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スプリング・ウォーター・トレイル(19th St.,~I-205)

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2009年01月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

このトレイルを歩いていくと、気持ちがゆるゆると和んでくる。
それはこの沿線風景が原野から街へゆっくりと変わっていったからだろうか? 
ポートランド東郊の「憩い道」を探訪する第3回。

トレイルに沿って

20世紀前半の北西部の街が醸していた落ち着いた雰囲気と自然がここには多く残っている。
スプリング・ウォーター・トレイルとは切っても切れない風景として、送電線の鉄柱とクリークに沿って進んでいこう。この区間もトレイルはすべて舗装され、駐車場、トイレ、途中の展望台、ベンチ、サイン・ボードが完備されている。今回は19th St.から東へ向かう。歩いてもいいが自転車がオススメである。

歩き出しの辺りがマイルポスト5だ。ここからすぐに陸橋でジョンソン・クリーク、ハイウェイ(McLaughlin Blvd.)とアムトラックの線路の上を通過する。この陸橋の上からは、広く遠くまで見渡せてすこぶる気持ちが良い。左手のハイウェイ沿いに、オレゴンの名産品ペンデルトン毛織の工場とそのショップ(Pendleton Mill Store)が見え、そこへはトレイルからアクセスできる。その北1マイル足らずの所にCrystal Springs Rhododendron Garden、Westmoreland Park、Reed Collegeの緑の一帯がある(Information参照)。

陸橋を過ぎて間もなくすると、今度は両側の住宅地がせり上がってきて、逆にトレイルが切通しになる。さすがは鉄道線路跡らしい変化だ。切通しを過ぎてジョンソン・クリークを渡る。下流(左手)にフィッシュ・ラダーと堰の跡があり、上流(右手)にはTideman Johnson Nature Parkがある。

メインのトレイルからサブ・トレイルが枝分かれしているので入ってみよう。このパークは河床に近く、増水時には流れの中に入ってしまう。柳科の木などが茂り、いかにも水辺の景色だ。辺りの木には鹿の食害もあるようで、ネットで保護されている。

さらにトレイルを進むと45th St.と交差する。ここは駐車場が広く、トイレとベンチがあって、とても便利なトレイル・ヘッドだ。これを過ぎると左のJohnson Creek Blvd.の車道と並行してトレイルは直進する。マイルポスト7の交差点にあるWichita Feed Storeはランドマークのひとつになっている。その次の交差点には、かつての電車路線で現存する唯一の古い駅舎、Bell Stationが建っている。ここを過ぎてから、道はイーストサイドの住宅街を真っすぐに突っ切っていく。家の屋根越しに右手(南東方向)にはスコット山(Mt. Scott)が望める。この丘から先住民の遺物が発掘されている。この辺りは平野ではあるが、ニキビのようなミニ火山群※1の山あいを抜けてトレイルは続く。雑然とした商工業エリアを過ぎてからハイウェイI-205をくぐる。

トレイルの測道から川を眺めるご家族
▲スプリング・ウォーター・トレイルのこの区間は、サブ・トレイルとでも呼ぶべき側道が多く設けられている
続くトレイル…
▲スプリング・ウォーター・トレイルはコロンビア河の孫支流ジョンソン・クリークに沿ってポートランドから東へ延びている
ビーバーに食いちぎられた木
▲Tideman Johnson Nature Park ではビーバーのアニマル・トラック(ここでは食痕)が何カ所かで見られる


ジョンソン・クリーク

ジョンソン・クリークの源流は、隊長の家のすぐ南側より発し、家の横を通っている。ほんのひと跨ぎできるような小さな川幅だ。スプリング・ウォーター・トレイルと絡み合うように流れ、北から西に向きを変え、最後は一人前の川となって19th St.のトレイル・ヘッド(マイルポスト5)のすぐ南でウィラメット川に注いでいる。

このクリークは、ポートランドの市街地を流れる河川としては珍しく、最後まで残った“Free Flowing Stream”(ダムなどの人工物で流れを調整されない河川)である。90年代の中頃、春先の大雨と雪溶けが重なる時などには流域のあちこちで洪水が起きた。このためポートランド市はこのクリークの氾濫域を積極的に市有地化した上で、増水の時の遊水地として自然のままで残した。それには水辺の生態系と水質を保全する目的もあった。ジョンソン・クリークとスプリング・ウォーター・トレイル一帯は、水辺の密な自然景観を構成し、トレイルを訪れる人々が自然景観を楽しみ、観察できる格好の場となっている。

ここには川の流れと、氾濫域の遊水地、肥沃な土壌の湿・草原と林が続いている。そのため都市の住宅地でありながら、かなり多い種類の野生生物が棲んでいる。以前はこの川にはサーモンが遡上していた。Tideman Johnson Nature Park※2のすぐ下流には1934年に作られたフィッシュ・ラダーと堰があったが、今はその痕跡をとどめているに過ぎない。トラウト、ザリガニなど水辺の生き物のほかに、ビーバーがいる痕跡がある。※3鳥類は鷺、鴨、キツツキなど、たくさんの種類が見られる。アライグマや、オポッサムのほか、大型動物としては尾黒鹿、ヨーテ、山猫が観察されている。

40マイル・トレイルのことなど

「ポートランドの東側の公園を電車で結び人々を運ぶ」というのが、1903年に電車線を建設した時の構想だった。この前世紀の廃線跡にスプリング・ウォーター・トレイルができたことは前回お伝えしたが、その100年前のロマンは「40マイル・トレイル・ループ」構想となって時代を超えて引き継がれている。

実際、このトレイルの周辺には、それぞれに持ち味のある自然と公園が並んでいる。※4スプリング・ウォーター・トレイルで今後整備される予定のセグメントは、ポートランド・ダウンタウンから南5マイルまでのウィラメット河畔で、今回紹介した部分のトレイル・ヘッド19th St.までだ。これが完成すれば「スプリング・ウォーター・コリドール・トレイル」という長い名前の20マイルに及ぶ長いトレイルが全線通じ、40マイル・トレイル・プロジェクトの幹線ができ上がる。ウィラメット川右岸には、大きな遊水地であるOaks Bottomなどがあり、景色が良くなかなか面白い。トレイルが完成した際には、またこの誌面で紹介したい。

もうひとつ。スプリング・ウォーター・トレイルの記事を3回にわたって取材をし、くっきりと浮かび上がってきた大きな事柄は「電車」の過去と、将来だった。一度は姿を消した前世紀の乗り物が、今再び見直されてきている。ポートランドの電車網Maxの支線と市内の路面電車の路線はどんどん伸長されている。それは、このポートランドだけの動きでなく、21世紀の世界各国に共通する都市の変化だろう。資源と環境の今日的状況もこれを後押ししている。この先、都市の公共交通機関で、電車のウエートはますます大きくなるだろうし、人々の移動手段も変わり、きっと街の趣きも変わってくるのだろうと思う。

北西部を含め、西部諸州は人口が増えつつある。歴史を感じさせるアメリカの東部の景色と違い、つい最近まで草原だったような場所に、突貫工事で作られたような新興住宅地やショッピング・エリアが次々とできている。うまく表現できないのだが、隊長にはどうもしっくりこない落ち着きの悪さを感じてしまう。そんな時にこのスプリング・ウォーター・トレイルの景色が心に思い浮かぶ。人を引きつける何かがきっとここにはあるのだと思う。

※1 Mt.Scott、Powell Butte、Mt.Tabor、Kelly Butte、Rocky Butte……いずれもポートランドの東側の住宅街にあるミニ火山。
※2 Tideman Johnsonは初期の開拓移民。このNature Parkを含む約6エーカーの土地を所有していたが、1942年にポートランド市に寄付した。クリークとParkの名前はこの家族に因んで付けられた。

※3 18、19世紀ーかつての開拓時代ーには、北西部全域の平野、野山にビーバーが無尽蔵(と当時の人達には思えただろう)に生息していた。19世紀に入って欧州向けの輸出商品として大量に捕獲されて生息域は激減する。ビーバーは警戒心の強い動物で人の気配の多い場所では生息しにくいはずだが、戻ってきているのだろうか? 同じく、水辺の動物のカワウソ(Otter)は、人への警戒心が少なく、ビーバートンなど、ポートランドの西側の宅地・商業地の開発が進んだ地域でも多く見られるが、ジョンソン・クリークでは目撃されていないようだ。

※4 主だった所はOaks Bottom、Oaks Park、Westmoreland Park、Crystal Spring Rhododendron Garden、Powell Butte、Gresham City Parkなど。

Bell Stationと書かれた駅舎
▲唯一現存する電車時代の古い駅舎、Bell Station。現在はそれが商店名になっている
陸橋
▲マイルポスト5~6の区間はハイウェイ、ジョンソン・クリーク、アムトラック線路の3カ所を陸橋で跨いでいる
送電線と並行する道
▲元々、電力会社の敷設した電車の路線がトレイルに生まれ変わったため、道はどこまでも送電線に沿っている。32nd St.の陸橋より撮影
住民の皆さん
▲天気の良い日は沿線の住民達が三々五々トレイルに出てくる。切通しの上を通る32nd St.から撮影


Information

■スプリング・ウォーター・コリドール・トレイル
トレイルを管理するポートランド市公園局のオフィシャル・サイト。冒頭にある地図(PDF版)は実際にトレイル・ヘッドに置いてあるパンフレットのものだが、自宅からのアプローチを知りたい時にとても役立つ。
Spring Water Corridor Trail
ウェブサイト:www.portlandonline.com/parks/finder/index.cfm?action=ViewPark&PropertyID=679

■40マイル・ループ
ポートランドと周辺の街を延長40マイルのトレイルで結ぼうというメトロ・エリアのNPO法人によるサイト。遠大な計画ながらも半分以上のトレイルが実現している。そのうちこのスプリング・ウォーター・トレイルの区間が最も長い。
The 40-Mile Loop Land Trust
ウェブサイト:www.40mileloop.org/index.html

■クリスタル・スプリングスしゃくなげ園
トレイルのマイルポスト5~6の北約1マイルにあるしゃくなげ公園。Reed Collageの隣にあり、同じくポートランド市公園局が維持管理している。自生種、園芸種取り混ぜて、春には園内いっぱいに色とりどりのしゃくなげが咲き乱れる。
Crystal Springs Rhododendron Garden
ウェブサイト:www.portlandonline.com/parks/finder/index.cfm?PropertyID=27&action=ViewPark

■ウェストモーランド・パーク
周りはジョンソン・クリークから続く林に囲まれたゴルフ場で、西側は球技場など広いグリーンと湖面のオープン・スペースになっている。
Westmoreland Park
ウェブサイト:www.portlandonline.com/parks/finder/index.cfm?PropertyID=852&action=ViewPark

Reiichiro Kosugi
1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。