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歩くスキーで雪の大自然を楽しむ

アメリカ・ノースウエスト自然探訪
2003年02月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎

カスケード山脈の麓に広がる、深い緑のオールドグロス(原生林)。冬になると、ここは林床の雪景色と相まって静かで清々しい墨絵の世界となる。ノースウエストの冬は、その美しい雪の野山へ家族で出掛け、遊ぶ絶好の機会だ。今回のエコ・キャラバン隊は、ノルディック・スキー(クロスカントリー・スキーなど歩くときにかかとの上がるタイプのもの)で味わう、冬の大自然の楽しみ方を紹介しよう。

スポーツの王様・スキー

スポーツの王様・スキー”Ski, the King of Sports”というスキーへの賛辞がヨーロッパにある。「そこまで言う?」と思う人もいるかもしれない。しかし、息を切らせて高原を駆け上がり、広大な山肌に思いのままにシュプールを切って滑り下りる爽快さを覚えたとき、森を抜け湖畔のトレイルにゆっくりスキーを滑らせ、心地よい疲労感に浸るとき、今滑り下りてきた尾根に自分たちのたどって来たトレースを振り返り、確かな充実感に胸が満たされていくとき……、あの賛辞は、同じように至福の時間を体験した人たちが「スキー最高!!」と感極まって叫んだのだろうなあと思えてくる。

ノルデイック・スキーを履いて雪の野山に出てみよう。するとどうだ、歩く、走る、登る、滑る、スケーティング。あらゆる移動のテクニックを駆使して、雪のないシーズンの数倍の広さを動ける。まるで魔法の力を得たようだ。


奥深いクロスカントリー

スキーを履いて、歩くときにかかとの上がるノルディック・スキーには、大きく分けると2種類ある。滑走の性能を上げるためにエッジがなく、細く軽い板でできたクロスカントリー・スキーと、滑降の性能も備えたエッジのあるテレマーク・スキーだ。ちなみに隊長は、オールラウンドで楽しめる後者の愛用者。

クロスカントリー・スキーの楽しみ方は、いろいろだ。すべてがスポーツの範ちゅうに入るかどうか分からないが、写真撮影やスケッチのための移動、ジョギング代わり、犬の散歩、バードウォッチング、野生生物観察(アニマル・トラック探し)なども、クロスカントリー・スキーを使うと行動範囲も楽しみ方の幅も広がる。また、エクササイズとしても最適で、家やトレーニングジムで、なまじルームランナーの上を走っているよりも、ずっと爽快で解放感がある。

クロスカントリー・スキーのもうひとつの良いところは、スキーの経験やレベルにさほど関係なく始められ、誰でもすぐに楽しめることだ。人気のあるコースは定期的にグルーミング(雪上車でコースの雪面を平坦に滑りやすく、ならす作業)がされているし、コースのサインも整備されている。そして場所とコースによっては、高低差や斜度、距離があり、上級者も十分に楽しめる奥の深さがある。


こんなにもある雪遊び

クロスカントリー・スキーのできる場所なら、ほかにもいろいろな雪遊びができる。スレッド(そり)、ディスク(プラスチックでできた円盤状のそり)、チュービング、スノーシューなどなど。特に、大きなタイヤチューブに乗って斜面を滑るチュービングは子供から大人まで楽しめる。一家で夢中になって雪の中を遊び回っていると、いつしかあなたもノースウエストの冬を存分に楽しんでいることに気が付くだろう。


Informatio

■トレイル(散策路)の選び方
事前にガイドブック、地図、パンフレットなどで、コースの難易度、所要時間をよく調べ、メンバーの最年少、あるいは初心者に合わせてコースを決める。初めての場合は、まずは”Easy”レベルの短いコースから始めること。十分楽しいし、様子が分かってきてからレベル・アップしていけばいい。もちろん、出掛ける前には天気予報もチェックしよう。中・上級のコースでは、山道のトレイルを登降するところが出てくる。V字に足を開いて登るところや、制動を利かせて下るような技術も要され、初心者には難しく、すすめられない。トレイル・ヘッドには案内板や解説板、トレイル・マップが掲げてある。幹線はだいたいが林道上にあり、コースの両側の木には連続してサインが付いていて、霧が出てもコースを見失わないように配慮されている。

■クロスカントリー・スキーを行なう際の注意
防寒と発汗を考えて服装を選ぶ。日が差すこと、汗をかくこと、雨が降ること、雪になること、風が吹くことなどを考慮に入れて準備する。薄手の重ね着が有効。雨具のほか、帽子、手袋も持参すること。車に着替え一式と温かいココアなどを積んで置くと、戻ってきてから快適だ。

散策時に持参するべきものは、地図、コンパス、水、携帯食(スナック、チョコレートなど)、雨具、フラッシュライトなど。トレイルを歩く前には足腰のストレッチを十分に行おう。また、道の分岐や合流点では後の人を待ち、サインで現在位置を確かめながら歩き、トレイルを外れないように。当たり前のことだが、野生生物には餌を与えないこと。

■レンタルほか
スポーツ・ショップや途中の町、麓の町でレンタルできる。どの店でも、クロスカントリー・スキーの靴、板、ポール一式で1日、子供用$10、大人用$12ぐらい。スノーシューも同じぐらい。1泊2日はプラス$5程度。こういった店では中古品も売っている。1日使って気に入ったギアを買うこともできる。トレイルマップも店で手に入る。

■その他
タイヤチェーンのほか、軍手、古毛布を車に積んでおくこと。ガソリンも十分に。トレイル・ヘッドに駐車する際は、”SNO-PARK”という駐車のパーミット(除雪協力費)が必要。1日$5、もしくは1シーズン(11/15~4/30)$20で購入できる。立ち寄った先のレンタル・ショップか、ガス・ステーション、DMV(Department of Motor Vehicles / 運転免許試験所)などで購入しておくこと。主だったトレイル・ヘッドには、トイレが設置されている。

■おすすめのトレイル
(以下Mt. Hood山麓を主に紹介。ワシントン州に関しては下記サイト参照のこと)

  • トリリウム・レイク・ループ
    Trillium Lake Loop
    4.5マイル(ループ)初・中級向け
    ダグラスファーの林を抜け湖畔を一周するコース。晴れた日には雪をまとったMt.Hoodが美しい。ポートランドからのクロスカントリー・スキー場として人気No.1。
  • スノーバニー・トレイル
    Snowbunny Trail
    2マイル(往復)初級向け
    スノーバニーのチュービング場の奥へと続く林道のトレイル。チュービングもできる。
  • アルパイン・トレイル
    Alpine Trail
    4.4マイル(下りの片道)上級者向け
    Mt. Hood の南斜面を、ティンバーライン・スキー場から麓のGovernment Campに向かって滑る林間の滑降コース。

■問い合わせ先と参考サイト

Reiichiro Kosugi

1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。