2004年11月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
「Evergreen State」と呼ばれ、いつでも針葉樹の緑豊かな米北西部だが、
豊かな自然は各地を訪れる人々をさまざまな彩りで迎えてくれる。
赤、青、黄、緑、黒、白……。ポリクローム(多彩色)の米北西部を探訪してみよう。
▲セントラル・オレゴンのペインテッド・ヒルズ。赤色は酸化鉄を含む岩石の色で、大気の湿度によって変化する
▼ノーススロープの大地の紅葉。アラスカのダルトン・ハイウェイ、ブルックス山脈の北面にて。さまざまなベリー類やコケモモが一面ワイン色になる
▲アイダホ州とオレゴン州の境、キャンプ場の裏山にある小さな湖
赤と黄色
自然景観の「赤」で思い浮かぶのは、やはり紅葉だろうか。日本ではモミジやウルシが艶やかな赤に変わるが、北米のカエデ類は黄色や橙色に変わるものが多い。米中西部やカナダ東部ではオーク、メープルなど広葉樹の山林が多く、ノースカロライナ州の西側、テネシー州との境に連なるアパラチアン山脈(Appalachian Mountains)ではこの季節、錦絵のように美しい紅葉を見ることができる。
ここ北西部各地の山野に彩りを添えるのは、もっぱら「黄葉」である。カスケード山脈を東に越えるとアスペン、コットンウッド、白樺などの黄金色が常緑樹とコントラストを成している。
一方、高地や北部のツンドラ地帯ではコケモモの赤で大地そのものが紅葉しているように見える。北西部の山野のあちこちに見られるヤナギラン(Fireweed)の葉は、北に行くにつれて深紅色に変わる。
▲ワシントンのオリンピック国立公園、ホー・レイン・フォレストにて
▲どこまでも青い様から「ラピスラズリ(青金石)」に例えられるオレゴンのクレーター・レイク国立公園
▲カナダのアルバータ州にあるジャスパー国立公園のアスペン(Aspen)。日本名はハコヤナギ
青と緑色
花の色を別にすれば、自然界の青色は日の光と水に関係してくる。氷河の色もクレーター・レイクの水の色も原理は同じで、太陽光線が含む各色の波長の中で青色だけが吸収されずに透過、反射して、我々の目に映るのだ。
衛星写真を見ると米北西部は緑で覆われている。その陰影で私たちの眼を癒してくれている「緑」は皆が知っている葉緑素の色だ。エメラルド・グリーンの湖も同様で、こちらは植物性プランクトンのもの。植物はこれで光合成を行い、副産物として大気中に酸素を放出してくれている。
そして、もし地上に植物がなかったらオーロラの緑白色はなかった。極北の天空に揺らめくオーロラの緑白色の光は、遥か上空の酸素原子が発光しているからだ。
▲青色に見える氷河。写真はアラスカ、バルディーズ港近くのワージントン氷河の舌端
▲アラスカのフェアバンクス郊外で今年の1月に撮影したオーロラ
隊長のモノローグ
「生命」や「時間」などのように、「色」のこともまた、なぜかと考えていくとわからなくなる。空の色、水の色、山の色、木々の色……。私たちの周りを見回してみても自然の色は千変万化、六次元の産物ではないかと思う。つまり立体の三次元、時間(朝夕や季節)、光線(天候)、そして見る者の心のありようで変わってくるのだ。今見ている景色──例えば夜明けや紅葉──は見ているその瞬間以外、二度と同じものはないような気がする。色即是空(※)の真理に深く頷くばかりだ。
ただ、息をのむような美しい景色に誰もが見入っていることに、同じ人の心のつながりを感じる。そんな時、例えば夕焼けの空を行くカナダ雁たちにもふと尋ねてみたい気がしないだろうか。
「お前たちにはこの夕焼けがどんな色に映っているんだ? やっぱり美しいかい?」と。
※色即是空(しきそくぜくう)……この世にあるすべての色(しき)は因と縁によって存在しているだけで、そこには固定的実体がなく空(くう)であるという、仏教の基本的な教義。
▲セントラル・オレゴンのニューベリー噴火口にある黒曜石の溶岩台地。1,300年前、噴火口より流れ出した溶岩流だ
▲アラスカのデナリ国立公園。今年の9月17日に撮影したものだが、すでにマッキンリー山は冬景色
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。ウェブサイト:http://c2c-1.rocketbeach.com/ ̄photocaravan |
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