2008年05月号掲載 | 文・写真/小杉晶子
美しい小島が点在する海原を、クジラやオルカが優雅に遊泳。
そして草原には、真っ青に咲き乱れるカマス・リリー。
今回はわたくし小隊長が、サンファン諸島で自然を探索!
早目キャンプ
「今年は、まだ行ったことがないサンファン諸島でキャンプがしたーい!」とのわたしの願いに、夫は即座に返答しました。「じゃあ、来週末行こう!」「へっ?」まだ、4月下旬ですよ? キャンプって、夏のものではありませんか? 夫はそれに続きます。「いいや、キャンプはメモリアル・デー以前に限る!」
確かにシアトルのキャンプ人口は膨大なもので、夏休みにシアトル近辺のキャンプ地でキャンプをするのは、予約なしではほとんど無理。多くが家族連れや若い人達になるので、まぁ、にぎやかではあるけれど、静かに自然を楽しみたい大人のキャンプはできない。私はにぎやかなほうがいいけど、夫はビール片手に静かに自然を楽しみたい派なので、それからというもの、いつもうちのキャンプはメモリアル・デー以前、レイバーズ・デー以後となりました(シアトルでは5月の最終週末を境に、うわぁっとキャンプ人口が増え、9月の第1週末後にすっと減ります)。
サンファン諸島もしかり。ここは人気のある島なので、夏のキャンプは前々からの予約なしでは不可能に近いのです(キャンプ場が少ないので)。……ということで、今回は、わたくし小隊長が5月初旬に「サンファン諸島・ちょっと早めの1泊キャンプの旅」をした時の模様をお届けします。
▲ライム・キルン州立公園内にある灯台。運が良ければ、ここからオルカやクジラが見られるかも
▲サンファン島南部に位置するアメリカ側のキャンプ跡。今も領土を奪い合った時に使っていた建物が残る
▲北部にあるイギリス側のキャンプ跡。ここは木が切られておらず、うっそうとした森の中にある
▲ノースウエストの自生種、カマス・リリー。4、5月になると、草原を真っ青に染める
たくさんの小島からなるサンファン諸島
シアトルの避暑地としても有名なこの島々には、すばらしい景色と、ダイナミックな地球の息吹を感じられる魅惑の自然が残されています。小さな島々から成り立っているサンファン諸島。その中でも、サンファン島、ロペス島、オルカス島は、観光地として知られています。今回はいちばん大きなサンファン島でキャンプをしてみました。
シアトルから北へ車を約2時間とばし、フェリーの玄関口アナコーテスへ。フェリーにはサンファン島への直行便と、ほかの島にも寄港するものがあるので、事前に運行状況を調べておくと良いでしょう。
小さい島々をゆっくり巡回するように進むフェリー。島を間近に眺めることもできるので、まるでクルーズをしているようにも感じます。深い緑色をした海から突然オルカが……なんてこともあれば、もっと素敵なんだろうなと、私の想像は果てしなく続いていきました。
サンファン諸島の歴史
約1億年前のサンファン諸島は、長年の間、山脈として成り立っていました。氷河期になると、壮大な氷河によって山々は埋め尽くされましたが、その後、長い時間を掛けて氷河は溶解。ユニークかつ複雑に入り込んだ入り江の数々ができ、今のような絶景をもつ島々ができ上がりました。
サンファン諸島の歴史の話で有名なのは、やはり「豚戦争(Pig War)」でしょう。
1853年、イギリスのハドソンズ・ベイ・カンパニーは、ここに大きな農場を設立しました。この時期、イギリス軍とアメリカ軍は、この土地を境に緊迫した関係が続いていましたが、1859年にアメリカ人がイギリス領土の近辺にやって来て農場を作り始めます。イギリス側はすぐに退去を命じましたが、「ここは、アメリカの領土だ」とアメリカ側は抗議。そしてある日、イギリス側の農場にいた1匹のブタが、アメリカ側のジャガイモ畑を荒らしたため、アメリカ側はそのブタを撃ち殺します。それを聞いたイギリス側が、アメリカ側に賠償金を要求。しかしアメリカ側はそれに対応せず、裁判へと持ち込みました。その後、島の北部にイギリス軍、南部にアメリカ軍が陣を取り、血を流すような戦いはなかったものの、領土争いが始まります。そして12年後の1871年、アメリカ側がこの地をワシントン州の一部として得たのです。
海に沈む夕日を眺めながら
5月初旬。夜は少しまだ肌寒いですが、たき火があれば大丈夫。今回わたし達が泊まったのは、「サンファン・カウンティー・パーク」というキャンプ場。島の西側に面しており、すばらしい海の景色を見ることができます。キャンプ場はほとんど貸切状態。いちばん海が見えやすいサイトにテントを張り、キャンプの準備を終えると、残り半日は島の西部へと探索に出掛けました。
島の西側のライム・キルン州立公園には古い灯台があり、夏になるとそこからオルカやクジラが見えるそうです。わたし達が行ったころは、まだシーズンではなかったため見られませんでしたが、ここからの海は本当に眺めの良いこと! ピクニック・テーブルに座って、潮風に吹かれながらサンドイッチにかぶりつきました。あの真っ平らの大海原に大きなクジラが浮かび上がる光景を想像し、なんて素敵なんだろう……と、ドキドキしてきました。いつか見てみたい光景です。
キャンプ場に戻って食事の支度をし、たき火を始めると、近所に住むご年配の夫婦がディナーとワインを持ってキャンプ場にやって来ました。ピュージェット湾にゆっくりと沈む真っ赤に染まった夕日を見て、ゆっくりおしゃべりしながらの夕食。なんてぜいたくなのでしょうか。ダウンタウンの高級レストランよりも、こういうのが本当のぜいたくなのかもしれないと思いました。薄いオレンジ色の空の中、夕日がゆっくり海へ落ちていく。そして、たき火をいじりながらゆっくり深呼吸。……忙しい日常から逃れられる瞬間です。
草原で、現代のイソップ物語!?
翌日は、島の南部にあるキャンプ地へと車を走らせました。草原が大きく広がっていて、すがすがしい風が海へと吹いていきます。まだ青々しい草の中に、ノースウエストの自生ユリ、カマス・リリーが咲き乱れ、それはまるで、島の先に見える海の色のようです。
こんなにだだっ広い草原を歩いていると、本当に気持ちが良いものです。ノースウエストは、どこに行っても針葉樹の大きな木がある、うっそうとした場所が多いせいか、このように何もない平原を歩くと、心もすっきりした気持ちになるのかもしれません。
遠くを見ていると、何やらピョンピョンと飛んでいるものに気付きました。「ピーターラビット!」。そう、野ウサギです。そして、なんとその後ろからキツネがじりじりと近付いて来ているではないですか! どうやらこの地に住んでいるようです。ウサギは素早く巣穴に入り、外をうかがっています。キツネはあっちへウロウロこっちへウロウロ……。どうやら朝食を探しているみたいです。まるで、イソップ物語の光景のようなウサギとキツネ。ウサギはシアトル内でもよく見掛けますが、キツネは少し山に入らないと見られないので、このような光景が見られてとてもうれしかったです。うちの柴わんこ、ハチも鼻を鳴らして興奮気味。自分に似たヤツだな、なんて思っていたのでしょうか。
フェリーの着くフライデー・ハーバーは、現在建築ラッシュ。年々増え続ける観光客のために、ホテルなどの宿泊施設を造っているようです。フェリー・デッキの周りは、おしゃれなブティックやおみやげ屋さん、レストラン、ギャラリーなどがあり、いつもたくさんの人でにぎわっています。
キャンプのお嫌いな方は、ホテルでゆっくりするのもいいでしょう。サイクリング、ホエール・ウォッチング、シー・カヤック、ハイキングなどの、たくさんのアクティビティーが楽しめる施設やお店も用意されています。 ノースウエストに住みながら、サンファン諸島にはまだ行ったことがないというあなた! ぜひ1度は訪れてみてはいかがでしょうか?
▲まさに今、キツネがウサギに飛び掛かかろうとしている!
■ケンモア・エアー
シアトル・ダウンタウンから出発して、サンファン諸島まで飛行機でたったの45分。日帰りホエール・ウォッチングのプランもある。
Kenmore Air
ウェブサイト:www.kenmoreair.com
■オルカス・アイランド・イクリプス・チャーター
オルカス島随一、最速&最新の船でホエール・ウォッチングが楽しめる。結婚式などにも利用可能。
Orcas Island Eclipse Charters Inc.
ウェブサイト:www.orcasislandwhales.com
■サンファン諸島観光局
サンファン島のホテル、キャンプ、アクティビティーや、オルカス島、ロペス島など、サンファン諸島内の情報が得られる。
San Juan Islands Visitors Bureau
ウェブサイト:www.guidetosanjuans.com
■サンファン・サファリ
サンファン島ではいろいろなアクティビティーが楽しめるが、やはり人気はホエール・ウォッチング。このツアー会社では、見られる時期を見計らって船をチャーターしてくれる。
San Juan Safaris
ウェブサイト:www.sanjuansafaris.com/
■サンファン・カウンティー・パーク
サンファン島内のキャンプ場。サンファン島は、観光客数のわりにキャンプ場が少ないので、夏はしっかり予約を。4、5月は空いていることも多い。
San Juan County Parks
ウェブサイト:www.sanjuanco.com/parks/camping.aspx
Akiko Kosugi Phillips サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジで園芸学(Landscape & Horticulture)の学位を取得。シアトル日本庭園でのインターンシップ、エドモンズ市の公園課での仕事経験を経て、現在は、小杉剪定サービスとして庭の手入れを行うビジネス・オーナー。年に2回ほど小杉礼一郎氏の代わりに「ノースウエスト自然探訪」の執筆を務める。 |
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