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北西部の動物達/陸上編

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2004年10月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

米北西部、私達の身の回りには動物がたくさんいる。彼らと出会うチャンスは日本に比べて格段に多い。
例えばリス。少し木々の緑があるところならチョロチョロと動き回っている。
日本から来た人にはちょっと新鮮な驚きだ。自然の中で動物達との出会いを楽しんでみよう。

身近な動物達

北西部各地の森や山、海や湖を訪ね歩く時の楽しみのひとつは動物達と出会うこと。それはクジラやラッコのこともあるし、フクロウやワシのこともある。

ある秋の朝、レッドウッドのキャンプ場で食事をしていると、エルク(ヘラ鹿)の一家がやって来て、テントのそばのブッシュをムシャムシャと食べ出した。

「おや、アンタ達も朝ご飯かい?」。そんな会話ができそうな動物達との出会いの機会が、キャラバン中にしばしば訪れる。

身近なところ、あなたの家の周りではどんな動物達を見かけるだろうか? モグラ、リス、アライグマ、オポッサム、コヨーテ、野ウサギ、ミュール鹿……。

これらの動物達は民家や道路沿いによく出没する。善きにつけ悪しきにつけ、すみかや食物がある所を人間の生活圏と共にしている生き物達だ。少し南下すると頻繁にお目に(お鼻に?)かかるスカンクもそういった動物である。

チュガッチ山脈
▲白いお尻が特徴のミュール鹿。アメリカ西部の各地の森に棲息し、道路や人里によく姿を現す
キーナイ・フィヨルド国立公園
▲オレゴンにある我が家の猫のねぐらに入り込んでしまったオポッサム。アライグマの仲間ながら顔はブタ、シッポはネズミのようなので、我が家では「ブタネズミ」と呼んでいる。もとの棲息地域は東部だが繁殖力が強く、いまや全米各地に分布。よく車に轢かれている動物でもある(人間から見るとちょっと可哀想)


どこでどんな動物が見られるか

人里を離れると、さまざまな動物達と出会う機会がさらに増える。各地にある野生生物保護区(Wildlife Refuge)、州立公園、国立公園、国有林(National Forest)などへ行ってみよう。そこには、その地域に棲息する野生動植物の解説パネルやトレイル、展望台が設置されている。レンジャー・プログラムやツアー・バスが運行される所もある。

北西部で見られる陸上の哺乳動物のうち、主な種類を挙げてみよう。小動物から順に、『ピカチュー』のモデルではないかと思われるナキウサギ(Pika)、リスに似たプレーリードッグ、 地リス、木リス……とだんだん木に登るのが得意になって、ムササビはついに空を飛ぶ。

イタチの仲間ではミンク、マスクラット(北米産端ネズミ亜科マスクラット族のげっし類)、テン。水辺ではカワウソやビーバーなど。いずれも毛皮が珍重されたので乱獲されてきた。

モコモコしたモルモットやヤマアラシ、野ウサギ、キツネ、アライグマ。シカの仲間ではミュール鹿、エルク、季節で移動するカリブー、大きくて立派な角を持つムース。そしてマウンテン・ゴート、ドール・シープ。

クマの仲間ではブラック・ベアとグリズリー・ベアなどがいる。

動物の見つけ方、接し方

動物達がいそうな時間と場所を知る。夜行性の動物を除き、多くの動物にとって涼しい朝夕が食事の時だ。特に林の縁、開けた草むら、水辺などに出てきて草木の葉を食べたり、水を飲みに来たりする。日中の陽射しの強い時は、森林の木陰に潜んでいることが多い。
まずは肉眼で景色全体をひろーく見てみる。その中で動くもの、景色の中で色の違う点などを探してみよう。何かを見つけたら、双眼鏡やスコープなどを使ってよく観察する。

動物を見つけると興奮しがちだが、大きな声や音を立てずに静かにする。動物が警戒する距離には近付かないように。大事なことは食べ物を決して与えないこと。自然の中では、我々人間が“侵入者”ということを忘れてはいけない。

これらの場所では、動物達は自然の状態で棲息しているのであって、決して見物の対象として飼われているのでも、餌付けされているのでもない。中には国立公園の入園料やツアー料金を払ったら、必ず動物がすぐ近くで見られると勘違いしている人もいる。そういう人には動物園がお勧めである。アメリカの動物園はローカルの生物をなるべく自然の環境に近い状態で飼育しているし、解説(Interpretation)もわかり易い。

後述するが、隊長もレアな動物を見に時々動物園に足を運ぶことがある。動物園のほかにもセントラル・オレゴンの『ハイ・デザート・ミュージアム』やワイオミング州のジャクソン・ホールにある『国立エルク保護区』など、そのエリアに棲む動物を間近に見られる施設が各地にある。

野生の王国、イエローストーンとデナリ

大型の野生動物を間近に見たい人には、イエローストーンとデナリ、この2つの国立公園(NP)を訪れることをお勧めする。イエローストーンNPにはバッファロー、ムース、エルク、プロングホーンなど。デナリNPではさらにカリブー、オオカミ、ドール・シープ、グリズリー・ベアなどがつぶさに観察できる。

イエローストーンNPは公園の歴史が長く、今日のように人間と野生生物の共存関係が確立されるまで、乱獲を始めとするさまざまな試行錯誤があった。ある意味ここは一部「作られた自然」でもある。デナリNPも公園発足以前、乱獲の危機があったが、基本的には先史来の「残された自然」だ。共に北アメリカ大陸を代表する超世界遺産級の景観が広がる野生動物達の世界である。

レアな動物達

各地の自然をキャラバンしていても、なかなかおいそれとお目に掛かれない動物もいる。例えば、ネコ科のボブ・キャットやリンクス、クーガー。これらは夜行性なので日中に出会うのは難しいし、イースタン・オレゴンの山奥にいるという野生馬の群れも珍しい。
北極海に棲むシロクマ、穴熊の仲間ながらオオカミやグリズリー・ベアより強いと言われているクズリ(Wolverine) 、氷河期以前の動物ジャコウウシなどはちょっとレアな動物と呼んでいいだろう。

一方、ノースウエストのマスコット的存在のビーバーもとても警戒心が強い動物で、日中は人前に出てこない。こういった動物達はアニマル・トラック(※1)を探して、言わば状況証拠で棲息を確認するのが一番だ。

今に生きるチーフ・シアトルの格言

「動物達なくして人間とは何か。もし、すべての動物達が死に絶えたとしたら、人間は魂の淋しさに耐え切れずに死んでしまうだろう。動物達に何かが起これば、それはすぐに人間の身の上にも起こる。すべての物事は繋がっているのだ」

有名なネイティブ・アメリカンの酋長シアトルの格言は時を越え、アメリカを先頭とする現代の大量消費文化を鋭くえぐっている。何と真実を言い当てている言葉であろうか。この十年来顕在化してきた、地球規模でメス化する自然の危機(※2)を正確に予言している。
一心に草を食むエルクやカリブーの群れ、ベリーを取るグリズリー・ベアの親子を見ていると、地球上で最も豊かな自然環境と、環境破壊の最前線が共にあるここアメリカ北西部の皮肉を思わずにはいられない。

デナリ国立公園
▲モンタナ州のグレイシャー国立公園で見たグリズリー・ベア。ヒグマの一種で和名は灰色熊。車を止めて写真を撮っていると「クマごときで止まるな」とばかりにモンタナ・ナンバーの車が追い越していった
チュガッチ山脈
▲オリンピック国立公園で見たエルク。森林の中で群れで棲息し、朝夕には林縁の谷や草むらに出てきて草や木の葉を食む


※1アニマル・トラック/動物の食痕、踏み跡、糞、引掻き傷、毛などの棲息の状況証拠をいう。例えばビーバーの作るダム、巣、巣穴、木をかじった跡など。
※2メス化する自然の危機/生物の内分泌攪乱(環境)ホルモンがひき起こす、人類を含んだ生物界全体の生殖異常。この半世紀余りの工業化学物質の拡散が原因と言われている。詳しくは『メス化する自然──環境ホルモン汚染の恐怖 デボラ・キャドバリー著/古草秀子訳(集英社)』を参照。

Information

■ハイ・デザート・ミュージアム
屋内と屋外で展開する博物館で、内陸部の平原、砂漠の動植物、人間と自然との係わりなどをわかりやすく説明した展示物が揃っている。館内には開拓時代の農家や農場などをそのまま実際の作物と共に保存・再現してある。屋外では鷹、フクロウ、鷲、カワウソなどを間近で見ることができる。
The High Desert Museum
59800 S. Hwy. 97, Bend, OR 541-382-4754
ウェブサイト:www.highdesertmuseum.org

■国立エルク保護区
ワイオミング州にあり、グランドティトン国立公園の南側に位置する。夏にはさまざまな野鳥が、冬には7,000~1万2,000頭にも及ぶ自然のエルクが集まり、つぶさに観察することができる。
National Elk Refuge
The Jackson Hole & Greater Yellowstone Visitor Center / 532 N. Cache St., Jackson, WY
307-733-3616
ウェブサイト:www.fws.gov/refuge/national_elk_refuge/

■アラスカ・パイプライン Alaska Pipeline  
北極海の海底から採掘された原油は、延長1,280キロに及ぶパイプラインを通ってアラスカ南岸の積出港バルディーズまで挿送される。バルディーズからフェアバンクスを経てプルドーベイまで、ステイト・ハイウェイ4号線とダルトン・ハイウェイが並行して走っているのでパイプラインは随所で見ることができるが、圧巻は何といってもブルックス山脈の北、北極海に面したノース・スロープ(North Slope)の広大なツンドラの平原部。地平線の向こうから現れて、反対側の地平線に霞んで延びている銀色のパイプを見た人は、自然と人間がなした技に思いを馳せる。

■イエローストーン国立公園
これまで何度も紹介している、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州にまたがる自然探訪デスティネーション。人間が住む世界とは別天地の野生の王国。
Yellowstone National Park
ウェブサイト:www.nps.gov/yell

■デナリ国立公園 Denali National Park
アラスカにあり、四国ほどの大きさを誇る広大な国立公園。観光客が減って本来の静けさが戻ってくる秋は、特に隊長のオススメ。
Denali National Park
ウェブサイト:www.nps.gov/dena

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。ウェブサイト:http://c2c-1.rocketbeach.com/ ̄photocaravan