郡・民間が運営する公園があり、誰でも浜辺にアクセスできる。
一方、カリフォルニア州では、風光明媚な海岸線はほとんどがプライベート・ビーチとなっている。そのためか、カリフォルニアからオレゴン・コーストへと北上してくるキャンピング・カー族も多い。
以前このコラムで、オレゴン・コーストでのホエール・ウォッチングについて紹介した(キャラバン#6。『ゆうマガ』2002年12月号)。この『ホエール・ウォッチング・プログラム』では、各観察地点での解説と鯨の数のカウントをする人達の多くがボランティアであり、実施は3月と12月の年2回、である。そして、オレゴン・コースト全域で行われる海岸清掃のイベント『ビーチ・クリーンアップ』もまた、海岸に人が出始める前の夏前とシーズン後の秋口の年2回、行われている。
この活動の主体は『Stop Oregon Litter & Vandalism(SOLV)』というNPO(民間非営利組織)。1969年に当時のオレゴン州知事などによって設立され、運営は州政府機関、民間企業、個人ボランティアによる。海岸のみならず、街の通りや河川、地域の公園などの地道なクリーンアップを行っている団体だ。
この秋のビーチ・クリーンアップ
この秋は10月11日(土)の10:00 a.m.~1:00 p.m.の3時間、オレゴン・コースト全域で行われる。プログラムの参加者(ボランティア)はリーダーからそれぞれ大きめのプラスチック製ゴミ袋をもらい、海辺を歩き回ってゴミを拾い、集合場所に持ち帰って、大きなコンテナに集めて解散となる。
浜辺をきれいにするこの活動は、小さな子供も気軽に参加できる、きわめてわかりやすいボランティア・ワークだ。事前の登録も必要なく、時間の途中でやめても構わないオープンなプログラムだが、それでも、あるいはそれゆえに、毎年数千人のボランティアの手で総計20トン余りのゴミが集められている。特筆すべきは、1984年にオレゴン・コーストから始まった全州規模のビーチ・クリーンアップの動きが20年近くも続いていること。さらにその後全米に、そして世界中へと広がって、2001年には77万5,000人のボランティアが参加するまでになった。
ボランティア・ワークの効用
私の経験で言うと、ボランティア・ワークは“自分を自然により近づける”。私の初めてのボランティア・ワークは、近所のコロンビア川沿いのハイキング・トレイル作りだった。『フォレスト・サービス』の職員と週末の2日間、汗びっしょりになって働いた。
時と場所を移して自分がほかの土地を訪れる時は、やはりそこのトレイルや施設を支えている人達のことを思う。地元の人々が自分達の住む土地の自然と公園を守り、そしてほかの地方の自然も訪ねる。もはや国有地だとか、どこの管轄かは考えず、その時その場に自分がいることや目前の野山を楽しむこと以外は、顛末(些細なこと)にすぎないと思えてくる。“どこも同じように自分達の自然”なのだと。“オレゴン・コーストの海岸が万人のもの”と実際に感じられるのは、このあたりにあるようだ。
公園や国有林の管理事務所など、いろいろな機関がさまざまなボランティアを募っている。クリーンアップに始まり、トレイル作り、インタープリター……。自分が住む所の身近な自然でいい。自然と触れ合うボランティアの照会先をまとめてみたので、我と思わん方はどうぞ。あなた自身と自然への御利益の程は、隊長が請け負います。
▲トレイル作りのひとこま
Information
■『SOLV』と2003年秋のビーチ・クリーンアップ
集合場所はオレゴン・コースト南北500キロの14のブロック中に42カ所あり、どれに出向いてもいい。詳しくは下記ウェブサイトか、オレゴン州内で発行されている新聞で確認のこと。
参加者は各自、手袋・水・スナックなどのほか、ウインドブレーカーを持参すると便利。霧が出るとかなり寒い。また、両手を使えるように、荷物はバックパックに入れる。足回りはスニーカーで十分。
ウェブサイト:www.solv.org/volBeachFall.shtml
TEL:503-844-9571
■『ホエール・ウォッチング』のボランティア
ホエール・ウォッチングのサポートをしてくれる『Whale Watching Spoken Here』は、ボランティアが支えるプログラムのひとつ。『ゆうマガ』2002年12月号キャラバン#6を参照。
ウェブサイト:www.whalespoken.org
■国立公園でのボランティア
『The National Park Service Volunteers-In-Parks Program(VIP)』ウェブサイト:www.nps.gov/volunteer/
■『フォレスト・サービス』(ノースウエスト地域)でのボランティア
『フォレスト・サービス』が管轄する19の国有林内のトレイル、キャンプ場の整備など。
ウェブサイト:www.fs.fed.us/r6/
■その他のボランティア・プログラム
『Wilderness Volunteers』は上述の国立公園、『フォレスト・サービス』などの公有地で、ボランティア活動をしながらキャンプや旅行をするNPOのプログラム。
ウェブサイト:www.WildernessVolunteers.org
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
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