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宮崎駿ワールド in USA

アメリカ・ノースウエスト自然探訪

2002年11月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

11月!「冬の曇天と雨がなければ、ノースウエストはこの世の天国」なんて言う人もいるが、冬場の雨や雪があってこそ“evergreen”の環境があり、おいしい水や豊富な電力もまかなわれているのだ。しかし、「11月ばかりはアウト・ドアもあんまり盛り上がりませんよ」と言う隊長と今月号のテーマの相談をしていたところ、あの宮崎駿のアニメの世界とアメリカの自然風景とがとても似ているという話を聞き出した。そこで、今月号は、我らが隊長による、宮崎アニメのイメージをアメリカの自然景観と重ね合わせて紹介しよう。

いまや世界を席捲する感のある日本アニメ界の旗手、宮崎駿監督の描き出す原始景観は、ため息が出るほど美しい。彼のアニメ・シーンの多くは、ヨーロッパやオーストラリアがモデルになっている言われているが、私は宮崎駿がアメリカの自然も見て回ったことがあるのではないかと思うことがある。なぜなら、作品を見ていて「あれ、なんか見たことあるな?」とか、各地の自然をキャラバンをしていて「これって、あの場面だ」と思うことが一度や二度ではなかったからだ。

「もののけ姫」のシシ神の森を思い出してほしい。このシーンの美しさとそっくり、あるいはそれ以上に神秘的な光景が展開するのは、世界遺産であるオリンピック国立公園のホウ・レイン・フォレストの太古の森だ。あたかも木霊があちこちに棲んでいるようだし、シダ、苔のびっしり繁茂した林床は天然の分厚いスポンジの山である。森の底を流れる川は、どんなに雨が降り続こうと川底まで澄んだ水が流れている。ここは高緯度でありながら温帯雨林(ジャングル)なのだが、驚くことに、この谷を上がって行くと氷河があり、下るとすぐに海がある。こんな谷は世界中でここしかない。

また、シシ神の森の谷に似ているのが、コロンビア・ゴージにあるオネオンタ・ゴージ。この谷は浅く、まるでユタ州南部のザイオン国立公園のナロウズのミニコピーのようである。しかしながら岸壁の迫り具合、苔むした風情といい、ザイオンよりもこちらのほうがシシ神の森の谷のイメージに近い。ポートランドから1時間足らずで行ける深山幽谷である。

次に挙げたいのは、「天空の城ラピュタ」の終盤に、空に浮かぶ伝説のラピュタ城の庭園。このイメージにぴったりなのは、ポートランドのグロットである。エレベーターで岩山の上に出ると、麓とは一転して明るい空中庭園と瞑想堂が現れる。岩壁の上からは眼下にポートランドの市街地、その上を空港に離発着する飛行機、その向こうにはセント・へレンズ山が見える。ダグラスファーの林と花園の庭園には水が流れ、木立の向こうから今にもラピュタのロボットが歩いてきそうだ。

ノースウエストを含めたアメリカにある、アニメ・シーンのイメージをかき立てる風景の場所を右表にまとめてみた。雨の休みの日には家族で宮崎アニメを見るのも一興だが、貴重な晴れ間を逃さず、あなたの宮崎ワールドを見つけに出かけてみてはいかがだろうか?


宮崎アニメのイメージを体験できる場所

もののけ姫

シーン似た風景
シン神の森ホウ・レイン・フォレストWA
シン神の森の谷オネオンタ渓谷(コロンビア・ゴージ)OR
シン神の森の谷ナロウズ(ザイオン国立公園)UT
エミシの村の山々(冒頭)ハリケーン・リッジ(オリンピック国立公園)
ノース・カスケード国立公園
WA
WA

天空の城ラピュタ

シーン似た風景
ゴンドアの谷グレーシャー国立公園MT
ラピュタの庭園グロット(ポートランド)OR
ティディス要塞フォート・スティーブンスOR
パズーの家アズテク遺跡国定公園NM
鉱山の汽車フォール・シティーの汽車WA
ラピュタの中心の樹アニマル・キングダムの生命の樹(*)
(*)ディズニー・ワールド内にある。この「樹」は人工。
FL

風の谷のナウシカ

シーン似た風景
腐界の底ペトリファイド・フォレスト国立公園AZ
星へ行って来た船の残骸アストリアの難破船OR
オーム登場オレゴン・デューン
ホワイト・サンズ国定公園
OR
NM
トルメキアの巨大飛行艇スプルースグース(世界最大の飛行艇)OR

紅の豚

シーン似た風景
アドリアナ号ミネアポリス空港内のモックアップNM
ポルコの飛行艇の装置ミネアポリス空港内のモックアップNM
パイロットたちの昇天カールス・バッドのコウモリ群の飛翔NM

 

■Hoh Rain Forest
オリンピック国立公園内にあるHall of Mosses Trail(0.8マイル/徒歩40分)を行くと温帯雨林が見られる。(詳しくはキャラバン『YOUマガ』9月号の「#3トレイルウォーク」参照)

Oneonta Gorge(Columbia River Gorge, National Scenic Area)
ポートランドより約1時間。Columbia Gorge Scenic Hwy.(旧道)でMultnomah Fallsの東2マイルのところ。往復約1マイルの渓流歩きのトレイル(1~2時間)。できれば足首までのハイキング・ブーツなどを履いて、足回りをしっかり装備すること。水に入ってもいい服装で出かけるように(着替えを車に積んでおくこと)。足元が悪いので、小さな子供連れにはおすすめできない。URL:http://www.fs.fed.us/r6/columbia/

■The Grotto
ポートランド空港からI-205をダウンタウンに向かう途中、正面に十字架のある岩山が見える。その岩窟を中心とした64エーカーの広い野外聖堂がグロット。この岩山の基部は、岩窟にローソクというまるで黒魔術のような光景が広がり、中世ヨーロッパのキリスト教のオドロオドロシイ雰囲気がほのかにうかがえる。エレベーターで上部の空中庭園と瞑想堂へ。

NE 85th & Sandy Blvd., Portland, OR
TEL: 503-254-7371
URL:http://www.thegrotto.org/toc.htm

宮崎駿アニメ作品
「となりのトトロ」から「千と千尋の神隠し」まで、宮崎アニメ作品に一貫して流れているのは自然賛歌、生き物との触れ合い。美しい自然の風景は、制作に携わる情熱溢れるたくさんのアニメーターたちによって枝の1本、葉の1枚ずつ描かれている。ディズニー・アニメがどんなに最新のCG技術を駆使しても及ばない”Art”の領域である。かたや、受け手の宮崎ファンの実態はと言うと、監督の意に反して「生き物が怖い」、「虫は大嫌い」、「本当の自然は苦手」の子供たち(若い大人も)が日本では増えてきている。彼らにとっての自然は、暑くも寒くもないアニメやテレビの中で体験することで事足りている。そして現実の生活では得てして病的に清潔好きだったりする。

ベルリン国際映画祭でグランプリを授賞した際のインタビューで宮崎駿監督は語った。「……自分たちもビデオを売っているが、ビデオを見たりゲームをして何時間もテレビの前にいることで、まともな子供が育つわけがない。喜ばれれば喜ばれるほどジレンマを感じる。この国の一番大きな問題だ」

URL:http://www.ntv.co.jp/ghibli/


Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。