2005年10月号掲載 | 文・写真/小杉晶子
自然豊かなノースウエストでは、遠出しなくても手の届く所で素晴らしい自然の営みに出合えます。近くの公園や自宅のバックヤードで、今まで目に入らなかった生き物達に目を向けてみませんか。今回は隊長の代役でバードウォッチャーの私とノースウエストの自然探訪に出掛けましょう。
都会には汚い色の鳥しかいない!?
バードウォッチング? 野鳥観測? 結構地味な趣味だとお思いになるでしょう。日本の友達からも「えっ?」と聞き返されます。私が鳥に興味を持ち始めたのは、まだ日本に住んでいた頃。京都の小さなアパートに暮らしていた時にふと目にした雑誌記事──街中でも野鳥がやって来る──からでした。
それまで忙しく生活していた私は、鳥と言えば、スズメか土鳩しかいないものと思っていました。結婚後少し自分の時間が持てるようになってから、バルコニーの小さな花壇にオレンジをひとつ、くしに刺して置いてみたところ、うれしいハプニングが。翌朝、チチチと何やら外が騒がしいので、そっとカーテン越しに覗いてみたら、とても鮮やかな緑の羽をまとったメジロがオレンジをつついていました。
「都会の鳥はスズメや土鳩のような色鮮やかではないものばかりだと思っていたのに(ごめんね)、きれいな鳥もこんな都会にやって来るんだ」。小さな体を一生懸命使ってオレンジを食べている姿は何ともいとおしくて、“小鳥とたわむれる少女漫画の世界”のように、心にぱぁーっと花が咲いたような気分になりました。それが好奇心へと変化し、また変わり物好きの性格も高じて「もっと見たい! 知りたい!」と私のバードウォッチング歴が始まりました。
▲アメリカコガラは愛嬌がある鳥として知られる
とってもお手軽な趣味
ハイキングには主人とよく行っていたので、バードウォッチングはそれにプラスできる趣味になりました。ただ山道をえっちらおっちら目的に向かって歩くのではなく、鳥の声を聞きながら時々立ち止まって鳥を見たりしながら行くと、しんどい山道もさほど辛くなくなります。同じ鳥でありながら、くちばしの長いもの、足が長くほっそりして貴婦人みたいなもの、笑っているような顔のもの、怒っているみたいなもの、デザインがおしゃれなもの、そして、時には神様が人々のウケ狙いでデザインしたような(?)ものなど、姿形は非常にバラエティーに富んでいます。住む環境や食べ物によって自身を変化させ、一生懸命生きている鳥の姿はとてもかわいらしいものです。進化論で有名なダーウィンも、さまざまなフィンチという鳥のくちばしの形を調べて「動物は環境に応じた中で変化している」と言っていますが、その適応力やバラエティーには本当に驚かされます。
また、バードウォッチングは何と言ってもお金があまりかからない点がいい。軽量の望遠鏡と鳥の図鑑さえあれば、どこからでも始められます。家のバックヤード、近くの公園、池、海辺、湿地、川、森など、場所によって違った鳥の種類が見られます。お子さんを連れてどんな鳥が身近にいるか調べたり、絵を描いても楽しいはずです。
よく見られる野鳥
ノースウエストは都会でもまだ多くの緑が残っているので、野鳥もたくさんいます。プレイ・フィールドや学校のキャンパスの芝に必ず見られるのがコマドリ。そう「バットマンとロビン」のロビンはこの鳥の英語名が由来です。頭が黒く、おなかの辺りは茶系オレンジで、芝の上でミミズをよく探しています。松の木やダグラスファーの林をグループで行ったり来たりしている、かわいいアメリカコガラ(Black-capped Chickadee)は、鳥の中では「森のクラウン(ピエロ)」と呼ばれているだけあり、そのかわいらしい容姿と人懐っこさが特徴です。ひまわりの種を手の平に置いて待っていると、好奇心の強いものはちょこんと手の平に乗って、種を取っていきます。庭木に水をやっていると、シャワーを浴びるように、あっちに行ったりこっちに来たりしながら近寄って来ることも。
鳥の種類によって性格も違います。アメリカコガラのように人懐っこいものもいれば、ハシボソキツツキ(Northern Flicker)やキツツキ(Woodpecker)のように用心深いものも。ある日、庭の手入れをしながら鳥達をボケッと見ていた時のこと。マヒワ(Pine Siskin)という一見地味な鳥が、バード・フィーダーにやって来てえさを食べていました。この鳥は人をあまり怖がらず、すぐそばまで来てえさを食べる何とも根性の座った鳥で、人懐っこいのか鈍感なのか「それで野生?」というほどなのですが、あっと思った瞬間、近所の黒い猫がえさ台にいる1羽のマヒワに“ばくっ”と飛び付き走り去ったのです。「ありゃ、やられたねー」と思っている間に仲間は一瞬逃げましたが、すぐに何にもなかった様子でえさ場に戻ってきました。「かわいそう」より「何ともマヌケな鳥だな」が正直な感想。私の小さなバックヤードでは、サバンナさながらの弱肉強食の世界が毎日繰り広げられているのです。
▲草むらに姿を現したコマドリ
街、公園、森、山、川、そして海へ
アメリカでのバードウオッチングの面白さは、大型の鳥がよく見られること。やはりアメリカの国鳥である白頭ワシ(Bald Eagle)をいとも簡単に見られるのは、「日本野鳥の会」などの鳥ファンには、何ともうらやましい環境でしょう。私が住んでいた京都ではせいぜい見られるのはトンビぐらいでしたから。白頭ワシはだいたい毎年同じ巣で子育てするので、巣のありかを知っていれば春先、子育ても見られます。あと大型の鳥で有名なのはハヤブサ(Peregrine Falcon)。シアトル・ダウンタウンにあるワシントン・ミューチュアルの建物には毎年ハヤブサが子育てにやって来て、設置カメラで随時様子が見られるようになってます。街の開発で住む場所を奪われた野生動物達が、人間が作った環境を利用して生き延びようとしている姿がよくわかります。
森や公園の針葉樹によくいるのが、カケス (Steller’s Jay)。とさか状のかっこいい頭を持つ濃い青色の美しい鳥で、頭が非常にいいです。リスがピーナッツを庭に隠している様子をそばでじっと伺い、後からつつき出して、ちゃっかりいただいていくような鳥です。見掛けはきれいで格好いいのですが、鳴き声はイマイチでギィーギィー、ギャーギャーとうるさいため、地元の人にはあまり人気がありません。
この時期は鳥の世界でも季節の変わり目。夏鳥は南下し、冬鳥が北からシアトルに戻ってきます。今は実などの食べ物が森に豊富ですが、定住する鳥達でも、もう少し寒くなると山を下りて街中にえさを探しに来ることがあります。そのため、庭にバード・フィーダーを置くといろんな野鳥がやって来ます。また、10月ごろには海からサケが上がって来るため、それを狙って鳥達も川へ集まります。シアトルのバラード・ロックスでは、運が良ければサケを狙っているフクロウが見られるかも。小川では「待ってました」とばかりにヤマセミ(Belted Kingfisher)が待ち構えてダイビングする光景にも出合えます。
1月のスカジット・リバーには、遡上してくるチャムサーモンを狙って数多くの白頭ワシが寄って来ます。6年ほど前に行った時は、空を見上げるとカラスかと思われるほどのおびただしい数(恐らく30羽ほど)の白頭ワシの群れがぐるぐる旋回しているのを目にしました。1羽1羽があの大きいワシだと思うと、ちょっと怖かったです。冬も本番になると、今度は鴨などの仲間や海鳥が目に付くように。結構変わった姿や奇麗な色をしたものがいるので、見ていて飽きません。バードウォッチングはこうして季節に関係なく1年を通して楽しめます。
▲野鳥ファンなら一度は見てみたい白頭ワシ
かわいい鳥グッズも充実
もっと手軽にバードウォッチングを楽しみたい方は、自分の家やアパートにバード・フィーダーを置いてみてはいかがでしょうか。ホームセンターや園芸店などにおしゃれなものがたくさん売られているので、お庭のデコレーションにもぴったりです。クラフト専門店には、自分で色を塗ったりして作れるバード・ハウスも売られています。
春になると、アメリカコガラはほぼ90%、用意したバード・ハウスを使って子育てをしてくれます。かわいいひな鳥や巣立ちの瞬間も見られます。また、寒さが増し花がなくなるころには、ハミングバード・フィーダーを吊してみましょう。ノースウエストには2種類のハミングバードがいて、アカフトオハチドリ(Rufous Hummingbird)は越冬のためカリフォルニアやメキシコへ移動しますが、もう1種のアンナハチドリ(Anna’s Hummingbird)はノースウエストに留まります。フィーダーには、窓際に置けるタイプと窓にペタっと貼り付けるタイプがあるので、これからの季節、温かいコーヒーを飲みながら窓越しにかわいい鳥達の様子を眺めてみてはいかがでしょうか。
▲文中で挙げた種類以外にも、多数の鳥が見られる。巣箱の上に止まっているこの鳥はユキヒメドリ(Dark-Eyed Junco)
■Seattle Audubon Society / Audubon Society of Portland
アメリカ野鳥の会に当たる団体のシアトル支部とポートランド支部。全米各地域にオフィスがあり、いろいろな鳥情報がわかる。
TEL:1206-523-4483、1503-292-6855
ウェブサイト:www.seattleaudubon.org、 www.audubonportland.org
■Mt. Rainier National Park
レニア山では高地に住む鳥達が見られる。
TEL:1360-569-2211
ウェブサイト:www.nps.gov/mora/index.htm
■Skagit River Bald Eagle Natural Area
11月から川に上ってくるサケを狙って白頭ワシが集まって来る。1月下旬~2月にその数はピークに。2006年2月4・5日にはUpper Skagit Bald Eagle Festivalが開かれる。
ウェブサイト:http://skagiteagle.org
■Washington Mutual Tower
毎年、シアトル・ダウンタウンにあるワシントン・ミューチュアル・タワーにはハヤブサが巣を作る。子育ての様子も見られる。
ウェブサイト:www.frg.org/frg/seattle.html
Akiko Kosugi Phillips サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジでLandscape & Horticulture(園芸学)のDegreeを取得。シアトル日本庭園でのインターンシップを経て、現在は地元のランドスケープの会社で働く。最近、自ら庭の手入れのビジネスも立ち上げた。 |
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